日本男子プロゴルフツアーを、新たな成長産業へ
根岸 友喜さん
株式会社ジャパン・プロゴルフツアー(J-TOUR) COO/最高執行責任者
市場規模約1.4兆円、競技人口約900万人。日本のゴルフ市場は、スポーツ産業の中でも最大級の規模を誇る。しかし、世界で活躍する選手を数多く擁する日本男子プロゴルフツアーは、その価値を十分に社会へ届け切れているとは言い難い。
日本男子プロゴルフツアーが持つ価値を、もっと世の中へ。その実現に向けて誕生したのが、株式会社ジャパン・プロゴルフツアー(J-TOUR)だ。
2026年7月、プロ野球界で「パ・リーグTV」の成長を牽引してきた根岸友喜氏が、J-TOURのCOOに就任した。リーグ全体の価値向上に取り組んできた経験を武器に、日本男子プロゴルフツアーの新たな未来づくりに挑んでいる。
なぜ今、日本男子プロゴルフなのか。そして、J-TOURは何を変えようとしているのか。根岸氏に話を伺った。
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日本男子プロゴルフツアー改革の陣頭指揮を執る、J-TOUR COOの根岸友喜氏[写真]中野賢太
市場規模約1.4兆円に秘められた可能性
「マーケットという観点で見ると、日本のゴルフ市場は非常に大きい。日本男子プロゴルフツアーにはまだ大きな成長余地があると感じていました」
そう語る根岸氏は、これまで約17年間プロ野球ビジネスに携わってきた。その中で一貫して向き合ってきたのが、リーグ全体の価値をどう高めるかというテーマだった。そんな根岸氏が次の挑戦の舞台として選んだのが、日本男子プロゴルフツアーだ。
「例えば、海外で活躍している日本人選手はたくさんいます。でも、その事実をどれだけの人が知っているでしょうか。問題は実力ではありません。素晴らしい選手は本当にたくさんいる。ただ、その価値が十分に世の中に伝わっていないんです」
日本男子プロゴルフツアーは長年多くの関係者に支えられてきた一方で、デジタル化やエンターテインメントの多様化が進む中、魅力を継続的に発信し、新たなファンとの接点を生み出す仕組みが十分とは言えなかった。そうした危機感から始まったのが、日本男子プロゴルフツアー改革である。
これまで日本男子プロゴルフツアーを運営してきたJGTO(日本ゴルフツアー機構)が競技・選手管理に専念し、J-TOURがマーケティングやメディア事業などを担う新体制がスタートした。さらに、日本産業推進機構(NSSK※)がパートナーとして参画し、投資や経営面から改革を後押ししている。
※日本産業推進機構(NSSK):企業・産業の成長支援を手掛ける投資会社。日本男子プロゴルフツアー改革のパートナーとしてJ-TOURに参画している。
すべての選手に、光を当てる
「私は、すべての選手がスターになる可能性があると思っています。だからこそ、彼らの魅力や挑戦の過程を届けたいんです」
根岸氏がそう語る背景には、一人ひとりの選手にもっとスポットライトが当たるべきだという信念がある。
「試合数の拡大や賞金総額の増加は重要です。ただ、それ自体をゴールにしているわけではありません」
J-TOURが実現したいのは、選手たちの挑戦が正当に評価される市場だ。そのためには、選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりに加え、多くの人に選手を知ってもらうことも欠かせない。
「今の男子プロゴルフツアーは、試合結果や順位で語られることが多い。でも、本当に面白いのは、選手が歩んできた過程や挑戦なんです。どんな環境で育ち、どんな葛藤を乗り越え、何を目指して戦っているのか。そうした背景を知ることで、選手の見え方は大きく変わります」
プレーの結果だけでは見えないストーリーに触れたとき、人は選手に共感し、応援したくなる。J-TOURは、そうした接点を増やそうとしている。
すべての選手が主役になれる世界を、J-TOURは目指している[写真]中野賢太
応援したくなる、ストーリーを
「試合がある週だけではなく、365日何かしらのコンテンツを発信する。選手の挑戦や成長を継続的に届けたいと考えています」
いかに選手やツアーと接点を持ってもらうか。その発想の原点には、リーグや選手の価値を発信し、ファン層の拡大に取り組んできたパ・リーグTVでの経験がある。
「野球であれば、パ・リーグTVを見れば選手も過去の好プレーもすべて分かる。でも男子ゴルフはそうなっていない。ここに来れば男子ゴルフのすべてが分かる。そんな場所をつくりたいんです」
