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スポーツは、ビジネスパーソンにとって特別な世界じゃない。FC東京フロントが挑む「企業×スポーツ」のかたち

水船 健司さん

東京フットボールクラブ株式会社 パートナー事業本部 事業部

コロナ禍で世界中のスタジアムが静まり返った2020年。当時、BtoBマーケティングの現場に立っていた水船健司さんは「スポーツが持つ、人と人をつなぐ力」を仕事の軸として捉えるようになり、スポーツ団体を支援する企業へ転職。スポーツビジネスに関わる中で、その可能性と同時に構造的な難しさを実感し、業界における将来像について模索する日々が続いていた。

転機となったのが、SHC(スポーツヒューマンキャピタル)を受講したことで触れた、クラブ経営のリアル。収益構造・意思決定の背景まで含めた実態を知ったことが、より深く「中で価値をつくる立場」へと踏み出すきっかけになった。2025年、水船さんはFC東京のフロントへ。一般企業で働くビジネスパーソンにとって、スポーツビジネスは本当に“遠い世界”なのか。日々現場に立つ水船さんの言葉から、その答えを探る。

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    営業17年の目に映った、スポーツビジネスの可能性

    ——キャリアのスタートはBtoBマーケティング支援(営業職)だったそうですね。

    新卒で入社したのは、法人向けのマーケティング支援を行う会社です。業界を問わず、300社以上の新規顧客開拓とマーケティング支援に向き合ってきました。後半は、東南アジア市場への進出を目指す日系企業の支援にも携わり、タイやベトナム、インドネシアなどに頻繁に出張していました。「この国でどうやって市場をつくるのか」を、現地の方々と一緒にゼロから考えるような仕事でした。

    ——かなりタフな環境だったと想像しますが、何を一番大事にして仕事をしていましたか?

    現地の方々と仕事をする中で、大切にしていたのは人と人との信頼関係です。どれだけロジックを積み上げても、最終的にプロジェクトを前に進めるのは「誰が、どんな思いで向き合っているか」。当時の経験が、今の仕事のベースになっています。

    ——時期としては、コロナ禍と重なっていたかと思いますが、ご自身の仕事やキャリア観に何か影響を与えましたか?

    社会全体が大きく変化する中で、「自分はどんな価値を提供できているのだろう」と、立ち止まって考えるようになりました。その中で強く意識するようになったのが、スポーツが持つ、人と人をつなぐ力です。日常の中で当たり前にあったものが制限される状況になり、スポーツが人の気持ちや生活に与えている影響の大きさを、改めて実感するようになりました。それまではビジネスとして企業を支援する立場でしたが、ここまでの経験を活かしながらスポーツの価値を広げる側に回れないか──と、真剣に考えるようになったのがこの頃です。

    ——そこから、次の転職や学びにつながっていくのですね。

    はい。これまで積み重ねてきたビジネスの経験を、スポーツという分野でどう活かせるかを考えるようになった、という感覚でしょうか。その延長線上で、まずはスポーツに関わる事業に携わる会社へと転職し、現場に触れてみようと思いました。そこで得た気づきや課題意識が、次にSHC(スポーツヒューマンキャピタル※)で学ぶという選択につながっていきました。

    ※SHC(スポーツヒューマンキャピタル):Jリーグが設立した、スポーツクラブ経営人材を育成する実践型ビジネススクール

    スポーツに関わる仕事をする中で「自分の立ち位置を見つめ直していた」と話す水船さん[写真]木村周平

    クラブの「内側」を見る視点へ。SHCで知った経営のリアル 

     ——スポーツに関わる会社に転職されたあとで、改めて「学ぼう」と思ったのはなぜだったのでしょうか。 

    デジタルマーケティングの領域で、スポーツ団体と向き合う中で「自分が見ているのは、あくまで一部分に過ぎない」と感じるようになったからです。さまざまな競技や地域のクラブと関わるようになり、クラブは営業やホームタウン活動、普及、広報、社会連携など、あらゆる機能が絡み合って成り立っていることに気づきました。そうした全体像や、意思決定がどのように行われているのかを知らないまま関わり続けることに、課題意識を持つようになっていました。そうしたときに出会ったのが、SHCでした。 

    ——SHCのゼミでは、どんな学びが特に印象に残っていますか? 

    松本山雅FCをテーマにしたゼミでの学びが、特に印象に残っています。試合観戦だけでなく、実際に街を歩き、地域の空気感に触れるところからスタートしました。田んぼのあぜ道を歩きながらスタジアムに向かい、試合後には同じ道を、熱い試合への興奮を共有し合いながら帰る。サッカーが、地域の中で人と人をつなぐ「場」になっていることを強く実感したんです。同時に、少子高齢化が進む中で、クラブがこれからも地域に必要とされ続けるために、どんな役割を果たしていくべきなのかを考えるようになりました。

    ——経営の「内側」に踏み込んだ学びとして、印象に残っている講義・プロジェクトはありますか? 

    SHCのプログラムの一つとして取り組んだ、サンフレッチェ広島の中期事業計画づくりのプロジェクトです。新スタジアム開業で観客数や収益が伸びている中「この勢いをどう持続させるか」をテーマに、各部署の方々から実際の数字や課題を共有いただきながら、クラブ全体としての中期計画を考えました。収益や組織、地域との関係性まで含めてクラブをどう成り立たせていくのかといった、スポーツクラブを「一つの事業」として捉える視点を初めて持つことができたと感じています。 

    ——SHCでの学びを通じて、クラブ経営を見る目はどう変わりましたか? 

