パートナーシップの背景には『海』というキーワードがあります│パ・リーグ球団 仕事図鑑2026 – BEYOND THE SPONSORSHIP
株式会社千葉ロッテマリーンズ × モリト株式会社
球団×スポンサー企業 プロジェクト担当者 特別対談
プロ野球に欠かすことのできないスポンサー企業。最近では、企業ロゴの掲出にとどまらない、球団とスポンサー企業双方の共通の思いをカタチにした取り組みが増えているという。その舞台裏を担当者に聞いた。
Index
「パートナーシップの背景には『海』というキーワードがあります」
黒田 健太(くろだ・けんた)さん
株式会社千葉ロッテマリーンズ
BtoB本部 営業企画部 営業企画グループ
株式会社千葉ロッテマリーンズの黒田 健太さんは、BtoB本部 営業企画部 営業企画グループに所属(取材当時は法人営業部 第2営業グループに所属)。球団スポンサーシップ(協賛)の代表例として、球場内やユニフォームなどに掲出される協賛企業のロゴがあります。看板だけでなく、冠協賛試合(ワンデースポンサー)やシーズンシートなども販売します。球場内での試供品などのサンプリングや事業PRに関するブース出展、協賛社コラボキャンペーンの実施などは、協賛効果を高めるための取り組みであるスポンサーアクティベーションにも携わります。さまざまな法人や企業に対して、「プロ野球」を事業活動にどのように活用いただけるかを提案するのが営業担当者の仕事です。
「外側に向けた活動でしたが内側にも大きな影響を感じられました」
太田 雄大(おおた・かつひろ)さん
モリト株式会社
IR・広報部
パーツの総合商社モリトは、ハトメやホック、マジックテープ®などのパーツを扱う専門商社。1908年の創業から「つなぐ、留める、飾る」を軸としたパーツとひたむきに向き合ってきました。「小さなパーツで世界を変え続ける、グローバルニッチトップ企業」を目指し、衣類や靴に使用される「ハトメ」「ホック」をはじめ、かばんや文房具に使用されるパーツ、自動車の内装部品の「マットエンブレム」など、アパレルから自動車に至るまで業界を越え、さまざまなパーツの企画、開発、製造、販売を手掛けています。
——まずは自己紹介をお願いします。
黒田 株式会社千葉ロッテマリーンズ営業企画部営業企画グループの黒田 健太と申します。大学卒業後に地方銀行に就職し、3年前にマリーンズへ転職しました。入社当初からモリト株式会社さんを担当させていただいております。
太田 モリト株式会社IR・広報部の太田 雄大と申します。弊社は「パーツの総合商社」と呼ばれておりまして、身近な例を挙げるとダウンジャケットについている着脱する金属のボタン(通称:ホック)、スニーカーの靴ひもを通す金属の輪(通称:ハトメ)を扱っています。衣料・フットウェア・自動車の内装関連のパーツをはじめ、国内シェアNo.1の商品を多数取り扱っています。
——もともと野球とはどんな縁がありましたか?
黒田 僕は大学まで野球をやっていました。
太田 私は高校までですね。
——モリトは2022年7月から、ZOZOマリンスタジアムのベンチに企業名の看板を出していますね。どういう経緯でパートナーシップが始まったのでしょうか?