その実現に向けJ-TOURが進めているのが、メディアセンター構想だ。
「試合映像はもちろん、選手のストーリーやドキュメンタリー、レッスンコンテンツ、クラブや用具の情報まで、男子プロゴルフツアーを楽しめる入口をこれから数多く用意していきます」
「重要なのは、入口設計とコンテンツの蓄積です。まずは偶然でもいいので知ってもらう。その先にさまざまな選手のストーリーがあって、応援したくなる選手が見つかる。そういう流れをつくりたい。最終的には、小学生の憧れの職業ランキングにプロゴルファーが入るような世界を実現したいですね」
J-TOURが見据えるのは、競技の枠を超えて社会に根付く日本男子プロゴルフツアーだ[写真]PIXTA
構想で終わらせないために
J-TOURが掲げる2033年のビジョンは、極めて具体的だ。2033年までに、賞金総額50億円以上、年間ユニークリーチ900万人(重複を除く到達人数)、年間来場者50万人を目指している。
「選手の魅力が伝わればファンが増える。ファンが増えればコンテンツの価値が高まる。スポンサー価値も上がる。すると大会数や賞金が増える。結果として、選手がさらに活躍しやすくなります」
J-TOURが見据えているのは、選手の価値が正しく評価され、市場全体が成長していく好循環だ。
「もちろん、構想だけでは意味がない」と根岸氏は言い切る。
「投資はすでに始めています。ACNツアーではプレーフィー負担を導入し、選手支援施策も進めています。デジタル基盤への投資も行っていますし、2027年には新たに2試合の開催も決まっています。今後は47都道府県との接点を増やしながら、自治体やゴルフ場との連携も進めていきたい。さらに海外ツアーとの連携も強化していきます」
地域とつながることは、日本男子プロゴルフツアーの価値を新しい層へ届けることにつながる。そして海外との連携は、ツアーを世界へ開かれたコンテンツへ進化させるための重要な足掛かりとなる。
選手のストーリーが届くたび、日本男子プロゴルフツアーの可能性も広がっていく[写真]PIXTA
「新たな熱狂」を生み出す、当事者になる
J-TOURでは現在、積極的な中途採用を進めている。募集しているのは営業や広報、プロダクトマネージャー、ツアー運営マネージャーなど幅広いポジションだ。
「スポーツ業界の経験よりも、それぞれの分野で高い専門性を持った方に来ていただきたいですね」
そうした考えのもと、組織づくりは着実に進んでいる。
「2026年10月にはJGTOから22名が加わり、現在は56名体制になりました。すでにDAZN出身者など各分野で経験を積んできたメンバーも加わっています。今後は100名規模の組織も見据えており、2年後にはスポーツコンテンツビジネスの“オールスター集団”と呼ばれるような組織にしていきたいですね」
J-TOURで取り組むのは、既存事業の運営だけではない。スポンサー開拓やツアー運営をはじめ、新規大会の企画、コンテンツ開発、メディア展開、地域連携施策の立案など、日本男子プロゴルフツアーの価値向上につながる幅広いプロジェクトに関わる機会がある。
「何かが完成された環境で仕事をするというより、一からつくっていくフェーズです」
市場規模約1.4兆円の産業を変える道程に、正解はまだない。だからこそ、自ら仕組みをつくり、事業を前に進められる。日本男子プロゴルフツアーの未来をつくっていく。その当事者になれる機会が、ここにある。
日本男子プロゴルフツアー改革の実現に向け、新たな仲間が次々と加わっている[写真]中野賢太
ゴルフを、もっと社会の真ん中へ
取材の最後、根岸氏はこう語った。
「ゴルフって人生と一緒だと思うんです。思い通りにいくこともあれば、うまくいかないこともある。でも、そのたびに課題と向き合いながら前へ進んでいく。そこが面白いですよね」
根岸氏にとってゴルフは、単なる競技ではない。人を成長させ、世代を超えて人と人をつなぐ力を持つスポーツだ。その可能性を、もっと社会に広げていきたいと考えている。
「男子ゴルフには、まだまだ可能性があります」
日本男子プロゴルフツアーを、新たな成長産業へ。その未来を、ともにつくる仲間をJ-TOURは求めている。
interview & text:藤波篤司/dodaSPORTS編集部
photo:中野賢太
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。





















