多様な人材がスポーツの未来を切り開く│Diverse Sports Career Event 2025 イベントレポート
Diverse Sports Career Event 2025
2025年2月20日、多様な人材のスポーツ界へのキャリア進出と活躍を応援する「Diverse Sports Career Event 2025」が開催された。本イベントは、スポーツ界のインテグリティ(透明性・公平性・公正性)確保を目指すスポーツ庁に賛同し、「多様な人材の育成・マッチング事業」を受託・推進するパーソルキャリア株式会社が主催した。
当日は、異なるバックグラウンドを持つ現役スポーツ団体理事4名が登壇し、スポーツ界に多様な人材が集まることの重要性や、スポーツ界ではたらく魅力をテーマにトークセッションが行われた。
Index
持続可能な組織運営には多様な視点が不可欠
|登壇者紹介|
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池田 信太郎氏
Splat株式会社 代表取締役/公益財団法人日本バドミントン協会理事/スポーツエコシステム推進協議会評議員/日本財団HEROsアンバサダー
5歳からバドミントンを始め、筑波大学進学後に日本ユニシス株式会社に入社。国内のタイトルを2度獲得し、2007年世界選手権で日本人初のメダルを獲得。2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪に出場する。2015年に現役を引退。<br /> 引退後はフライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社/スポーツ&エンターテイメント事業部でスポーツスポンサーシップ、ブランド戦略、戦略コミュニケーション立案、デジタルコンテンツ運用、管理統括など企業の成長に資するコンテンツを提供。2023年3月に独立し、Splat Inc.を設立。
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田口 亜希氏
日本財団パラスポーツサポートセンター 競技団体支援部ディレクター
学校卒業後、郵船クルーズに入社、客船「飛鳥」にパーサーとして乗務。25歳の時、脊髄の血管の病気を発症し、車椅子生活になる。退院後、友人の誘いでビームライフル(光線銃)射撃を始め、その後実弾を使用するライフル射撃に転向。アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場。アテネでは7位、北京では8位に入賞。現在は日本財団パラスポーツサポートセンターで勤務すると共に日本パラ射撃連盟理事、日本パラリンピック委員会運営委員、日本オリンピック委員会理事などの役職を務める。昨年8月に開催されたパリ2024パラリンピック競技大会では日本代表選手団団長を務めた。
第1部は、元バドミントン選手の池田信太郎氏と、元パラ射撃選手の田口亜希氏という元アスリートでもある二人によるトークセッション。それぞれ組織規模や成り立ちが異なるスポーツ団体で役員を務める二人の視点から、スポーツ界の現状と展望、多様な人材を採用することの重要性が語られた。
池田氏は、バドミントン協会の近年の歩みとして、ガバナンス強化のために外部理事の登用を積極的に進めてきたことを紹介。業務執行と監督機能を切り分けることで、組織運営の健全化を実現してきたという。少子化に伴う会員数の減少が見込まれる中で、公益財団法人とはいえ、新しい収益の柱を築ける「稼ぐ力」を実装することが次なる課題だと語った。
一方、田口氏は、多くのパラスポーツ団体がボランティアの手で運営されてきたことを紹介。2019年に策定された「スポーツ団体ガバナンスコード」に即した環境整備を進めながらも、会員数100名程度のパラ射撃連盟のような小規模な団体においては、限られた予算・人的資源を活かしていく、規模に見合った運営を目指すことが重要であると話した。
向き合う課題こそ異なるものの、「日本スポーツ界の更なる発展に向けて必要なこと」という最後のテーマでは、池田氏と田口氏はともに、団体の外へと視線を向けることの重要性について語った。
(田口氏) 「ほとんどのパラスポーツ団体が1、2名で運営されており、他団体の視察もできないのが現状です。それでも他の組織を知ることで課題に気づけることがあります。パラスポーツの世界でも、人のつながりをつくっていくことが大切だと感じています」
(池田氏) 「スポーツのさらなる発展のためには、“企業の投資対象”になることが重要だと思っています。これから企業がスポーツを応援することの対価は何か、どんな投資対象になるべきなのかということを考え抜き、答えを出していきたいです」
外部から新たな人材を迎え入れることと、外部へと目を向けること。これからのスポーツ界の発展にはどちらも欠かせない要素となるはずだ。