黒田 きっかけは、マリーンズ主催試合で行われた母の日のイベントで、選手が試合で着用する特別バージョンのキャップを制作したことだったと聞いています。マリーンズとして特別なデザインのキャップを作ろうとしていたんですが、デザインが複雑でなかなか頼めるところが見つからなかったんですね。そんなとき球団職員の1人から推薦されたのがモリトさんでした。彼はモリトさんではたらいた経験があって技術力の高さをよく知っていたんです。また、モリトさんはアパレルの企画・生産も行っており、自社ブランドを世界で展開しています。こちらから連絡させていただいたところ、モリトさんが見事に複雑なデザインのキャップを制作してくれました。
太田 私はまだそのときモリトの別部署に在籍していたのですが、同僚から当時の話を聞いています。弊社は主に企業を顧客に持つ、いわゆる「BtoB」の企業で、もともと広告に力を入れてきた会社ではありませんでした。ただ、中期経営計画を進める上で、上場企業として投資家のみなさんに知っていただくだけでなく、人材獲得の観点から学生のみなさんなど、より幅広い方々に弊社を知っていただく必要があると感じていました。そういう課題を感じている中、マリーンズさんからパートナーシップの提案を受け、ベンチに看板を出させていただくことになりました。会社としてプロ野球界に広告を掲載した実績はなかったので、新たな挑戦になりました。
黒田 このパートナーシップの背景には、「海」というキーワードがあります。モリトさんは廃棄された漁網をリサイクルし、樹脂ボタンや生地に使用する取り組みをしています。一方、マリーンズは海沿いにある球団で、マスコットの「マーくん」はカモメの男の子。両者が海を大切にしており、そのストーリーがマッチしました。
太田 弊社は「あたりまえに、新しさ。」というタグライン(企業やサービスの思いをひとことで表す言葉)を掲げており、常にほかにない取り組みをしたいと考えています。責任ある企業としてSDGsのサステナブルな活動に取り組み始めたときに、海洋プラスチックの問題に注目しました。漁網などの廃棄物を再資源化し、新たな製品へ生まれ変わらせる「Rideeco®(リデコ)」というプロジェクトを推進しています。マリーンズさんとのパートナーシップを検討する上で、「海」という親和性はすごく後押しになりました。
——2023年は看板掲出に加え、8月2日に球団ロゴが入った引手(ストラップ)を球場で配り、さらに特設ブースでグラブホルダーを制作する体験イベントを開催しましたね。
太田 グラブホルダーに使用されているナイロン製のテープのうち、25%に漁網からリサイクルした素材が使われています。特設ブースでは海洋プラスチック問題に関する展示もさせていただきました。
黒田 当時、大谷 翔平選手(※1)がグローブをリュックにストラップで留め始めた時期だったんですよね。それもあってお子さんたちにすごく喜んでいただけました。
太田 ちなみに8月2日は、パーツの魅力を伝える「ハッピーパーツデー」として、モリトが名付け日本記念日協会に登録した、弊社にとって特別な日です。このイベントはその活動の一環でした。
黒田 ちょうど夏休みなのがいいですよね!
太田 多くの人たちにブースに来ていただき、プロ野球の力を肌で感じる機会になりました。
球場で授業を開こう!
——そして2024年から、全国の⼩中学⽣及び保護者様を対象に、球場でSDGsの「出前授業」をやるという新しい試みを始めましたね。野球観戦×教育というかなり斬新な試みです。
黒田 内輪の話になりますが、球団サイドにとっては毎年パートナーシップの更新が大きなテーマになるんですね。先ほど太田さんから話があったようにモリトさんは常に新しいことにトライする社風がある。パートナーシップについても前年と同じプランでは満足していただけないと考え、何か社会的に意義がある取り組みをできないか、相当に知恵を絞りました。
太田 気遣っていただき、ありがとうございます(笑)。
黒田 両者で話し合いを進める中、授業のアイデアが出てきたんです。もともとモリトさんは小中学校を訪れて、SDGsを伝える「出前授業」をやっていました。それを球場でやったらおもしろいんじゃないかと。
太田 前年のグラブホルダーの体験イベントは大盛況だったものの、グッズ作りに集中しすぎて、SDGsの内容が頭に入ってきづらかったという意見もありました。「出前授業」ならまさにその課題を解決できると思いました。
——新しい挑戦に不安はありませんでしたか?
