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サッカー選手から政治家秘書へ。異例の転身へ背中を押した思いとは

佐藤 和樹さん

元プロサッカー選手/政治家秘書

キャリアの転換点に立たされたとき、自身の「これまでの経験」を頼りに将来を考える人も多いだろう。一方、「新しい可能性」を求め、これまでとはまったく異なる世界に踏み出しチャレンジをする人間もいる。政治家秘書として政治の世界でのキャリアをスタートさせた佐藤和樹さんもその一人だ。プロサッカー選手としての競技生活を終え、次の人生を模索していた佐藤さんを政治の世界に進ませたきっかけとは——その背景を聞いた。

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    地元クラブの名古屋グランパスでプロサッカー選手になる夢を叶え、約12年間サッカーの世界で生きてきた[写真]©N.G.E.

     “毎日が違う日” 新鮮な発見のある日々

    ———2024シーズンで現役を引退し、新しい社会人生活がスタートしました。まずは現在のお仕事について教えてください。

    自民党神奈川県参議院選挙区 第六支部支部長の脇雅昭(わき・まさあき)さんの秘書として働いています。脇さんのスケジュール管理や送迎に加え、今は関係各所の皆さまへのあいさつ回りなどもしています。2025年始の賀詞交換会では、1日に数百人もの方々にごあいさつさせていただきました。そんな枚数の名刺をお渡しするなんて、これまで無かった経験です(笑)。

    ———アスリートから政治の世界へ。思い切った転身ですね。

    初めてのオフィスワークなので、分からないことも多いぶん、新しい発見があって毎日が新鮮です。ただ、これまでサッカーの世界で生きてきたこともあり、まずは政治の世界だけではなく広く社会のことを学び直す必要を感じています。ぼくは臆せず人に相談できるタイプなので、分からないことがあればすぐ政治家秘書の先輩方に教えていただいていますよ。もちろん、自分で調べたり、動画を見て勉強するなどの地道な学習にも取り組んでいます。

    「仕事の中では“些細な気遣い”が大事だと気が付くことも多いです。学ぶのは業務のことだけではありません」と語る佐藤さん[写真]渡邉彰太

    ———日々の中で、現役当時と一番違いを感じる点はいかがでしょうか?

    サッカー選手時代は、当日の行動予定・食べるもの・寝る時間……生活の中のあらゆる事柄がルーティン化していました。プレーだけではなく、“身体づくり”そのものが仕事だったからです。一方で今は、1日として同じ日がありません。脇さんは、地域の課題と向き合うために本当にさまざまな分野の方々と活動をされているので、同行するぼくも「今日は、どんな方と会って何をするんだろう」とワクワクします。スケジュールは毎日ぎっしりで多忙ではあるのですが、選手時代に鍛えた体力の賜物(たまもの)で、忙しさはまったく苦ではありませんね。

    ———ご家族の生活も変わったのではないでしょうか?

    はい。食事管理を始めとする生活面はこれまで妻が協力してくれていましたが、現役時代ほど負担をかける必要がなくなりました。ただ、競技中心の生活からビジネスの世界へと環境が変わったことで、まったく違った働き方や生活リズムに適応する必要がありました。脇さんの秘書になって、宮崎から神奈川に移住することも大きな決断となりましたが、ぼくを信じて任せてくれた妻には本当に感謝しています。

    最愛の家族との一枚。そばで息子の成長を見守れる幸せ[写真]本人提供

    「この人のもとで成長したい」と思わせてもらえた

    ———ところで、どのようにして政治の世界でのキャリアが開けたのでしょうか?