    クラブを、より立体的に捉えられるようになったと感じています。「競技×ビジネス×地域」は切り分けて考えられるものではなく、すべてがつながった状態で成り立っているということ。そして、クラブごと・地域ごとに正解は違うということも実感しました。例えば、人口規模の小さい地域にあるクラブと、都市部のクラブでは成り立つビジネスモデルは異なりますし、気候や地域性によって、クラブが果たす役割も変わってきます。正解がないからこそ「なぜこの地域で存在するのか」を考え続ける姿勢がクラブ経営なのだと理解できたことは、大きな変化でした。

    「東京=FC東京」と言われる存在を目指して 

     ——SHCで得た視点を踏まえて、FC東京というクラブをどう捉えていますか? 

    SHCで学ぶ中で「外から支援する立場ではなく、クラブの中で価値をつくる仕事に挑戦したい」という意識が明確になっていきました。その延長線上で、ご縁がありFC東京への入社を決めました。FC東京は、文字通り「東京」という大きな都市を背負っているクラブです。人口規模もマーケットも非常に大きい一方で「東京を代表する存在」として、まだ伸ばせる余地もある。その分、クラブが目指す姿やビジョンが重要になりますし、ファン・サポーターや企業、地域の方々にどう共感していただくかが、より問われるクラブだと思います。 

    ——そうした視点を踏まえて、FC東京ではどんな仕事に向き合っているのでしょうか。 

    現在は、FC東京のパートナー企業の新規開拓や、既存パートナーとの取り組みなどを担当しています。単にパートナー企業を増やすことが目的ではなく、パートナー企業が何を目指していて、どんな課題を持っているのかを伺ったうえで、FC東京と組むことでどんな相乗効果が生まれるのか一緒に考えていくことを大切にしています。動員人数やエリアの人口といった目に見える数字だけでなく、地域との関わり方や社会的なテーマに対する姿勢も含めて、企業とクラブの関係性をどう築いていくか。企業が課題解決を考える際に「スポーツクラブと組む」という選択肢が思い浮かぶ状態を目指しています。 

    ——「スポーツクラブならでは」と感じるのは、どんな瞬間ですか? 

    企業の方と一緒につくった取り組みが、ファン・サポーターの反応として返ってくる瞬間ですね。スタジアムで一緒に試合観戦をしながら「ちゃんと届いているね」「この空気感が最高ですよね」と、担当者の方と会話ができる。この距離感は、スポーツクラブならではだと感じます。 

    ——FC東京というクラブが、将来的にどんな存在であってほしいと考えていますか? 

    ニューヨークと言えばヤンキース、バルセロナと言えばバルサ、というように、東京と言ったらFC東京、と思い浮かべてもらえるような、地域を代表する存在になりたいという思いがあります。単に有名になるということではなくて、東京で暮らす人の人生や生活の中に、自然と存在しているクラブでありたいですね。試合がある週末だけでなく、日常のどこかにFC東京がある。そんな存在になれたらいいなと思っています。

    青と赤のFC東京カラーが印象的な練習施設の一角で。「このクラブが、日常の中にある存在になることを目指したい」[写真]木村周平

    スポーツビジネスは、特別な人の仕事ではない 

     ——一般企業での経験は、スポーツクラブのどんな場面で活きると思いますか? 

     特別なスキルが必要というより、これまで一般企業で積み重ねてきた経験は、スポーツクラブの中でも必ずどこかで活かせると思っています。例えば私の場合、営業としてゼロから市場をつくったり、お客様と信頼関係を築きながら仕事を進めてきた経験が、地域や企業と向き合うFC東京の仕事にも、そのまま通じるものがありました。営業、マーケティング、管理系など役割はさまざまですが、大事なのは「自分がやってきたことを、クラブのどの部分で価値にできそうか」を自分の言葉で説明できるかどうか。その視点が持てると、スポーツ業界は決して遠い世界ではないと感じられると思います。

    ——実際に中に入ってみて、外から見ていた印象と違ったと感じた部分はありますか? 

    思っていた以上に、自分で考えて動く場面が多い仕事だと感じています。マニュアルがあるというよりも、クラブの状況や目指す姿を踏まえながら「今、何が必要か」を考える必要があります。その分、自分の関わり方次第で、仕事の広がり方も変わってくる世界だと思います。スポーツが好きな気持ちに加えて「クラブにどう貢献したいか」「どんな価値をつくりたいか」を考え続ける姿勢を持てるかどうかが大切だと感じています。 

    ——スポーツ業界の世界が気になり始めた方へ、伝えたいことはありますか? 

    スポーツ業界に限らずですが、やってみる前から全体像が見えていることはほとんどありません。だからこそ、自分から学びの場に足を運んだり、人に会いに行ったりしながら、少しずつ理解を深めていくことが大事だと感じています。私にとって、SHCは一歩を踏み出す中で出会った学びの機会の一つでした。関心のある方向に少し近づいてみる。その積み重ねが、結果的にキャリアを形づくっていくのだと思います。 

    一般企業で培った営業・マーケティング経験とSHCでの学びを活かし「企業の第一想起にスポーツビジネスを置いてほしい」という思いのもと、パートナー企業との共創に取り組んでいる[写真]木村周平

    interview & text:川添彩香/doda SPORTS編集部
    photo:木村周平

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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