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世界ランク1位の車いすラグビーを“稼ぎ、戦い続けられる組織”に。 経営のプロが挑む、スポーツ団体の未来戦略

山野 智久さん

アソビュー株式会社 代表執行役員CEO/一般社団法人日本車いすラグビー連盟 理事長

満員に膨らんだ千駄ヶ谷の東京体育館の会場に、車いす同士がぶつかり合う轟音と歓声が交差する——。初めて車いすラグビーを目にした日、その迫力と熱狂に驚いたという山野智久さん。スポーツ界では持続可能な財務基盤の構築やガバナンス強化が求められる中、アソビュー創業から現在までビジネスの第一線で培ってきた組織運営の知見を、競技団体の持続可能性にどう実装していくのか。理事長就任の舞台裏から役割、そして今後の目標まで丁寧に語ってもらった。

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    2023年に連盟理事、翌年に理事長へ就任。経営のプロ・山野智久さんに、就任の背景と組織運営への想いを聞いた[写真]MegumiMasuda/JWRF

    理事長就任の原点は、轟音と大歓声の記憶

    ———まずは理事長就任の経緯から教えてください。

    昨今のスポーツ界では持続可能な財務基盤の構築やガバナンス強化が重要なテーマとなっており、一般的には選手出身者が運営をすることが多かったスポーツ団体に、経営のプロが入る必要性が高まっています。日本車いすラグビー連盟も同様で、前任の理事長であるオイシックス・ラ・大地株式会社の髙島宏平さんが、7年にわたってその役割を担っていました。私は髙島さんからバトンを受け取る形で声をかけられ、2023年に理事に就任。理事会の運営をキャッチアップした上で、2024年に理事長に就任しました。

    ———髙島さんはなぜ山野さんに声をかけられたのでしょうか?

    おそらく、髙島さんがプロの経営者だったからこそ、「次も同じスキルと経験のある人間にバトンを渡したほうが、連盟の運営は安定するのでは」という判断があったのだと思います。実は2019年頃から、東京2020パラリンピック前に実施された国際試合やクラブチーム日本一を決める日本選手権などに誘っていただき、現地で試合を観戦していました。今思えば髙島さんの中で「次は山野に」というイメージがあり、その布石として試合観戦に呼ばれていたのだと思います。

    観戦への誘いは次期トップへの布石だった。経営者同士でバトンを受け継ぎ、新たな組織運営の舵を取る[写真]山内優輝

    ———お話を聞いたとき驚かれたのでは?

    驚きもありましたが、二つの理由で前向きな気持ちが大きかったですね。一つは、車いすラグビーという魅力的なパラスポーツの熱狂をもっと広げていきたい気持ちと具体的なアイデアがあったこと。もう一つは、会社とはまったく違う歴史や役割を持つ組織で、さらにビジネスではなくスポーツというテーマでリーダーを務めることが、自分にとっても学びになるだろうという期待です。「競技の魅力を広げる」ことと「別組織でのマネジメント経験を積む」こと。この二軸が引き受ける決め手になりました。

    ———山野さん自身はスポーツの経験はありましたか?

    学生時代はサッカー部でしたが、ラグビーの経験はなく、2019年のラグビーワールドカップを観戦した程度です。ただ、車いすラグビーの国際試合で目の当たりにした際の、満員の会場の熱気は強烈でした。フィジカルな衝突が許されるルールのもとで展開されるダイナミズムは圧巻でした。自分自身はまったく知らない競技だったのに、これだけの数の観客が熱狂しているという事実に心を掴まれました。

    車いす同士が金属音を上げてぶつかり合う。この衝撃が、“ビジネスパーソン山野智久”を突き動かした[写真]MegumiMasuda/JWRF

    象徴で終わらない。実務に踏み込むトップの覚悟

    ———理事長の役割をご紹介いただけますか?

    理事会は人事権や予算承認権、その他連盟に関わる重要な意思決定権を担います。その会を代表するのが理事長です。ガバナンス機能の要ですが、承認の前提として実態の把握が不可欠です。そのため、かなり“手を動かして”関与しています。
    たとえば、事業計画の蓋然性や報酬の設計まで踏み込み、改善案の提示からKPI策定、計画立案のサポートまでを行っています。また、運営費確保のためのスポンサー獲得の戦略策定や実行にも踏み込んでいます。大会の応援や表彰、来賓対応といった象徴的な役割も担いますが、割合としては実務の比重が大きいですね。

    ———思った以上に実務が多いことに驚きました。

    もちろん承認だけを担当して、実務と距離を置くこともできますが、引き受けた以上は組織をより良くしていきたいんです。そうなると手を動かさなければいけない。見えにくい基盤整備にディープダイブして、少しずつ成果を上げていく。信頼関係はその積み重ねから生まれると思っています。

    ———理事長を務めるうえで、最も重要視していることはなんでしょうか?

    世界で勝ち続けるための「持続可能な競技団体の運営体制の構築」です。活動資金を継続的に獲得し、その資金をベースに運営の計画を立て実行することが重要だと思っています。連盟内では大会出席や表彰の授与といった象徴的役割への期待もありますが、基盤整備を最重要に据えることで、短期の一見華やかに見える象徴的な役割と長期の本質的な発展を両立させたいと考えています。

    ———「持続可能な競技団体の運営体制」を構築するうえで、大切にしていることはありますか?

