ビジョン演出で意識しているのは「球場内の空気の変化」を見逃さないこと │パ・リーグ球団 仕事図鑑2024
木寺 一樹さん
オリックス・バファローズ 事業本部 事業推進部 イベントグループ 課長代理
パ・リーグ各球団で活躍する球団職員の皆さんに、現在携わっているお仕事内容とそれぞれの転職にまつわる経験談を伺いました。転職理由を掘り下げることで見えてきた、やりがい、情熱、夢…そこには、独自のキャリアストーリーがありました。
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木寺 一樹(きでら・かずき)さん
オリックス・バファローズ
事業本部 事業推進部
イベントグループ 課長代理
前職:テレビ業界
世界観にこだわって映像を製作
ファンの大声援は言うまでもなく選手たちの大きな力になります。応援が勝敗を左右することもあるでしょう。そういう球場の盛り上がりのお手伝いをするのが大型ビジョンです。ぼくは大型ビジョンの演出を担当し、そのためのさまざまな映像制作をディレクションしています。
例えば選手がバッターボックスやマウンドに立つときの紹介ムービー。杉本裕太郎選手(※1)の映像には、本人が漫画「北斗の拳」の人気キャラクター・ラオウの衣装を着て登場します。杉本選手はいろいろ要望を出してくれ、快くコスプレを引き受けてくれました(笑)。
現在ボストン・レッドソックスでプレーする吉田正尚選手(※2)も率先してアイデアを出してくれました。本人から「マッチョ系はどうですか?」と提案があってダンベルを持ち上げる名シーンが生まれたんです。ダンベルは応援グッズ化され、大人気商品になりました。
ほかの映像も細部にこだわっています。回が変わるごとに、球団マスコットのバファローブルとバファローベルがビジョン内でスポンサーの看板を入れ替えるんですが、2人が動き出すタイミングを微妙にずらしています。マスコットが生きているように見せたいからです。
2023年、京セラドーム大阪ではメインビジョンの左右にウイングビジョンが新設され、横幅が約2倍になりました。その規模感を活かし、ビジョンの裏側に公式マスコットのバファローブルとバファローベルの部屋があって2人はそこから出てくるという設定にしています。世界観にこだわっており、「世界的人気アニメを超えたい」と同僚に言っています(笑)。
テレビ制作会社でノウハウを習得
前職はテレビ制作会社で情報番組のディレクターなどをやっていました。ロケに行ってVTRを作り、放送日はスタジオをセットし、若手だったので前説も担当しました。映像制作や編集のイロハを学ばせていただきました。
ただ、ぼくはもともとCMなどのショートムービーにあこがれていて、あまりテレビを見てこなかったんですね。テレビで求められるカット割りをできず、限界を感じていました。
そんなときに転職サイト「doda」に登録して出会ったのがオリックス・バファローズの映像制作の求人だったんです。「doda」のキャリアアドバイザーの助言を受けて面接に臨んだところ、幸運にもバファローズに入ることができました。
今、ビジョンの映像はすべて制作会社に発注しています。価格の相場やどれくらい作業工数がかかるかを知っているのがぼくの強みでしょう。気をつけているのはアバウトに発注しないこと。あいまいなオーダーだと、制作会社の手間が無駄に増えてしまうんです。こちらでしっかり内容を固めてお願いするようにしています。
また、試合日はビジョン演出のオペレーターチームのまとめ役(ディレクション)をやっています。客席を映すカメラ、スイッチャー(ビジョン映像の切り替えをする人)、音響、ボイス・ナビゲーターといった方たちに対して、インカムで演出の合図を出すんです。といっても自分で判断できる優秀な方ばかりなので、一定のルールだけ決めておき、基本的に自由に動いてもらっています。
一例を挙げると、打者の登場に合わせて、その選手のグッズを持ったファンを映すスタンバイをしておくという感じです。選手がバッターボックスへ行く前にビジョンを見ると、ファンが自分のタオルを持って応援しているというストーリーを作りたいんです。
意識しているのは、球場内の空気の変化を見逃さないこと。「ファンの期待値が上がってきた。今チャンス映像を流そう!」という感じで、盛り上がりの波をさらに大きなものにすべく働きかけます。
もちろん仕事上の緊張感はありますが、試合中はファンの視点に近いかもしれません。期待しながらグラウンドに目を向け、選手が活躍してくれたら後押しする映像を流す。球場が一体となる瞬間が、個人的には最高に幸せです。
(※1)杉本 裕太郎(すぎもと・ゆうたろう):1991年4月5日生、徳島県出身。2016年オリックス・バファローズにドラフト10位で入団。2021年にパ・リーグ本塁打王を獲得した。愛称は「ラオウ」。
(※2)吉田 正尚(よしだ・まさたか):1993年7月15日生、福井県出身。2016年オリックス・バファローズにドラフト1位で入団。2020年から2年連続で首位打者に輝いた。2022年12月、ポスティングシステムを利用してのMLB挑戦が承認され、ボストン・レッドソックスに入団。2023年WBCで日本代表の優勝に貢献した。
interview & text:木崎伸也
photo:松本昇大
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