ワークとライフが融合する面白さ
|登壇者紹介|
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須藤 実和氏
公益財団法人日本バレーボール協会副会長/公益財団法人日本オリンピック委員会理事/公益財団法人日本サッカー協会理事/株式会社プラネットプラン代表取締役
大学は生物化学科で修士課程まで免疫の研究に従事していたが、日本の産学共同推進に貢献したいとの思いから株式会社博報堂に入社し、マーケティング戦略立案を経験。その後、アーサー・アンダーセンにおいて公認会計士としての経験を経て、シュローダー・ベンチャーズに参画、ベンチャー企業投資育成業務に携わる。1997年に戦略系経営コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーに参画し、2001年より同社パートナーとして企業のコンサルティング活動に加えて講演・執筆活動を行う。<br /> 2006年に独立し、慶応義塾大学大学院特任教授に就任。現在は、ベンチャー企業の育成支援や国内大手企業の戦略立案支援、事業・人材開発支援に従事するとともに数社の社外取締役を務める。
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中根 弓佳氏
B.LEAGUE理事/サイボウズ株式会社人事本部長 兼 法務統制本部長
1999年、慶応義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。<br /> 2001年、サイボウズ株式会社に入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事においても制度策定や採用を中心とした業務に従事。法務部長、事業支援本部副本部長を歴任し、財務経理などを含め、これら全般を担当する事業支援本部長に就任。<br /> 2014年 8月より執行役員、2019年1月より人事本部長 兼 法務統制本部長。人事本部長として、チームワークあふれる会社を創ることを理想に、 組織開発、人材開発等を行っている。<br /> 2019年からB.LEAGUE(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)理事。
続く第2部では、ビジネスフィールドに身を置きながらスポーツ団体の理事を務め、それぞれの組織で戦略立案や組織づくりを手掛ける須藤実和氏(日本バレーボール協会副会長)と、中根弓佳氏(B.LEAGUE理事)が、ビジネスパーソンの視点から見たスポーツ界の魅力について語り合った。
経営コンサルティング領域ではたらいてきた須藤氏が協会運営に携わるきっかけになったのは「スポーツの求心力」だったという。企業が求心力を持つのが難しい現代において、スポーツの世界が持つ一体感は経営の観点から見ても興味深く感じられたと語る。
中根氏は、そんな人々が集まるスポーツの現場に対して、教育から健康分野まで、人のウェルビーイングに幅広くアプローチできるプラットフォームとしての可能性があると語った。競技としての強さを目指すだけでなく、競技の魅力に集まった人たちとともに社会への価値を生み出していくことがやりがいになっているという。
終盤に二人に向けられた「スポーツ団体ではたらくことは、キャリアにおけるどんなベネフィットがあるか」という質問に対して、中根氏はビジネスに限定されないキャリアの広がりがあると語った。
(中根氏) 「ワーク、ライフ、ソーシャルすべての要素が詰まっているのがスポーツの魅力だと思います。仕事としてやっているのか、自分の楽しみとしてやっているのかの区別がなくなるようなはたらき方に面白さを感じています」
そんな中根氏の言葉に賛同し、須藤氏もスポーツ団体ではたらくの魅力について語った。
(須藤氏) 「とにかく面白いんですよね。アスリートもいれば、学校の先生や自治体の方々もいる。でも、みんなが想いを一つに常に前を向いている。この面白さとやりがいを体験していただくと、やめられなくなると思いますよ(笑)」
新しいスキルやポジションを得ることとは一味違うキャリアの広がりが、スポーツ界なら経験できるのかもしれない。
本イベントの最後には、公益財団法人日本自転車競技連盟、一般社団法人日本車いすカーリング協会、一般社団法人日本パラダンススポーツ協会による採用説明会も実施された。
参加者にとっては、スポーツ界ではたらくことを、よりリアルにイメージできる時間となったのではないだろうか。
interview & text:川端優斗/dodaSPORTS編集部
photo:本人提供
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