黒田 どの組織もそうだと思うんですが、前例のない取り組みは躊躇するじゃないですか。特にスポンサーシップの分野では、前年までの取り組みを踏襲して金額の話だけになってしまいがちです。なのでやはり不安はありましたよ。
太田 私たちもありました。授業内容に自信はあったんですが、どれだけ応募が届くんだろうと。
黒田 でもフタを開けたら、定員10組20人に対して数百人の応募があったんですよ。野球観戦と教育を結びつけるニーズがすごくあると分かりました。
太田 2025年の「出前授業」では、私も講師を担当しました。この授業は、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」をテーマにした内容になっています。
日本の海に漂着するゴミのうち、総重量の約40%が漁網やロープであること、北太平洋のハワイと北米の間に漂流ごみが集まって太平洋ゴミベルトが出来てしまっていること、2050年には海に魚よりゴミのほうが多くなってしまう可能性があるといった現状を説明しました。次世代を担う子どもたちに「取り組むべき深刻な課題」であることを伝えることができたと思います。
黒田 当日はお子さんたちに興味を持っていただけたのはもちろん、保護者の方からもかなり質問が出ていましたよね。
太田 そうなんですよ。普段は小中学校で子どもたちのみに教えているので、保護者の方から違う視点の意見や質問が出るのはすごく新鮮でした。マリーンズさんと協力して、球場で実施したからこそ、親子でSDGsについて考える機会をつくれたと思います。
黒田 2025年の「出前授業」には、2023年にグラブホルダー作りを体験した親子も参加してくれました。「あのリサイクルグッズにはこんな社会的意義があったんですね。点と点が線につながりました」とおっしゃっていただき、継続してイベントを開催する意味をあらためて感じました。
太田 弊社としては、複数のメディアに取り上げられたことも大きな喜びでした。2024年の「出前授業」は日本経済新聞の電子版に掲載されました。こうした社会的意義のある弊社の取り組みを、メディア掲載を通じて多くの人に伝えることは、広報としての目標のひとつなので、大きな成果となりました。
選手着用ユニがお守りに変身
——2025年は「出前授業」に加えて、選手が着用したユニフォームのパンツを用いた「お守り」作りも行いましたね。すごく贅沢な企画です。
太田 弊社は「あたりまえに、新しさ。」がモットーですから(笑)。前年をさらに超えたいと考え、ユニフォームのパンツを用いたアップサイクルを提案させていただきました。ちなみにアップサイクルとは、本来なら捨てられていた不用品に新たな付加価値を加えて生まれ変わらせる創造的な再利用です。
黒田 ユニフォームのシャツのほうは、選手自身がチャリティーに出したり、記念として持って帰ったりして廃棄はほぼ出ないんですね。ただ、パンツのほうはシーズンオフに基本的に廃棄に回ります。1人当たり3、4本で1シーズン回しているのでかなりの量になります。ただ、この企画を進める上で球団内で解決しなければならなかったのはデザインの制約でした。
太田 ユニフォームのストライプの幅ですよね?
黒田 はい。マリーンズはブランディングの一貫として、ユニフォームのストライプを大切にしています。ユニフォームのパンツから、手のひらサイズのユニフォーム型「お守り」を作ると、ストライプのバランスが変わってしまうんですね。とはいえ、大きな意義がある企画です。アップサイクルの意図を球団内でていねいに説明したところ、すぐにゴーサインを得られました。
太田 私たちのわがままを聞いていただき、本当に感謝しています。
太田 ユニフォームのように形状に特徴がある生地から「お守り」のような小さなものを作るのは、簡単ではありません。それでも、「夢に挑戦する子どもたちを勇気づけられるアイテムになる」という思いを持ち、試作を重ねて、納得できるものを製作しました。球場では90%出来あがった状態の「お守り」に、子どもたちが最後にハトメを打ち込んで仕上げるという流れでした。楽しんでいただけたと感じています。
——この仕事をしていてどんなときに最も喜びを感じますか?
