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元チアリーダーがビジネス視点で語る「チアの技術と努力の対価」とは

友安 早耶加さん

パーソルホールディングス株式会社 グループコミュニケーション本部 広報室/OrientalBioシルバースターチアリーダー Director

華々しいチアリーダー現役生活を終え、現在は日本社会人アメリカンフットボールリーグ・Xリーグで活動するチーム、OrientalBioシルバースター専属チアリーダーのディレクターを務める友安さん。チアメンバーを支えつつ、社会人としては人材サービス企業で広報を担い、広報活動の一環でスポンサーの立場からスポーツを支援している。

いろいろな角度でチアに携わり、見えてきたのは日本のチアの課題。「チア一本で食べていけなくても当然」という現状を変えるため、チアの価値を再定義し、正当な対価が得られる未来をビジネス観点で模索する。

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    シルバースターチアリーダー現役時代の友安さん。キャプテンとして約3年半、活躍していた(1列目手前)[写真]本人提供

    競技スポーツとしても注目されるチア

    ———一般的にチアといえばスポーツを応援するイメージが強いと思いますが、2021年にチアリーディングがオリンピック公式種目に認定されたこともあり、競技チアの注目度も高まっていると思います。応援活動と競技チアの違いについて教えてください。

    「応援活動」としてのチアは、スポーツ観戦に来ているファンやサポーターのお客様の応援を促し、会場全体を盛り上げる役割を担います。ノリの良い曲でダンスパフォーマンスをしたり、マイクの呼びかけで手拍子を仰いだりして、誰もが応援しやすい環境をつくり、会場に熱狂を生み出します。

    「競技チア」は、いかに観客を惹きつけられるかが評価される表現スポーツです。採点基準は、特殊なジャンプや組体操のようなスタンツという技の完成度から、元気さ、笑顔、同調性まで幅広く、ジャンルでいえばアーティスティックスイミングや体操に近いですね。口で説明するのは難しいですが(笑)、後ろに宙返りしながら足を左右に開いて閉じ、横にも回って返ってくる技「Xアウトフル」など、ダイナミックできれいな技は見応えがありますよ!

    東海大学のコーチに任命され、チームを全日本学生チアリーディング選手権大会出場へ導く [写真]本人提供

    ———競技チアでは、アメリカなど強豪国を抑えて世界選手権大会で優勝する日本人選手も出てきていますね。日本でチアの盛り上がりは実感しますか?

    実感はあります。盛り上がりのきっかけは、2008年の小学校・中学校の学習指導要領改訂や2012年の中学教育におけるダンス必修化かなと個人的には思います。そのころより、子どもたちは小学生から中学生までの約9年間ダンスに関わることになりましたからね。キッズチアリーダー講師をしていた2015年以降は、年齢問わずチアの競技人口が増えるのを肌で感じていました。小学生時代から体幹を鍛え、バック転ができるような子たちが成長した今の日本のチアは、私の現役時代よりはるかに進化していますよ。

    華やかな舞台の裏に、絶え間ない努力

    ———どんなときも笑顔を絶やさないチアリーダー。どのようなプレッシャーと戦っているのかなかなか見えてこない裏側についてお伺いしたいです。

    応援活動も競技チアもミスできないプレッシャーは同じくらい強いです。応援活動は完成度を高めることでお客様に安心して楽しんでもらい、競技チアは難易度の高い技の完成度を高めることで評価につなげるという違いはありつつ、どちらも努力しなければならないというのは同じですね。応援活動では、ダイナミックな印象でもミスが起きにくい構成を考える等の工夫もしています。

    笑顔で観客を楽しませ、選手にエールを届けるシルバースターチアリーダー[写真]本人提供

    ———ミスを防ぐためにも、シルバースターでは普段どういった練習をされているのでしょうか?

    運動量はかなり多いです。私が現役のときは何も意識しなくても体重が増えませんでした(笑)。練習は平日1回、土日1回が基本ですが、その他自主練習もしますし、シーズン中は土日どちらかが試合のため週3日稼働する場合もあります。うちのチームはアクロバティックなスタンツをするのが特徴で、ピラミッドやバスケットトスは3~5メートルもの高さが出ます。そこから地面に落下したときの衝撃は非常に大きく、少しのミスで大けがにつながる危険性があるため、体づくりは重要です。それと、同じくらい大切なのが信頼関係。誰しもが持つ恐怖心を拭い去るために一人ひとりと対話を重ねたり、個人に合わせた伝え方で的確に意思疎通をしたりしながら、あうんの呼吸が生まれるレベルまで団結力を高めていきます。

    アクロバティックな技で観客を魅了。練習も本番さながらに進めていく[写真]中野賢太

    ———体力面、精神面、団結力どれも高いレベルが求められますね。そのほか、振付の準備などはどのように行っていますか?