    現役引退が決まり、次のキャリアを模索していたとき、親交のあったラグビー日本代表の竹内柊平選手が脇さんを紹介してくれたんです。聞けば、竹内さんは脇さんに「スポーツの世界で、一つのことをやり切った人と一緒に働きたい」と相談を受けていたそうで。初めてお会いしたときに二つ返事で秘書をお受けした……というわけではなかったのですが(笑)、関係を続けていく中で脇さんの信頼できる人柄に触れ、「この方の元で自分を成長させていきたい」という気持ちが膨らみ、思い切ってチャレンジすることにしたんです。

    ———脇さんという「人との出会い」がポイントになったんですね。

    そうですね。それまでは、「サッカーの経験が活かせる」とか「故郷の名古屋に戻れる」とか、目の前の条件で絞って次の生き方を考えていました。しかし脇さんと出会って、「もっとたくさんの人々と出会い、見識を広げてから将来を考えても遅くはないぞ」と思うようになったんです。政治家秘書の仕事はまさにうってつけだと感じました。

    脇雅昭さんと。出会った日から気兼ねないコミュニケーションを取ってくれる人柄に魅力を感じた[写真]本人提供

    ———「たくさんの人々と出会いたい」。その点に着目した背景には何があるのでしょうか。

    やはり、サッカー選手時代の経験が大きいです。選手を取り巻く人間は頻繁に入れ変わるわけではないので、意識して外に目を向けなければ世界が広がりません。限られた人間関係に閉じてしまえば、サッカーの“プレー以上の価値”に気が付いてくれる方々との出会いも生まれないんです。

    ———サッカーの“プレー以上の価値”。もう少し詳しく教えていただけますか?

    水戸ホーリーホックに在籍していた当時、強化部長(現・取締役GM)の西村卓朗さんがよく「サッカー選手の仕事は、オン・ザ・ピッチの追求とオフ・ザ・ピッチの発信だ」と話されていました。当時のぼくは、その言葉の意味は理解できていても「とはいえ、結局サッカーはプレーが一番大事」と思い込んでしまったんです。しかしその後、所属チームを転々としたり怪我に悩まされたりして、ピッチに立つ機会が限られてしまった。その苦境の中で、改めて“プレー以上の価値”の大切さを考えるようになりました。

    個人のSNSを立ち上げて発信を始めたのもそのころです。たくさんの方々に、“本気でサッカーをしている人間の生の声”を知ってもらうことには価値があると思いました。本気の人間のありのままの姿を見て、感じてもらえることがあればいいなと思っています。

    順風満帆とばかりは言い難かった現役時代。サッカー選手としてプレー外でも人を笑顔にできることがないか考え始めた[写真]©N.G.E.

    人と人とのつながりを力に変える

    ———ヴェロスクロノス都農(九州リーグ)の在籍時には、「地域おこし協力隊」としても活動されていましたね。

    それも、ピッチの外で人を笑顔にできることは無いか考えてのことです。サッカー選手をしながら町おこしにも携われることを知り、ヴェロスクロノスに移籍しました。町役場の皆さんと協力しながら都農町のPRをしたり特産品の生産をお手伝いしたり……さまざまな活動をしましたよ。

    ———中でも思い出深い取り組みを一つご紹介いただけますか?

    クラウドファンディングを立ち上げて協賛を募り、地域の子どもたちがさまざまな競技の現役アスリートとスポーツ体験をできるイベントを開催しました。クラファンページの運営や、返礼品協賛のお願い・各アスリートへの協力依頼など……たくさんの方々に助力いただきながらも、ほとんどを一人でこなしました。結果、クラファンの目標金額も達成し、イベント当日は多くの子どもたちとアスリートに参加してもらうことができました。子どもたちはもちろん町の人々に喜んでもらえた、忘れがたい思い出です。たくさんの方々とつながって協力し合えば、スポーツでより多くの人を笑顔にできるという手ごたえを得た経験でもあります。

