野球を応援してきた経験がファン目線という意外な武器になりました│パ・リーグ球団 仕事図鑑2025 – “六人六色” のキャリアジャーニー

西村 咲輝さん

株式会社西武ライオンズ
事業部 チケットグループ

前職：金融業界

ホークスファンからカープファンへ

　出産・育児と仕事の両立は、日本社会において大きな課題のひとつだと思います。私は今、プロ野球球団においてそれに挑戦しているひとりです。

　佐賀県で生まれ育った私にとって、プロ野球は子どものころから身近な存在でした。隣の福岡県に福岡ソフトバンクホークスがあり、居間のテレビで毎日のように試合中継が流れていたからです。

　最初は特に興味を持っていたわけではなかったのですが、無意識に頭に刷り込まれていたのでしょう。中学2年生のある日、夢にホークスの選手が出てきたんです！　急に試合が気になり始め、月刊ホークスを毎号買うようになりました。福岡ドームの試合にも５回ほど応援へ行きました。川﨑宗則選手（※1）や杉内俊哉投手（※2）が推し選手でした。

　といっても、それからずっと熱狂的なファンだったわけではありません。広島の大学へ進学してからは広島東洋カープを応援するようになりました。

　大学の卒業が近づくと、就職先の選択肢としてプロ野球の球団も頭によぎりました。ただ、スポーツ業界に就職した大学の先輩がすごく忙しそうにしているとの話を聞いて躊躇してしまい、結局、金融機関に就職しました。

　ここから私のキャリアは少し迷走してしまいます。金融機関では営業を1年担当していましたが、自分には向いていないと感じ、ほかの職種にチャレンジをしてみたいと考え転職を決断しました。次の会社では営業事務を担当したのですが、これも自分が思い描いたものと違うと感じ、社会人３年目にやはり夢だった球団職員を目指そうと決心したのです。業務内容を特定しないオープンポジションの求人を探し、いくつかの球団に応募しました。

ファン目線が武器に

　正直なところ、自分に特別なスキルはないと感じていました。ただ、転職活動をするうちに、自分には意外な武器があったことに気がつきます。それはホークスやカープを追いかけていた「ファン目線」。それを評価してもらえたのか、埼玉西武ライオンズの採用担当者が私に目に留めてくれました。2019年6月、私はファンクラブ担当としてライオンズに就職することができました。

　もちろんうれしかったですよ。夢がかなったんですから。ただし同時に「現状に満足しないようにしなきゃ」と気を引き締めたのを覚えています。

　ライオンズに入社後は、ファンクラブ会員の情報管理やグッズの在庫管理を担当しました。配送会社とやりとりして、入会したファンの方に入会記念品を送るといった仕事です。

　率直に思ったのは、グラウンドはすごく華やかですが、舞台裏は地味な作業も多いということです。けれど、それらが確実にグラウンドにつながっている。日々大きなやりがいを感じました。

　転職してからは、仕事だけでなくプライベートも充実していきました。2021年に結婚し、2022年には妊娠・出産を経験しました。ライオンズは、産前産後の休暇制度と育児休業制度が整えられています。私は2022年12月に第一子を出産し、４月末まで育児休業を取りました。

　職場に復帰するにあたり、時短勤務と平日勤務を希望しました。保育園の送り迎えなどがあるからです。

　ファンクラブ担当は試合開催に合わせての勤務となるため、土日出勤があります。復職に向けての相談のなかで、チケットグループへの異動を上司が提案してくれました。個人的にも興味がある仕事で、平日勤務が可能な業務ということで、私にとっては打ってつけの挑戦。チケットグループで新たなスタートを切りました。

 職場のサポートで育児を両立

　職場復帰してから約２年。結論から言えば、ここまでやってこられたのは同僚たちのサポートのおかげです。特に１年目は娘の体調不良で私が出社できないことが重なり、職場に迷惑をかけてしまうこともありました。それでも同僚の仲間たちにサポートしてもらって仕事を進められました。

　今、担当しているのは「票券管理」です。具体的には球団が使っているチケットシステムに、試合の情報や配席に関する情報を登録します。販売状況を報告するのも仕事のひとつです。やはりうれしいのは完売になること。部署全体で取り組んで完売試合をつくれたときはすごく達成感があります。

　周囲の協力や会社の制度がなかったら、今の仕事と家庭を両立したはたらき方は難しかったと思います。近い将来、さらに多様なはたらき方ができる社会が実現することを期待しています。

（※1）川﨑宗則（かわさき・むねのり）：1981年6月3日、鹿児島県出身。2000年福岡ダイエーホークス（現在福岡ソフトバンクホークス）にドラフト4位で入団。シアトル・マリナーズなどMLBでも活躍。現在も現役を続けており、43歳でカリビアンシリーズ2025に出場した。

（※2）杉内俊哉（すぎうち・としや）：1980年10月30日、福岡県出身。2002年福岡ダイエーホークス（現在福岡ソフトバンクホークス）にドラフト3位で入団。球界を代表する左腕になり、2018年に現役を引退。現在、読売ジャイアンツの投手チーフコーチを務めている。

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