    振付や音楽選定・編集、パフォーマンスで使用するアイテムの準備等は全部チアメンバーで分担して行います。音楽は1試合で30曲以上用意しますね。チアは、ビジネス観点ではチームやスポンサー企業の広告塔の役割を担いますので、スポンサー企業のCM曲を採用したり、スポンサー企業の求めるチームの雰囲気や盛り上げ方に合わせて応援を組み立てたりします。

    他にも、歴代から引き継がれるチームのイメージを守りながら、新しいことに挑戦したいという意志も尊重し形にしていきます。ただし、関係者からのいろいろな意見に縛られてやりたいことができなくなっては意味がないので、譲れないことの目線合わせをし、細かいパフォーマンスについては基本任せてもらっています。

    「チアで稼げない」現状を根底から変えたい

    ———一生懸命準備し努力した結果のパフォーマンスはとても眩しくて魅力的ですね。一方で解決していきたい問題点などはありますか?

    問題に感じるのは、メンバーがチアの活動に時間やお金、体力をたくさんつぎ込んでもチアがビジネスとして成立せず、本業にするのが難しい点です。どれだけチアが大好きでも、高いスキルを磨いても、NFLやNBAの最高峰のチアを経験した子でさえ、チアを生業にできるのはほんの一握りです。

    ———お金をつぎ込むというのは、具体的にどのような状態ですか?

    学校の部活であれば部費を使って活動するのが基本ですが、多くの社会人チアは、メンバーの所属する会社のイベントや地域のお祭りなど、出演できる場を自分たちで探します。出演料としての報酬はなく、お弁当や交通費など感謝代のみいただけるケースが現在ではごく一般的ですが、それに対してチアの出費は、出演に向けた練習場所代やパフォーマンスに使用するアイテムの準備代、大会の登録費などさまざまです。活動費の予算がチームで確保されていない場合は特に負担が大きく、個人としては赤字になるでしょう。

    本人たちは稼ぐためではなく、とにかく楽しくてチアをやっていますし、活動するために支えてくださる周囲への感謝を忘れないという気持ちや、チアの基本である応援の精神があるので、疑問としては薄いかと思いますが……私はこの状況を変えたいです。

    ディレクターとして練習中もアドバイス。チアメンバーをもっとも近くで応援する存在[写真]中野賢太

    ———収入にならないどころか、手出し費用の回収も難しい場合があるんですね。課題はどこにあるとお考えですか?

    対価がもらえない、根深い構図があるのが課題だと感じています。チアが1番実力を見せられるのは一生懸命練習した成果を披露する場です。しかしながら、マイナースポーツゆえその機会が簡単には見つからないので、出られるイベントがあれば自らの出費があっても出たい! と考えるのが普通です。それに対してイベント主催側の方々には、場を提供することがすなわち報酬とみなされていて、チアと主催側で報酬の考え方に違いが生まれてしまっているなと。だから誰も悪気なく報酬ゼロで落ち着いてしまうわけです。

    ———強く課題に感じられている背景と、解決イメージがあれば教えてください。

    単純に、たくさんコストをかけて一生懸命準備して、質の高いパフォーマンスを提供できても、何も評価されないのはもったいないなって。儲かるとまではいかなくても、プロとして一定の対価は求められるようにすべきだと、ディレクターの立場になってからより強く思うようになりました。

    状況を改善するためには、まずは実績を作り、それを根拠に自分たちに値付けをし、プロ意識を持って相手に請求をしなければなりません。お金の話で強く主張するのはなかなか難しいですが、それが1番のポイントかと思います。実績を作る今の段階が苦しい状態なのでやきもきする部分はありますが、一歩ずつ進んでいきたいです。

    「大学時代にチアにときめき、のめり込んだ」と語る友安さん。多角的な目線で、大好きなチアの未来を真剣に考える[写真]中野賢太

    自分らしく、チアを楽しんでもらうために

    ———「自分たちを値付けする」「プロとして請求」といったキーワードに対して、ディレクターとしては具体的にどのように取り組んでいきたいですか?

