世界で活躍した元アスリートたちが語る、スポーツとビジネスの意外な関係性 – スポーツの力で、人と社会の可能性を革新する「SPORTS×HUMAN ENGINE」 –
井口資仁さん 播戸竜二さん 登坂絵莉さん
スポーツには、働く人やビジネス、そして社会の可能性を革新する力が秘められている。dodaに掲載されたスポーツ求人はこの7年間で7.3倍(※)に増加するなど、業界は急拡大中。一方、スポーツ産業が求めるビジネス人材の不足や人材流動性の低さ、アスリートのセカンドキャリアの問題など、まだまだ多くの課題があるのが実情だ。
それらを乗り越え、スポーツが本来持つ可能性をもっと引き出すため、人材業界とスポーツメディアで存在感を発揮する各社が力を合わせた新事業「SPORTS×HUMAN ENGINE」がスタートした。
その第一弾である、スポーツと採用に特化したメディア「dodaSPORTS」の公開に合わせた記者会見では、日本代表の元アスリート3名が登壇したパネルディスカッションを開催。引退後の選手のキャリアや社会とのかかわりについて「スポーツ経験はビジネスでも生かせる」「現役時代に将来のキャリアを考える機会が足りない」など、忌憚ない意見を交わし合った。
(※)転職サービス「doda」掲載の求人実績より算出(2018年4月~2025年3月)
Index
司会進行はパーソルイノベーション株式会社代表の大浦征也が担当
「シュートを打つ」ことの強みは、ビジネスでもスポーツでも共通
パネルディスカッションに登壇したのは、元プロ野球・メジャーリーグ選手の井口資仁氏、元プロサッカー選手で日本代表の播戸竜二氏、元女子レスリング日本代表の登坂絵莉氏の3名。いずれも国内外を舞台に名をはせたプレーヤーであり、引退後もそれぞれのフィールドで活躍を続けている。
スポーツ界やアスリートが抱える課題に精通した3名
今回発表された「SPORTS×HUMAN ENGINE」は、企業と人材のマッチングに特化したパーソルキャリア株式会社・パーソルイノベーション株式会社と、スポーツメディアを持つスタートアップである運動通信社が持つ強みをかけわせることで、社会に新たな変革をもたらすことを目的としている。
選手として国内外で活躍したのち、千葉ロッテマリーンズの監督も務めた井口氏
そんな「SPORTS×HUMAN ENGINE」の取り組みを「いま、一番求められている事業では」と評価する元プロ野球選手の井口氏。野球解説者や後進育成に従事しているが、ゼロから会社を起業した経営者という顔も持っている。スポーツで得た経験と「はたらく」ことの関係性について、選手人生を振り返り、「プロは結果を出さなければいけない。目標を設定して成績という結果を出すために実行してきたことが、起業したいまのビジネスにもつながっている」と話した。
Jリーグ特任理事などを務め、現在もサッカーの普及に尽力する播戸氏
一方、実はパーソルイノベーションでスポーツ関連事業に長年取り組んできたという播戸氏。アスリートのセカンドキャリアを支援する「株式会社ミスタートゥエルブ」を立ち上げ、代表を務めている。現役引退後も活躍を続ける秘訣として、21年間のサッカー選手経験を通して得た「フォワードとしてシュートして点を取る」という役割が、「仕事を取りに行く」という積極的な姿勢につながっているという。
過去に播戸氏とともに事業に取り組んでいた司会の大浦も、引退を前に突然オフィスに訪れた播戸氏との面会がエバンジェリストとしての業務委託契約につながったこと、その後の協業を振り返り、ストライカーとしての「決定力」を絶賛した。
登坂氏は一般社団法人の代表として社会貢献活動にも従事
現在は一般社団法人スマイルコンパスを立ち上げ、特別支援学校や児童養護施設の子どもたちにスポーツと触れ合う機会を提供している登坂氏。元女子レスリング日本代表として世界選手権3連覇を達成した実績を持つ登坂氏だが、実はネガティブ思考な面があるという金メダリストの本心を吐露。
「アスリートはポジティブがいいといわれますが、ネガティブも悪くない。常に危機感を持てるし、貪欲に日々取り組んで、自分の番が来たときは堂々とやりきることができる」と、大舞台で勝利をつかみ、現在の活躍にもつながるメンタリティを紹介した。
「引退後に自分を生かせる場がない」という悩みを抱えたアスリートたち
一般の企業をはじめとしたビジネスの世界でも通用しうる力と経験を持ったアスリートだが、まだまだ選択肢や活躍の機会が十分とはいえない。一方で、企業側もスポーツ人材を獲得し力を発揮してもらう方法がわからないという課題を抱えており、新事業によるマッチングの場が求められている。
