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FLAT HACHINOHEが目指す「地域とスポーツ」の新しい共生の形

FLAT HACHINOHE

プロアイスホッケーチーム・東北フリーブレイズの本拠地でもある、青森県八戸市にある多目的空間『FLAT HACHINOHE』。何でも普通のスポーツアリーナとは一味違うスポーツ体験が味わえる、地域活性化の拠点としても注目を集めているらしい。スポーツ施設が秘める地域貢献の可能性を探るべく、dodaSPORTS取材班は八戸へと向かった。

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    八戸駅前でひときわ異彩を放つ黒い建物

    JR東日本の東北新幹線と八戸線、青い森鉄道の青い森鉄道線が乗り入れる八戸駅。西口を出てすぐ、取材班の目の前に「FLAT」の文字が大きく刻まれたアリーナの姿が現れた。

    遠くの民家まで見渡せる開けた景色の中で、横長の大きな液晶ビジョンと黒一色のスタイリッシュな外観がひときわ大きな存在感を放っている。

    駅前の広々とした歩道(「シンボルロード」という名前だそう)を直進して、わずか2分で到着。近づいてみると、施設の全体像が見えてきた。遠目に見たときはクールな一方でどこか無機質な印象も受けた外観だったが、ガラス張りのエントランスホールによって屋内外のスペースが一体となって、開放的な印象の空間となっている。

    今回案内してくれるのは、FLAT HACHINOHEで館長を務める、クロススポーツマーケティング株式会社の木村 将司さん。

     

    お話を伺った人

    クロススポーツマーケティング株式会社
    FLAT HACHINOHE 館長
    木村 将司(きむら・しょうじ)さん

    生まれも育ちも八戸だという木村さん。長年勤めた銀行を退職し、2023年4月にFLAT HACHINOHEの館長に就任した[写真]冨田峻矢

     

    ———今日はよろしくお願いします。今回初めて八戸に来たのですが、閑静な住宅街の中に巨大なアリーナがあることに驚きました。

    木村さん 目立つでしょう(笑)。今はまだFLAT HACHINOHEしかありませんから。

    ———「今は」ということは、今後周辺にも何か新しい施設ができるのでしょうか?

    木村さん ええ。ここは八戸駅西地区というエリアになるのですが、地元企業や八戸市によって周辺一帯の開発も進んでいます。2024年には駅前に複合商業施設がオープンし、FLAT HACHINOHEと河川を挟んだ対岸にも公園ができる予定です。

    「FLAT」って、どういう意味?

    ———そうなんですね! 地域で進んでいる計画についても気になりますが、まずFLAT HACHINOHEとはどんな施設なのか教えてもらえますか?

    木村さん FLAT HACHINOHEはプロスポーツ用のアイスリンクを備えたアリーナを中核とした多目的空間として、2020年4月に開業しました。日本にはこれまで、スポーツを「する」ための体育施設や「観る」ためのスポーツアリーナがありましたが、それらに続く“第3の柱”となるべく生まれたのが、このFLAT HACHINOHEです。

    ネーミング・ロゴデザイン・空間デザインなどは、クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏が監修[画像提供]FLAT HACHINOHE

    通年型アイスリンクを備えたアリーナを中心に、屋内・屋外それぞれの空間も貸し出しを行っている[写真提供]FLAT HACHINOHE

    ———これまでの体育施設やスポーツアリーナとは、何が違うのでしょうか?

    木村さん 私たちが目指すのは、スポーツを「する」「観る」という基本的な楽しみ方に加え、「支える」「助け合う」「教える」といった人々のつながりを育む、地域共生拠点です。FLAT(フラット)という言葉には、分け隔てなく、あらゆる人に開かれた空間をつくろうという思いが込められています。

    プロスポーツ選手にも、地域の子どもたちにも開かれた空間

    木村さん 具体的には、アイスホッケーやフィギュアスケートなどのプロ選手や競技者の方々に使ってもらうのはもちろん、冬シーズンは学校のスケートの授業などで子どもたちにも利用してもらっています。そのほか、地域の方々の活動・交流の場として、さまざまな用途での利用を想定しています。

    スケジュールの一例[画像提供]FLAT HACHINOHE

    民間企業であるクロススポーツマーケティング株式会社が施設運営を行うFLAT HACHINOHEだが、年間利用枠の3分の1にあたる2,500時間を八戸市に貸し出し、市民利用や学校体育の場に活用されている。

    アイスリンク(個人利用)は券売機で滑走券を購入することで、気軽に利用可能。「八戸市多目的アリーナ条例枠(※)」と「一般滑走枠」で料金が分かれており、条例枠は大人でも580円という手頃な料金で利用できる。

    ※八戸市が2,500時間を借り上げ、その時間帯を一般に開放する枠

    ———レンタル用品もいろいろあるんですね。こういうところは公共施設みたい。

    木村さん ヘルメットやスケートヘルパーという補助器具は、地元企業さんの協賛で無料貸し出しを行っています。安心安全にアイススケートを楽しんでもらって、スケートを楽しむ層をもっと増やしていきたいんです。

    木村さんに案内してもらい、いよいよアイスリンクへ(一般利用者はこの入場ゲートを通ってリンクへと向かうそう)。

    新しいスポーツ体験をつくる最新の演出装置

    扉を開けてリンクに入った瞬間、「おおーー!」と取材班一同から声が上がる。整備時間で利用者は誰もいない状況だが、ひんやりとした空気と洗練されたモノトーンの空間に、思わずテンションが上がる。

    木村さん このFLAT ARENAには、プロスポーツやさまざまな商業イベントに活用できるように、最新の演出装置が導入されています。私たちは「劇場型」照明と呼んでいるのですが、一般的な体育施設やアリーナと比べると、少し明るさに違いがあるのは分かりますか?