    ディレクターの仕事は、チアメンバーの活動経費精算業務、SNSなど広報チェック、各関係者との調整など多岐に渡りますが、チーム内で予算の話をする際は、内部でもチアが使える費用についてしっかり交渉するようにしています。もちろん運営資金をやりくりする範囲で、ですが。

    対外的には、スポンサー企業を募る際、チアの価値を具体的に伝えるように努めています。例えば「ビジュアル的に目立つ」よりも「企業オリジナルのパフォーマンスをつくる」のほうが、かかる工数や提供できる価値が分かりやすいかなと。チアは勝敗や戦績のような分かりやすい値付けのベースがないので、価値の提示が難しいところですけどね。経費やメンバーの経験を見ながら少しでもプラスになるように金額を調整しています。

    ———広報担当としてスポンサー側の目線に立ったとき、チアの収入を上げるヒントはありそうでしょうか?やはりリーグの知名度が大きく影響しますか?

    チアが所属するスポーツがマイナースポーツだと稼ぎづらいというのは事実あると思います。だけど、「こういうチアがしたい」という理想が個々にあるので、必ずしも稼げるスポーツのチアをすれば良い、という話でもないんですよね。スポーツやチームごとにチアリーダーもカラーが異なっていて、共感できる環境で自分の個性を出せてこそ、心地良くチアの活動ができると思います。

    環境を変えるという選択肢を外して収入について考えると、地道ですがチアの価値への理解者を増やす草の根活動が大事だと考えます。これは私がスポンサー側の立場でいつも社内で意識していることなんですけど、何か実現したいことがあれば、身近な人の理解者をまずは増やしていくようにしていて、それが一番の近道だと感じるので、チアでも同じかなと思います。

    ———「自分の価値観に合うチーム」という点も含め、シルバースターのチアリーダーにはどのように活躍してほしいですか?

    シルバースターのチアはチームカラーのひとつに「健康美」を掲げています。アメリカでチアリーダーといえば、知的で自立したかっこいい女性として尊敬されますが、おそらく日本では少し違って、アイドルの卵やかわいいマスコット、妖艶で性的な存在、などの印象を、チームのカラー関係なく持たれがちですよね。個人的には、そういった女性のバイアスがかかった世間のイメージにメンバーが合わせる必要はないと思うので、各々の健康美を追求してくれれば十分と伝えています。

    自分の思う「良いチーム」や「理想の自分」を体現した結果、ひとりの人間として皆が評価されてほしい。そのために私はディレクターとして、メンバーが自分最適の姿でチアを楽しめて、努力が報われる環境を地道に整えていきたいなと思います。チアの業界全体への変革というと難しく聞こえますが、自分のチームを変えることから一歩ずつ始めれば、着実に前進していけるはずです。

    Profile

    友安 早耶加 (ともやす・さやか)さん

    大学で競技チアを開始し、未経験ながら高校時代の器械体操経験を活かして強豪チームで存在感を発揮。大学卒業後は競技チアのクラブチームを経て社会人アメリカンフットボールリーグ(X League)のシルバースター専属のチアリーダーとして活躍し、約3年半キャプテンを務める。現役引退後は同チームのチアリーダーの管理やチーム広報などを担うディレクターポジションに就任。そのほか、大学生チームのコーチ、キッズチアリーダー講師も経験し、社会人としては広報業務を軸にキャリアを築く。現在はパーソルホールディングス株式会社でコーポレートの広報を担い、スポンサーの立場でさまざまなスポーツの支援にも関わっている。

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    日本社会人アメリカンフットボールのトップリーグ「Xリーグ」で常に会場を盛り上げ、選手にエールを送るチアリーダー。試合が劣勢でも笑顔で選手と観客を鼓舞し、試合終盤も疲れを感じさせないほど元気で、裏にある努力を感じさせない。 今回お集まりいただいたのは、シルバースター専属チアリーダー、Narumiさん、Sayakaさん、Nonoさんの3名。チアに多くの時間と労力を費やす一方で、仕事も手を抜かず精力的に取り組んでいる。全力な姿から、多くの人が抱くであろう“かわいい”イメージを超えた、“かっこいい”姿にその印象が変わるはず。多忙な日々を前向きに過ごす彼女たちの原動力、「チアへの一途な想い」に迫る。

    interview & text:森本綾乃/dodaSPORTS編集部
    photo:中野賢太

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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