新たな挑戦のためJクラブへ転身。40歳でキャリアを再設計した理由
清家 桂太さん
株式会社名古屋グランパスエイト 人事部 副部長
「自分が転職するとは思っていませんでした」
そう語るのは、名古屋グランパスで人事部副部長を務める清家桂太さん。
新卒で大手電機メーカーのグループ会社に入社し、約20年にわたり人事としてキャリアを積み上げてきた。ところが、40歳の節目を機に受講したスポーツビジネススクール「SHC(スポーツヒューマンキャピタル)」が、彼の人生を大きく変えることに。
約6カ月間の学びの中でどのような変化があり、キャリアの転換にいたったのか。その決断の真意を聞いた。
Index
サッカーから離れていたビジネス人生
——清家さんはサッカー経験者だそうですね。どんな思い出がありますか?
私は福岡県北九州市の小倉という街で育ち、小中高とサッカーに打ち込んでいました。小中高では県内で上位争いをしているチームにいました。高校2年生のときには高校サッカー選手権・福岡県大会の決勝まで進めたこともよい思い出です。その決勝には自分は試合に出られなかったのですが、あのときの会場の雰囲気や天然芝の匂いは今でも忘れられません。サッカーを通じて、多くの人と関わってきたことや色んな経験ができたことが貴重な財産となっています。
——高校卒業後はどのような道に進まれたのでしょうか?
関西の大学への進学とともにサッカーとの関わりはほとんどなくなってしまいました。大学では農学部に進み、「農業用水用のため池の窒素動態の研究」に取り組んでいましたが、将来の進路を現実的に考え、就職先を決めました。
「入社したら何でもやる」という意気込みで臨み、その後は約20年にわたり、労務、制度設計、育成、採用、評価、組織検討など人事領域一筋でキャリアを積んできました。
——サッカーと再び接点を持つきっかけは?
前職で、人生 100 年時代に向けたキャリアの在り方を考える機会があり、新たな学びを得ることで自分の選択肢を広げたいと考えはじめました。自分自身の生き方の礎になっているのは、学生時代に熱中したスポーツであること、そして、人材・組織マネジメントの先にある「経営」を新たな視点で学び直したいと考えたこと。この二つが結びつき、スポーツ組織経営者を育成・輩出しているSHC(スポーツヒューマンキャピタル)のスポーツビジネスマスターコースを受講することを決めました。
——当時の心境としてはどんなお気持ちだったのですか?
これからのキャリアの選択肢を広げたいという思いはありましたが、「転職」という考えはまったくありませんでした。前職の会社は好きでしたので、このまま定年まで働くものだと考えていました。
その中で、あくまで“学び直し”の一環としてSHCの受講を決めました。ちょうど大阪に単身赴任していた時期で、普段は東京で行われる講義が関西で受けられるタイミングだったことも後押しになりました。今振り返ると、それも何かのご縁だったのかもしれません。
「まさか転職することになるなんて。自分が一番驚いています」と話す清家さん[写真]アラキシン
SHCで実感したクラブ経営の影響力
——SHCでは具体的にどのように講義が進んでいったのでしょうか?
実在のプロスポーツクラブを題材に、クラブの社長や各領域の責任者の講義を通じて、経営課題や意思決定の考え方を学びました。
カリキュラムは約6カ月で構成されていて、前期は「日本製鉄堺ブレイザーズ」を題材にした個人ワーク、後期は「名古屋グランパス」をテーマにしたグループワークに取り組み、最終的には中期経営計画を提案する実践的な内容でした。
——その後働くことになる「名古屋グランパス」のグループワークはいかがでしたか?
とても現場に近い実践的な学びでした。前社長の小西(工己)さん、現社長の清水(克洋)をはじめとする事業部門やフットボール部門の責任者の方々から、名古屋グランパスならではの具体的な実例について伺うことができました。
スタジアムでしか体験できない非日常空間の提供など、サッカーそのものの価値提供だけでなく、人口750万人の愛知県をホームタウンとして、地域に寄り添い、多くの社会課題に取り組んでいることに大きな魅力を感じました。
また、グループには元プロサッカー選手もいて、個性豊かな仲間ばかりでとにかく刺激的で楽しかった記憶しかありません。中期経営計画のプレゼンでは、愛知県育ちのブラジル人選手輩出や、親子三世代グランパスファミリー構想などを提案し、最優秀賞をいただくことができました。その後、クラブの社員向け研修にも一部参加させていただき、SHCのカリキュラムで検討したことを提案する機会をいただきました。
——SHCの学びの中で得られたものは何ですか?