    ———客席側が少し暗いような…

    木村さん そうなんです。客席は少し暗く、アイスリンクは明るくなるよう調整しています。それに加えて、リンク上空のセンターハングビジョンと場内を一周するリボンビジョン、緻密な音響設計のスピーカーによって、没入感のある観戦・鑑賞体験を味わってもらえるようになっています。

    ———スポーツ選手にとっても、これだけ演出に力が入っているとモチベーションが上がりそうですね。

    木村さん 実は、こうした演出は一般の方々が滑るときにも使用しているんですよ。

    ———えっ、プロの試合だけじゃなくて⁈

    木村さん 八戸市の条例枠と比べると、一般滑走枠は少し料金が上がりますが、その分プロスポーツ同様の装置を活用して、非日常的な空間でのスケートを楽しんでもらっています。子ども向けにプロジェクションマッピングを使ってリンクに迷路などを映し出したり、いろんな企画もしています。

    [写真提供]FLAT HACHINOHE

    企業の協賛で、授業でもプロジェクションマッピングを活用したことがあるそう。八戸で育つ子どもたちがうらやましい。

    木村さん FLAT HACHINOHEのもう一つの大きな特徴が、“フロアスイッチング”のシステムです。
    このアイスリンクに断熱式フロアを敷設することでバスケットボールの試合やさまざまな興行利用が可能になります。

    [写真提供]FLAT HACHINOHE

    実際のフロアチェンジの様子はこのような感じ。これまでには、e-Sportsイベントの会場として使用されたことも。コンコースにも飲食ブースが出店するなど、イベントによって同じ会場とは思えないほどの変わりようを見せる。

    アリーナ活用の可能性を大きく広げる「フロアスイッチングシステム」だが、運営側にとっては知られざる苦労もあるそう…

    ———フロアチェンジは機械で行うんですよね?

    木村さん いえ、断熱式フロアを敷く作業は人力で、私たちスタッフも全員参加で行っています(笑)。リンクを囲むガラス板の撤去は提携する地元の引っ越し会社さんにも手伝ってもらっていますが、作業翌日は確実に筋肉痛になりますね。

    通常の収容人数は1,550人だが、コンコース部分まで座席を増設することでアイスホッケー利用時には最大3,500人まで拡大。さらに断熱式フロアを敷設する場合は最大5,000人もの収容が可能になる。

    [写真提供]FLAT HACHINOHE

    試合やイベント開催日は出店があるほか、屋外スペース単体の貸し出しでマルシェが開催されるなど、活用方法はさまざま。

    木村さん 興行や協賛の営業活動では、東北フリーブレイズ、ゼビオアリーナ仙台、東京ヴェルディ、3x3など、ゼビオグループの仲間とも連携して、ナショナルクライアントにもアプローチしています。もっと多くの方にご来館いただけるようなイベントを開催したいと思っています。

    地域を盛り上げるには仲間が必要

    ———今日は案内していただきありがとうございました。一つの空間に、こんなにいろんな使い方があり、さまざまな人が集まってくることに驚きました。最後にFLAT HACHINOHEが掲げる「地域社会の活性化」というテーマについてお聞きしたいのですが、鍵を握るのはどんなことになりそうでしょうか?

    木村さん FLAT HACHINOHEだけでできることには限りがありますし、どれだけ地域の仲間たちといっしょに盛り上げていけるかが大事だと思っています。FLAT HACHINOHEは、八戸市が進める「八戸駅西地区まちづくり計画」の中核として位置づけられ、周辺のまちづくりとの連携も推進しています。八戸市の都市政策課と定期的に情報交換を行っていますが、今後はほかの民間企業や近隣の観光名所なども含めた仲間たちとの連携を深めて、地域一体となって取り組んでいきたいですね。

    おわりに

    FLAT HACHINOHEがオープンしたのは、コロナ禍が始まった2020年4月。東北フリーブレイズの試合でも、観客動員を従来の50%以下に制限していた期間が長かった。2023年はFLAT HACHINOHEにとってある意味第二のスタートともいえる一年だ。

    「東北フリーブレイズが属するアジアリーグアイスホッケーも9月からシーズンが始まりますが、どのくらいお客さんが来てくれるか楽しみです」と、木村さんは期待を込めた表情で語ってくれた。

    FLAT HACHINOHEの地域活性化への挑戦はまだ始まったばかりだが、ここではスポーツを核としたさまざまな交流が確かに生まれつつある。スポーツを「する」「観る」だけではない“地域共生”拠点としての役割は、いつかスポーツ施設の新たなスタンダードになるかもしれない…そんな期待を抱かせるような取材だった。

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    40代を目前にして「後悔のない人生」を考えたとき、長年勤めてきた銀行を離れる決心がついたという。2020年4月に八戸駅西口に誕生した“地域共生拠点”『FLAT HACHINOHE(フラット八戸)』の二代目館長として、木村将司さんは生まれ育った青森県八戸市の活性化にチャレンジする。 前回、FLAT HACHINOHEの案内役を買って出てくれた木村さんに、今回はご自身の異色のキャリアとスポーツ施設の館長という仕事について話を伺った。

    interview & text:川端優斗/dodaSPORTS編集部
    photo:冨田峻矢

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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