    宮崎県都農町でスポーツイベントを開催。企画立案から運営まで本人が精力的に行った[写真]本人提供

    ———やはり、“人との出会い・つながり”がキーワードになっているんですね。その経験は政治家秘書の仕事にも活かせそうでしょうか。

    その経験を、“人と人とのつながりを大きなパワーに変えた”経験とするなら、今の仕事にも充分活かせると思っています。たとえば、最近は交流をもった省庁の方々に余暇のサッカーに誘っていただけることも増えてきたので、サッカーを通じてたくさんの方々をつなぐ役目を持つこともできるかもしれません。

    また、これまで政治に興味を持てなかったという方々にも、サッカーを起点にして興味を持っていただけるような発信ができないかと考えているところです。特に若年層を中心に、政治を“難しいもの”として距離を置いてしまっている方も多いと思いますが、サッカーをかけ橋として政治の世界に目を向けていただくきっかけが作れないかと。これまで政治の素人だった、ぼくだからこそ変えられることがきっとあるはずです。多様な方々が政治に興味を持ってくださることが、日本をより強く変えていく一歩になると信じて取り組んでいきたいですね。

    アスリートの力を日本の力に

    ———アスリートとしては異例のセカンドキャリアを歩む佐藤さんに、勇気づけられる方も多いのでは。

    競技生活に本気で取り組んできた分、次のキャリアをあれこれと悩んでしまう気持ちは分かります。でも、ぼくは悩むというよりも「こんな仕事も良いな」「あれもやってみたいな」とやりたいことがどんどん頭に浮かんできたタイプです。その意味では、まったく新しいことにチャレンジする準備はできていたのかもしれません。

    脇さんと出会い、脇さんを慕う方々との交流も生まれてからは、「たくさんの人と出会い、自分の新しい可能性を見つけたい」という気持ちをさらに強く抱くようになりました。今キャリアに迷っている皆さんも、自分がこれまで生きてきた世界を飛び出して視野を広げれば思わぬ道が開けるかもしれません。

    ———先ほども、「見識を広げるのに政治家秘書の仕事はピッタリ」というお話がありましたね。

    アスリートから政治家秘書への転身は、スポーツの世界を飛び出して社会のさまざまな姿を知るチャンスだととらえています。逆に、政治の世界にいる方々にも“元アスリートを登用することの価値”に気が付いていただければ、アスリートのセカンドキャリアとして政界を身近なものにできるかもしれません。今のところ、これからのぼくの働きにかかっていますね(笑)。やり抜く力やコミュニケーション能力、“まずは行動”というフットワークはスポーツの世界に育ててもらったものなので、この仕事でも存分に活かしていきたいです。

    生きる場所が変わっても、「周りの人を笑顔にしたい、幸せにしたい」という価値観は変わらずに大切にしたいと思いを語る[写真]渡邉彰太

    ———最後に、キャリアに迷うアスリートの方々にメッセージをお願いします。

    アスリートとして活躍されてきた方々が、「スポーツの世界しか知らない」ということをビハインドに感じてしまうのはもったいないと思っています。貴重な経験をし、得難い能力を身に付けてきたことは間違いがないので、社会に飛び出して広い世界で活躍してほしい。多様な方々がお互いに支え合うことで生まれるパワーは、きっとこの国をもっと盛り上げてくれるはず。一緒に頑張っていきましょう!

    Profile

    佐藤 和樹(さとう・かずき)さん

    幼少期からプロサッカー選手になることを目指し、サッカーに明け暮れる少年時代を送った。名古屋グランパスアカデミー時代はトップ選手たちを間近にする環境でプレーを磨き、2012年に同チームでプロデビューを果たす。以降、水戸ホーリーホック、ヴァンラーレ八戸など日本各地のプロサッカークラブに所属。2024年、ヴェロスクロノス都農(九州リーグ)での活躍を最後に引退した。2025年に神奈川県に移住し、サッカー・ラグビーを始めとしたスポーツ人口が多い同県を、「スポーツで輝く県」として盛り上げたいと燃えている。

     

    interview & text:笠井舞子/dodaSPORTS編集部
    photo:渡邉彰太

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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