一つは、クラブ経営の社会的価値の大きさです。スタジアムやアリーナでの熱狂や感動、非日常空間の提供といった直接的な価値に加え、ファン・サポーター、スポンサー、自治体など多くのステークホルダーと共に、地域を盛り上げて、社会課題の解決にも関われる。そのスケール感と社会的価値に大きな魅力を感じましたし、こんなにやりがいのある仕事は他にないと実感しました。
もう一つは、人とのつながりです。SHCには高い志を持つ方が多く、大きな刺激を受けました。同期の中にはすでにJクラブに転身した方や、クラブに在籍しながら受講している方もいて、同じ想いを持ってともに学んだ仲間がいることがとても心強いです。
「SHCでの学びを通じて、クラブ経営の実態や社会的な価値の大きさを実感したことで、私の人生は大きく動きました」[写真]アラキシン
「求人がなかった」名古屋グランパスへの入社
——名古屋グランパスへの転職の経緯について教えてください。
SHC修了以降、スポーツクラブの経営に関わりたいという思いが徐々に強くなっていきました。SHCでの学びやネットワークを通じて、クラブ経営における人材や組織マネジメントについて聞く機会があり、その領域で自分の経験が活かせるのではないかと考えるようになりました。
ただ、実際には求人が少ない状況で、機会を待つだけでは前に進めないと感じました。そこで、「名古屋グランパスで人事として関われる可能性がないか」と、自分から働きかけたことがきっかけです。
——まさかの直談判からご縁がつながったのですね。
SHCのキャリア部門を通じて名古屋グランパスに連絡してもらい、書類選考を経てクラブの方とお会いしました。これまでの経験や、名古屋グランパスで取り組みたいことについてお話ししました。
その後、面接選考を経て、内定をいただきました。前職の引き継ぎや単身赴任先からの引越しを経て、入社しています。
——名古屋グランパスでの現在の仕事内容について教えてください。
人事領域全般とコンプライアンスを担当しています。名古屋グランパスでは現在、役員含めて事業スタッフ社員が約60名、プロ契約スタッフ、アカデミーやスクールのコーチ・スタッフ、選手を含めると200名近い規模の組織となります。
私が入社するまでは人事部がなく、経営サポート部がその機能を担っていましたが、入社と同時に人事部ができて、「クラブのあるべき姿に向けた人・組織の課題を整理して、優先順位をつけて計画的に取り組む」ことをミッションとして諸課題に取り組んでいます。
入社後はまず人事情報の管理の強化と課題の整理に取り組みました。例えば、人事システムの整備、社員のキャリア志向の見える化、組織診断サーベイを行いました。また、人材開発会議を実施し、人材育成や人員計画、配置検討について検討しました。
社員一人ひとりの裁量が大きく、自分の仕事やミッションがクラブ経営とつながっている実感があり、入社前に想像していた以上のやりがいを感じて仕事をしています。
新しくなったパロマ瑞穂スタジアムで、前社長・小西工己氏の送別会を行った際の一枚[写真提供]株式会社名古屋グランパスエイト
世界で戦い、世界で注目されるクラブへ
——名古屋グランパスで仕事をする一番の魅力は何ですか?
いくつもありますが、一番の魅力は、グランパスに集う社員やスタッフと一緒に仕事ができる環境です。クラブでは、チームを強くする取り組みはもちろんのこと、豊田スタジアムや瑞穂スタジアムを満員にするための取り組み、スタジアムにお越しいただいたお客様に満足してもらうための取り組み、もっとグランパスを知ってもらい、好きになってもらう取り組み、スポンサー企業や自治体など多くのステークホルダーの皆さまとともに人口750万人の愛知を盛り上げ、また地域の社会課題に向き合う取り組みなど、非常に多くのことに、社員やスタッフが熱量高く向き合っています。私は皆と一緒に仕事ができていることに感謝しています。私も皆と同じ熱量を持ってクラブに貢献していきたい気持ちです。
あと、シンプルにチームが勝ったときの喜びもグランパスで仕事をする上での魅力のひとつです。
特に私が入社直後の2024年11月にルヴァンカップで優勝したときの感動は今でも鮮明に残っています。当日は私も国立競技場にいたのですが、私のグランパス愛が一気に高まりました(笑)。
——入社直後にタイトルを獲得するなんて、とても貴重な体験ですね。ほかに働いてみて感じる新たな一面はありましたか?
クラブの一体感の重要性を改めて感じています。
社長の清水は、「良いときも悪いときも同じ想いのもとOne Clubで進もう」と社員に伝えています。チームが勝ったときはともに喜び、負けたときはしっかり支える、私自身はクラブがどんな状況でも自分がやれることをしっかり実践していきたいと考えています。
また、ミシャ監督(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)も、クラブの一体感を大切にしていることが伺えます。事業スタッフにも温かく接してくれますし、差し入れもしてくれたりして、その気遣いに私は完全に心を掴まれています(笑)。
——今後「名古屋グランパス」でどんなことに挑戦していきたいですか?
名古屋グランパスが「世界で戦い、世界で注目されるクラブ」になるために、自分自身のこれまでの経験を生かしつつさらに成長して、クラブに貢献していきたいです。
そして、プロフェッショナルな個が育つ日本いちのクラブ組織づくりに貢献していきたいと考えています。
サッカーをはじめスポーツが社会に提供できる価値は、「熱狂」「感動」「明日への活力」にとどまらず、「発信力」や「求心力」など非常に大きいと考えています。クラブ経営を通じて愛知に貢献したい、社会課題を解決したいと思っている方々と一緒に仕事していることに感謝しています。
「サッカーやスポーツの力でより良い地域、より良い社会をつくっていきたい」と語る清家さん。その視線の先には明るい未来が見えている[写真]アラキシン
interview & text:白水 衛/dodaSPORTS編集部
photo:アラキシン
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。




















