スポンサーの方々をつなぐことで新しい価値の共創や社会課題の解決に│パ・リーグ球団 仕事図鑑2026 – BEYOND THE SPONSORSHIP
株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント × 株式会社クボタ
球団×スポンサー企業 プロジェクト担当者 特別対談
プロ野球に欠かすことのできないスポンサー企業。最近では、企業ロゴの掲出にとどまらない、球団とスポンサー企業双方の共通の思いをカタチにした取り組みが増えているという。その舞台裏を担当者に聞いた。
Index
「スポンサーの方々をつなぐことで新しい価値の共創や社会課題の解決に」
大村 健祐(おおむら・けんすけ)さん
株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
法人営業部
株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントの大村 健祐さんは法人営業を担当。企業に対し、広告掲出や協賛試合の提案にとどまらず、北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)(※1)というフィールドを活用した新たな価値創出を企画・提案するのが役割です。スポンサー企業やFビレッジへのご来場者、ファイターズファンの皆様など、様々なステークホルダー同士の接点をつくり出し、企業課題、地域や社会課題の解決につながる取り組みへと発展させることも重要なミッション。営業の枠を越え、街づくりの視点でパートナーシップを形にしています。
「施設の開業初日には行列ができるほど盛況、あらためて感じたのは野球の力です」
野上 哲也(のがみ・てつや)さん
株式会社クボタ
KESG推進部
株式会社クボタは、農業機械や水環境インフラを手がける総合メーカーです。『食料・水・環境』の領域でグローバルに事業を展開。近年はESG(環境・社会・ガバナンス)にクボタの頭文字となる“K”を加えたKESG経営を掲げ、社会的価値の創出にも注力しています。Fビレッジ内の農業学習施設『KUBOTA AGRI FRONT』(以下、『AGRI FRONT』)では、スマート農業や食の未来を体感できる場を提供し、次世代育成にも取り組んでいます。
——まずは自己紹介をお願いします。
大村 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(以下、FSE)の大村 健祐と申します。2022年3月にFSEに入社以来、一貫して法人営業を担当してきました。クボタさんもファイターズのパートナーになっていただいたときから担当させていただいています。
野上 株式会社クボタの野上 哲也と申します。KESG推進部北海道ボールパーク推進課に所属し、Fビレッジ内にある『AGRI FRONT』の運営を統括しています。2023年2月から北海道に駐在しています。
——もともと北海道とは縁がありましたか?
大村 私は東京生まれ、埼玉育ちなんですが、一人暮らしをしたくて、北海道大学へ進学しました。土木を専攻し、北海道大学大学院を卒業後、国土交通省に入省しました。
野上 官僚としてキャリアをスタートされたんですね。
大村 はい、霞が関で鉄道や港湾に関する政策立案に携わっておりました。3年目に、北海道開発局に配属されたときに、人口減少や少子高齢化の課題に直面し、地方の活性化などに現場から貢献したいと考え、国土交通省を退職。北海道の利尻島に地域おこし協力隊として、移住しました。
野上 私は関西出身なんですが、大学時代にアウトドアサークルに所属していました。無人島でサバイバル生活をしたり、洞窟を探検したり。北海道も毎年のように訪れ、利尻島と礼文島がお気に入りの場所です。
大村 利尻島が共通点ですね(笑)。
野上 さらに大学卒業後、クボタに就職し、最初の赴任地が北海道だったんです。ですので、今回が2度目の北海道赴任になります。
——ファイターズの本拠地球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」のすぐ横にクボタの農業学習施設があり、全国的に話題になっていますね。異色のコラボはどんな経緯で始まったのでしょうか?
大村 私の入社前の話になるのですが、Fビレッジのボールパーク構想が立ち上がり、敷地内に農園エリアを設けようというアイデアが出ました。そこで農業機械を販売しているクボタさんがパートナー候補に挙がりました。
野上 2020年、ファイターズさんから「ボールパークに参画しませんか?」というお声がけをいただきました。翌年、当時の経営幹部の方に、プロジェクト概要の説明のために本社(大阪)へお越しいただいたのですが、その場に私も立ち会っております。「Fビレッジ内に農園エリアを設けたい」という明確な構想がある中、どの企業とパートナーシップを結ぶかを検討されていました。
大村 その際に重要な役割を果たしたのが、北海道大学農学部の野口 伸教授です。トラクタやコンバインを自動運転化する第一人者で、ファイターズは野口先生にFビレッジの農園エリアについてご相談させていただきました。そのときに推薦があったのがクボタさんでした。
野上 クボタ社内でも大きな変化が起きているタイミングでした。弊社は農業機械メーカーとして知られていますが、もともとは創業者が当時すべてを輸入に頼る水道管の「国産化」に挑戦することから会社がスタートしました。現在もポンプ・バルブや上水・下水処理場などを手がけており、「水環境のクボタ」とも呼ばれています。お客さまは行政関係や社会インフラに関わる会社が大半であり、BtoC向けのコミュニケーションや広告はあまり重要視していませんでした。ただ、人材採用の観点などから、2017年にブランドを強化するプロジェクトが始動しました。
大村 長澤 まさみさんが出演しているクボタのCMが有名ですよね。
野上 はい。そして2021年に私の所属するKESG推進部が発足します。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字。そこにクボタのKを合わせてKESGというわけです。そのKESG経営の重要な考え方の一つに、「クボタの取り組みについて適時・適切に発信し、ステークホルダーの皆さまに共感、さらには参画いただく」という大切な考え方があり、ファイターズさんからのお声がけにより、両社の思想がマッチする形となりました。
野球×農業という新たな挑戦
——農業学習施設の立ち上げは、ファイターズにとってもクボタにとっても未知の挑戦です。どのように進めましたか?