    選手の意見は極めて重要だと考えています。私はビジネスとしての組織運営のプロですが、競技の専門家ではありません。だからこそ競技者出身の理事や選手に直接ヒアリングし、意思決定に反映させています。
    また、車いすラグビーはさまざまな障がいレベルの選手が男女混合でコートに立つ、まさにダイバーシティ&インクルージョンなスポーツです。そういった点でも、競技が体現する多様性を連盟の意思決定に息づかせることが重要だと考えています。

    「重要な施策やKPIの振り返りを行う定例会議の参加メンバーは約30名。アソビューの創業期に近い規模感。課題もありますが、新たにゼロから構築していく過程は懐かしくもあります」と話す[写真]山内優輝

    千駄ヶ谷の大歓声を再び。観客動員数3,000人への挑戦

    ———2023年の理事就任から2年がたちましたが、今の連盟に課題は感じていますか?

    会社であればミッションやビジョン、事業、KPIなどが明確にあり、定量的に体制を構築し、モニタリングします。しかし、連盟にはその設計が十分ではありません。「好き」から始まり、必要だからボランティアをベースに実務を積み上げてきた結果、戦略の言語化と目標の数値化が追いついていないんですね。そのため、「なぜ存在するのか」「社会に何を伝えたいのか」を明確にし、それに紐づく事業体と数字目標、予算を設計するといった、ビジネスの力を実装するフェーズに来ていると感じています。それが結果として持続可能な組織運営に繋がると考えています。もちろん数字と論理だけではうまくいきません。元々あった関わるメンバーの想いを武器にして、論理と数字の部分をより伸ばしていくイメージです。

    パラスポーツ全体を見ると、運営も財務も整っていない団体は少なくありません。だからこそ、いち早く財務基盤の構築やガバナンス強化に取り組んだ日本車いすラグビー連盟の成功事例やノウハウを惜しみなく共有し、パラスポーツ全体の持続可能性を高めていくことも重要な役割であると考えています。アソビューで培ってきた知見も積極的に活用し、他競技にも横展開していければ、パラスポーツ界全体の発展に繋がるのではないでしょうか。

    ———次世代への継承はどう描いていますか。

    就任したばかりなので、いますぐに何かをするということはありませんが、2028年のロス・パラリンピック大会、あるいは32年のブリスベン大会をひとつの目安に、バトンを渡していく構想です。髙島さんと私で連続してプロの経営者が就任していますので、次の理事長は競技者が担うのもいいかもしれません。また、女性競技者が少ないという課題もあるので、女性リーダーが増えることでその増加につながっていくと嬉しいですね。ただ、正解はないと思いますし、こればっかりは御縁もありますので、熱意を持って持続的に発展させられる方なら、どなたでも歓迎します。

    ———今後、連盟として重点的に取り組みたいテーマや目標があれば教えてください。

    大きく二つあります。一つ目は、競技人口の拡大です。現在、登録選手は100人程度ですが、これを200人以上にすることで、全国11のクラブチームを15クラブチームに増やし、全国各地域で車いすラグビー競技にアクセスしやすい状態をつくりたいです。1チーム13人程度いれば各チームでの紅白戦も可能になります。競技人口やチームの裾野が広がれば、より競技レベルも上がるはずです。育成と受け皿の拡充を同時に進められれば理想的です。

    二つ目は観客を増やすことです。過去の国際試合で東京体育館が満員になった景色が、どうしても忘れられません。あの時の光景を再現し、世界大会やクラブチーム日本一を決める日本選手権で3,000人規模の観客を集める状態をつくりたいですね。観客が増えれば選手のモチベーションが上がるだけでなく、観戦した人の人生に火が灯ります。「勇気を与え、社会を元気にする」という役割も担っていきたいですね。

    再びあの満員の景色を。競技人口2倍、観客3,000人規模の大会実現を目標に掲げる[写真]MegumiMasuda/JWRF

    世界一の舞台で、ビジネススキルを解き放ってほしい

    ———日本車いすラグビー連盟では現在、トップマネジメントポジションとして「ハイパフォーマンスディレクター」を募集されています。本ポジションの魅力を伺えますか?

    日本の車いすラグビーはパリ・パラリンピック大会で金メダルを獲得し、現在は世界ランキング1位という地位を獲得しています。そんな日本が誇る最高のチームの運営にトップマネジメントとして関われるダイナミズムは、何ものにも代えがたいと思います。ビジネス経験をスポーツの舞台で活かせるまたとない貴重な機会を、ぜひ見逃さないでほしいですね。

    ———活躍するうえでのアドバイスなどがあればお願いします。

    車いすラグビーの専門的な知識をキャッチアップするには時間がかかるかもしれません。また、スポーツ団体の特性上、論理だけではなく関わる人の想いも大変重要なので、感情に向き合った粘り強い組織マネジメントが必要です。

    とはいえ経営企画や人事、営業の部門責任者、あるいはハンズオンで成果を出した戦略コンサルタントの方などであれば、成果を出すのにそれほど時間はかからないでしょう。これまで培ってきたビジネススキルを存分に発揮し、日本が誇る最高のチームの運営に活かしていただきたいですね。

    PROFILE

    山野 智久(やまの・ともひさ)さん

    明治大学法学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。2011年3月にアソビュー株式会社を設立。以降、レジャー×DXをテーマに、遊びの予約サイト「アソビュー!」、観光・レジャー・文化施設向けバーティカルSaaS「ウラカタシリーズ」を展開。社外では、2023年6月に日本車いすラグビー連盟の理事に就任し、2024年10月1日に理事長に就任。アソビュー株式会社で培った経営ノウハウとマーケティング力を活かし、車いすラグビーの活性化に貢献している。

    interview & text:八幡和樹/dodaSPORTS編集部
    photo:山内優輝

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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