スポーツ界が抱える課題については、3名から「まだまだ引退後に自分を生かせる場がない」という、選手のキャリアについての問題が異口同音にあがった。
目の前の競技に挑む集中力がゆえに、将来がイメージできない選手が多いという
登坂氏は「(現役引退後に)やりたいこと、何ができるのかが見えない。競技を続けられる環境があったとしても、そのぶん次のスタートが遅れてしまう」と、金メダルを目指す選手たちがその先のキャリアを考える困難さに言及。また自身は現役を退く際に、結婚して子供を持つという女性としての生き方を優先したと話し、「女性はライフステージによって環境が変わり、選択肢がより狭くなるタイミングもある。そこも課題かなと感じます」と葛藤があったことを明かした。
播戸氏はJリーグ選手OB会の副会長を務める中で、引退した選手から「これからどうしたらいいか悩んでいる」と相談された経験を紹介。将来何をしたいかを「考えたことがない」と答える人が多く、「選手時代からどうなりたいかを考えた方がいい。自分ではわからなかったら、周囲が本人の力を見て『こういう道がいいんじゃない』と言ってあげるような環境が必要」と、キャリアを考える機会の重要性を語った。
今回の新事業には元アスリートのメンバーも参画(発表資料より抜粋)
スポーツ、そしてアスリートが持つ力の大きさは誰もが認めるところだが、それをビジネスや社会全体に広げるためには、まだまだ環境が整っていない部分も多いようだ。だからこそ、「SPORTS×HUMAN ENGINE」に寄せられる期待は大きなものになる。登壇者の3名からは、新事業のアンバサダーとして「アスリートの力を日本の社会のために発揮できるように、今後も一緒にやっていきたい」と各社代表に見事な「シュート」が撃ち込まれ、パネルディスカッションは幕引きとなった。
第一弾の「dodaSPORTS」は、スポーツの世界で働く窓口に
左から、若村祐介(運動通信社)、瀬野尾裕(パーソルキャリア)、大浦征也(パーソルイノベーション)
スポーツ業界全体を見渡すと、パネルディスカッションで話題にあがったアスリートのセカンドキャリアだけでなく、人材流動性の低さや人材不足、関係者の働き方などさまざまな「人」に関する課題が浮き上がってくる。
「SPORTS×HUMAN ENGINE」では、それらの解決策として3つの事業を展開予定。第一弾となる「dodaSPORTS」は、スポーツ関連企業への職業紹介や採用支援、スポーツ周辺人材へのキャリア支援を中心とした取り組みだ。
これまでも現場目線にこだわってきたスポーツビジネスメディア「ONGROUND」を進化させる形で、スポーツ業界特化型の採用・キャリア支援プラットフォームに刷新。動画メディアを用いて業界の人材流動性の活性化を目指す。運動通信社の配信メディアである「SPORTS BULL」を入り口とした連携や、パーソルキャリアの採用メディア「doda」と通した応募など、各企業の強みを生かした展開が予定されている。
今後は、スポーツ関連団体が抱える人材・ノウハウ不足を解決するためのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング=業務の一部を専門企業に委託すること)事業「PERSOL SPORTS BUSINESS BOOSTER」による業務受託もスタート。スポーツ産業の基盤を強化するため、業務支援や副業マッチングを通じた効率化を実現する予定だ。
また、スポーツウェルネス事業「PERSOL SPORTS WELLNESS PROGRAM」では、企業の健康経営・エンゲージメント施策の導入支援を実施。アスリートの持つメンタリティや、結果を出すことにこだわる行動力を生かしながら、スポーツを起点としたウェルビーイング文化の創出を目指していく。
スポーツ業界が抱える課題の特効薬となるべくスタートする各事業。「SPORTS×HUMAN ENGINE」を通して、スポーツの力とビジネスを掛け合わせることができれば、より多くの人にとって働く選択肢が増える社会が実現できるはず。プロフェッショナル同士が手を組んだ新事業の行く末に、今後も期待したい。
今後のスポーツ界をどう変化させていくか、注目の新事業「SPORTS×HUMAN ENGINE」
interview & text:小南恵介/dodaSPORTS編集部
photo : 運動通信社
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