野上 ファイターズさんからは、農園エリアとしてお話をいただきましたが、さらに発展させて次世代層に向けた農業学習施設にする方針を打ち出しました。理由は主に2つあります。1つ目はすでに北海道には農業を体験できる施設がたくさんあったということです。例えば車で10分ほどの距離にホクレンさんの『くるるの杜』という素晴らしい施設があります。クボタの新施設が競合する関係性になってはいけないと考えました。2つ目は、教育機会を多く提供させていただくため、子どもたちがいつでも来れるように冬期間を含めた通年営業にしたことです。それらを鑑み、農業メーカーとしての強みを活かして、スマート農業を用いた全天候型の施設とすること、また、農業経営ゲームを主たるコンテンツにすることを決めました。周辺の農業体験施設と相互に利用していただくことにより、さらに教育価値を高められるようにしようという意図です。
——不安はありましたか?
大村 当時、建設予定地は何もない原生林で、ゼロからのスタートでした。Fビレッジの開業がアナウンスされている中、時間との戦いでしたよね?
野上 不安でいっぱいでした(笑)。会社としても初めての取り組みでしたし、私のキャリアの中でもこういう仕事をしたことがありませんでした。本当に何も見えない中、2023年3月開業というゴールが決まっている。時間と戦いながら押し進めてきました。また、「本当にお客さまに来ていただけるのか?」という不安もありました。
大村 集客については、Fビレッジや「エスコンフィールドHOKKAIDO」への動員と大きな関係があります。「エスコンフィールドHOKKAIDO」のすぐ横にあるとはいえ、情報発信が十分でないと来ていただけません。Fビレッジ内の『AGRI FRONT』への動線を分かりやすくしたり、Fビレッジの公式アプリで誘導を促したり、さまざまな取り組みをしました。
野上 さまざまな不安があったのですが、2023年2月に無事建屋が竣工し、『AGRI FRONT』の3月の開業初日には大行列ができました。その光景は今でも鮮明に覚えています。
大村 2023年3月30日「エスコンフィールドHOKKAIDO」の公式戦こけら落としが行われ、同日に『AGRI FRONT』も始まったんですよね。
野上 はい。まずはカフェのみのプレオープンだったのですが、外まで続く見たことがないような行列ができ、報われた瞬間でした。あらためて感じたのは野球の力です。試合があれば約3万5,000人の方がFビレッジに来場される。それも北海道内からだけでなく、日本全国、海外から人々が訪れます。Fビレッジにあることで農業学習施設にふらっと寄っていただける。「エスコンフィールドHOKKAIDO」と同じ敷地にあるのはとてつもなく大きなアドバンテージです。
——具体的に『AGRI FRONT』はどんな施設ですか?
野上 「食と農の未来を志向する仲間づくり」をコンセプトにしており、未来を担う次世代層である学校団体をメインターゲットとした農業学習施設です。まず2階の展示スペースで農業が抱える社会環境問題を学んでいただきます。続いて没入型映像空間『TEATER』で動画をご覧いただき、農業が抱える課題に対し、フードバリューチェーン全体で解決する大切さを学んでいただきます。続いて『FIELD』で「AGRI QUESTコース」に申し込まれた方には農業経営シミュレーションゲームを体験していただきます。
大村 ゲーム内で農家となり農業経営をするんですよね。どのような作物をどのような農法で栽培するのか、そして、収穫した作物をどこに販売するのかをチームで議論しながら経営判断いただきます。農業経営の面白さはもちろんのこと、農業経営の多様性について楽しく学んでいただきます。
野上 1階に降りると、最先端のスマート農業を実践する屋内栽培エリア『TECH LAB』があります。自律走行型農薬散布ロボット等の多くのアグリテックが稼働する施設栽培エリアでは、アスパラガスやイチゴ、トマトを、植物工場ではリーフレタスを栽培しています。施設見学のクロージングを行う『TABLE』では、小さなおにぎりをご用意し、「いただきます」の号令の下、このおにぎりができるまでに関わっていただいたすべての方に感謝しながらお召し上がりいただきます。また、小さな付箋に感想を書いていただくのですが、「農家になる」「お母さんが作ってくれたご飯を嫌いなものがあっても残さず食べる」という宣言も多く、クボタ・施設のメッセージが伝わっているのを実感でき、すごくうれしいです。
大村 大人にとってもたくさんの学びがあるので、企業の団体旅行で来られる方も多いですよね。
野上 はい。自治体の方にもたくさん来ていただいており、皇族や農林水産大臣にお越しいただいたこともあります。さらに多くの方に来ていただけるように情報発信に力を入れていきたいです。
イメージは秋の収穫祭
——ファイターズとクボタは2023年から食と農業の祭典『KUBOTA presents AGRI WEEK in F VILLAGE』(以下、『AGRI WEEK』)を毎年開催しています。どんなイベントなのでしょうか?