黒田 スポンサーセールスは基本的にパッケージを売ることがベースになっている中、今回企業側のニーズを汲み取ってオリジナルのものが出来たのは、個人的に初めての経験でした。非常に意味のある取り組みになったと感じています。参加者の方から「勉強になった」「環境への意識が高まった」という感想をいただいて、心からやって良かったと思いました。
太田 私たちとしても、いろいろな方面から反響があってうれしかったです。予想外だったのが、社内からの反響の大きさでした。マリーンズさんは人気球団ですから弊社にもたくさんファンがいます。自分が勤務している会社が応援している球団とコラボレーションすることに対して、すごく喜んでくれました。野球にあまり興味がなかった人からもマリーンズさんとの取り組みを見て、より会社に愛着が湧いたという声がありました。社外向けに始めた活動でしたが、社内にも大きな影響があったんです。
——今後、どんな取り組みをしていきたいですか?
黒田 最近いろいろな企業の方に会っていて感じるのは、モリトさんのようにストーリーを大事にする企業が増えているということです。純粋に商材を紹介するだけでなく、ストーリーを一緒に作っていく取り組みをできるようになりたいと考えています。
太田 私は夢があるんですよ。マリーンズさんは新球場の構想がありますよね?
黒田 はい、2034年ごろの開業を目指す基本構想を発表しました。
太田 話が壮大になってしまいますが、球場に漁網などをリサイクルしたものをふんだんに使い、12球団で一番社会的貢献の価値の高い球場が出来たらすごいなと。実現性を無視して夢の話をしています(笑)。
黒田 モリトさんって本当に何でも作れる会社じゃないですか。「こういうものを作れますか?」と問い合わせると、ほぼ実現してくれる。簡単ではないかもしれませんが、球場にモリト製のリサイクルのパーツがふんだんに使われ、そのパーツを見ながらSDGsのツアーをやれたら、教育的にも社会的にもすごく価値があると思います。
太田 弊社としても、プロ野球球団のスポンサーになって、スポーツの価値を身をもって感じました。現在は東京ヴェルディホッケーチームやネパールのスケートボードパーク建設の支援もしています。マリーンズさんの力を借りて、これからも社会に貢献できるような活動をしていきたいです。
(※1)大谷 翔平(おおたに・しょうへい):1994年7月5日、岩手県出身。ロサンゼルス・ドジャースの二刀流選手。投打で歴史的な活躍を見せ、MLBでMVPを複数回受賞した世界的スーパースター。
球場で海洋ごみ問題を学ぶSDGs出前授業を開催
モリト株式会社は持続可能な開発目標(SDGs)の普及と啓発のために、小学校でSDGs出前授業を行っている。その活動をヒントに、千葉ロッテマリーンズとモリトが2024年8月6日・7日に初開催したのが「SDGs出前授業 in ZOZOマリンスタジアム」だ。当選した小中学生と保護者が球場を訪れ、海洋プラスチックごみ問題についての授業を受講。廃漁網をリサイクルしたパーツを使ったマルチホルダー作りを行った。そして2025年8月21日・22日に第2回を開催。第1回と同じく小中学生と保護者が授業を受講し、選手が実際に着用したユニフォームパンツから「お守り」を作るアップサイクルを体験した。2026年も開催予定だ。
モリトは日本国内で回収された廃漁網を100%原料とするリサイクルナイロン糸「MURON®」を製造している。
日本に漂着するプラスチックごみの総重量の内、約40%が廃漁網とロープによるもの。廃漁網のリサイクルが重要な課題となっている。
回収されたナイロン製漁網から手作業で異物を選別。洗浄、粉砕、ペレット化を経てケミカルリサイクル技術で白色ナイロン糸へ再生する。
「SDGs出前授業 in ZOZOマリンスタジアム」では、「お守り」にハトメ(穴を補強するリング状の金属)を打ちつける体験会を開催。
「お守り」は選手が着用したユニフォームパンツから作られた。廃棄予定の製品そのものの特徴を活かしつつ、別の製品へ生まれ変わらせることをアップサイクルという。
球場で開催したSDGs出前授業には、各開催日に小中学生と保護者合わせて計20人が参加。
interview & text:木崎伸也
photo:松本昇大
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。