野上 「食と農業、および北海道の魅力や可能性を楽しくおいしく学ぶこと」をコンセプトとしています。イメージとしては収穫祭です。さまざまなワークショップ・セミナーやマルシェ、はたらく車展示等を楽しめます。
大村 北海道のおいしいものをたくさん食べながら学ぶというのがポイントですよね。2023年と2024年はプロ野球のシーズン中である9月に開催しましたが、農家の方たちが繁忙期で参加しづらいという課題がありました。そこで2025年は11月に開催しました。シーズンオフの時期にすることにより、Fビレッジ全体を使って開催することもできました。また北海道クボタさんのご協力により、農業機械の乗車体験なども実現しました。
野上 連携協定を締結する大学にもご協力をいただいており、北海道大学の教授に農業のおいしさと楽しさを知るワークショップを開いていただき、酪農学園大学のみなさんにマルシェに出店していただきました。また、2025年の『AGRI WEEK』には、北海道岩見沢農業高校と北海道深川東高校の皆さんにもマルシェに参画していただきました。イベントを盛り上げていただくとともに、学校教育では体験できないような機会を提供できたのではないかと思います。思いの輪がどんどん大きくなっているのを実感しています。北海道には農業系の高校が30校ほどあるので、いつか全校を集めたいと夢見ています(笑)。
大村 スポンサーの方たちをつなぐのも営業の大切な仕事なので、2025年の『AGRI WEEK』にほかのパートナーに出店していただけたのは、個人的に大きな成果でした。農家直送の野菜販売や北海道産ホタテすくいを開催しました。
——現在の取り組みにこれまでの仕事はどう活かされていますか?
大村 行政や島で活動したことで、さまざまな立場を想像できるようになったと思います。広告枠の販売だけでなく、スポンサーの方たちをつなぐといった新しい価値の創造、街づくりや社会課題の解決に少しでも寄与できればと考えています。過去に多様な職種、立場の方と関わってきたことが、今の仕事に活かされていると思います。
野上 2011年の東日本大震災後、クボタとして被災地を支援する活動に携わりました。被害を受けた農業高校にトラクタやエンジンなどの実習機材を寄贈したり、エンジンの分解・組み立ての授業に特別講師を派遣したりしました。また、仮設住宅の方たち向けにコミュニティ農園の支援をしました。土地を開墾し、野菜づくりを楽しめる憩いの場を造りました。今の活動にそういった震災後の経験がすごく役立っています。Fビレッジの街づくりに貢献できるよう、ファイターズと力を合わせてさらにFビレッジの価値を高めていきたいです。
(※1)北海道ボールパークFビレッジ:北海道日本ハムファイターズの球場、エスコンフィールドHOKKAIDOを擁するボールパークエリア全体の名称。
球団と農業機械メーカーのコラボによる『食と農業』を楽しくおいしく学べる施設
Fビレッジのすぐ隣に、クボタが運営する『AGRI FRONT』がある。どなたでも自由に入場いただける体験型施設であり、農業経営シミュレーションゲームや最先端のスマート農業などを通して、食と農業についておいしく楽しく学ぶことができる。
1階には北海道の素材にこだわったカフェが併設されており、野球の試合がない日も多くの人で賑わっている。
農業経営ゲーム『AGRI QUEST』。お米やイチゴから作物を選び、農業経営を体験できる。
入口から階段を上がったスペースには、日本の自給率など食と農業について学べる展示も。
プランテックス社が開発した人工光型植物栽培装置。密閉された箱の中で作物を育てている。
屋内では旬の果物や野菜も栽培。センサーで気温や湿度、施肥・潅水量等を自動管理し、農薬散布ロボットも活躍。
食卓の向こうにどんな世界が広がっているか、楽しんで学べるシアターやイベントも。
植物工場では栽培ユニットからのリーフレタスの搬出入をロボットで自動化。
Fビレッジで食と農業をおいしく学ぶイベントを開催
クボタは、2023年から食と農業の祭典『KUBOTA presents AGRI WEEK in F VILLAGE』を毎年開催している。食と農業、および北海道の魅力や可能性を楽しくおいしく学ぶことがコンセプト。2025年は11月上旬に4日間開催され、34,000人がFビレッジを訪れた。酪農学園大学、北海道岩見沢農業高校、北海道深川東高校などがマルシェに参加し、北海道の農産物などを販売。スタジアム周辺ではクボタの農業機械の乗車体験も行われた。
interview & text:木崎伸也
photo:吉森慎之介
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。









