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オリックス球団社長が説く「自分に制限をかけない」思考法

ゲスト:湊 通夫さん × ナビゲーター:加地 亮さん

オリックス野球クラブ株式会社 代表取締役社長

スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考える対談企画『SPORT LIGHTクロストーク』。サッカー元日本代表・加地亮さんがナビゲーターとなる今回のゲストは、オリックス・バファローズ球団社長の湊通夫さん。

オリックス入社後、リース、ファイナンスなどさまざまな事業を経験し、オリックス野球クラブへ。2018年に代表取締役社長に就任し、2021年には25年ぶりのリーグ優勝を実現するなど野球界でまい進する湊さんに、スポーツ界で活躍するための心構えや、球団社長として大事にしていることなどを聞きました。

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    オリックス・バファローズの本拠地である京セラドーム大阪で対談がスタートした[写真]清水真央

    “多職種経験”が開いた野球界の扉

    加地 パ・リーグの優勝争いも終盤に差し掛かったお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。オリックスは現在、首位を走るソフトバンクさんと2ゲーム差で2位(取材日の2022年9月15日時点)。しびれる試合が続きますね。

     正念場ですね。消化試合数を考えるとソフトバンクさん次第のところもありますが、直接対決も残していますし、かといって、あまり深く考えても胃が痛くなるだけなのであまり考えないようにしています。

    加地 少し前に首位に立ったので、このまま走ればいいなと思っていました。

     シーズン中に一度でも首位に立つことって、私はすごく大事なことだと思うんです。もちろん、優勝できれば一番ですが、加地さんもご存じのように、勝負の世界は決して簡単ではない。だからこそ私自身は「今シーズンは首位になった時期もありました」と言える自信を積み重ねていくことも大事だと思っています。

    2018年にオリックス・バファローズの社長に就任した湊さん。2021年のパ・リーグ優勝に続き連覇を目指す[写真]清水真央

     

    加地 ちなみに湊さんは関西人だとお伺いしましたが……ですよね?

     一応、大学は東京だったので、バリバリではないつもりですが、もうバレましたか?!(笑)

    加地 イントネーションが完全に関西弁でした!

     標準語の人と話すと自分も巻き込まれて標準語になるんですが、基本、仕事でも自己主張するときは関西弁になります。

    加地 では今日はずっと関西弁でお話しいただければと思います(笑)。湊さんの現在のお仕事や現職に就くまでのキャリアはもちろん、転職などで新しく仕事を始めようとしている方への気づきになるようなお話を伺えればうれしいです。まずは、早稲田大学を卒業後、オリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)を選んだ理由から聞かせてください。

     私が入社した当時、まだ2,000人くらいの従業員しかいなかったんですが、いろんな事業を展開していたんです。

    加地 リース業をはじめ、不動産や事業投資、金融サービス業などさまざまな事業をされていますよね。ぼくも沖縄に行くときは決まってオリックスレンタカーを利用しています!

    湊さんとは今回が初対面となる加地さん。湊さんのオリックス入社から現在までの道のりを聞いた[写真]清水真央

     

     ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、いろんなことに取り組んでいる企業であることが第一の魅力でした。一般的に「仕事」というのは人生の大部分を使って取り組むものですが、正直、自分の性格的にも同じ仕事をずっとするのは嫌だな、と。
    一方で、当時は転職する人が同期のうちの2〜3割に満たない時代で、給与面を含めキャリアアップをできる人はさらにそのうちの3割くらいで、「転職」は比較的高いリスクを伴うチャレンジでした。ということを考えたときに、ずっと同じ仕事をするのは嫌だけど、転職のリスクもできる限りミニマライズしたいな、と。それなら、社内でいろんな事業を展開している会社に就職すれば、いろんな仕事に携われるかもしれないと考えました。

    加地 1987年に入社された後は、どんな仕事に携わられたんですか?

     最初の5年間は、当時、もっとも人の割り当てが多かったリース業に携わり、次の5年間は広報として、マスコミの方に対しオリックスの事業内容を知ってもらい記事を書いていただく活動を行っていました。その後東京から大阪に転勤になり5年ほど支店で営業職をしながら、不動産担保金融や保険商品の販売など、金融に関わるものを全般的に扱う部署でも仕事をし、次の10年は不動産を担保にした証券化商品の組成や販売を行う部署で働いて、2011年12月に現在のオリックス野球クラブ株式会社に異動になりました。

    加地 それまでの仕事に比べて、スポーツ界は異業種だったと思いますが、ギャップや難しさはありませんでしたか。

     初めて大阪に赴任したのが1994年だったのですが、その翌年、1995年1月に阪神・淡路大震災が起きた年に、オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)がリーグ優勝をしたんです。その年の7月くらいにマジックが点灯するような、ぶっちぎりの強さを示したシーズンでした。

    加地 仰木彬監督とイチロー選手がすごく注目されたシーズンでしたよね! ぼくは野球も好きだったのでよく覚えています。

     そうなんです。それで、球団広報が足りないということで、広報経験者だった私が数カ月間だけ駆り出されることになったんです。そのときは野球界のことは右も左も分からず大変でしたが、2011年に赴任したときは当時の経験がありましたから、球団の仕組みや一般企業との違いも分かっていたし、上層部の人たちはほとんど顔見知りだったので入りやすかったです。
    オリックス・バファローズとしては低迷期が続いていた中で、ファン層の拡大などいろんな変化を考え始めたときに、もしかしたらそういった1995年当時の経験があったから私に声が掛かったのかもしれません。

    オリックス・ブルーウェーブがパ・リーグ優勝を果たした1995年、球団広報として奮闘した経歴がその後のキャリアにつながったと語った[写真]清水真央

    求められるのは「自信」を持つ人材

    加地 2011年にオリックス野球クラブ株式会社に異動になってから2018年に社長に就任されるまでは、どんな仕事をされていたんですか?

     着任直後は、会社から「ファン拡大を目指してほしい」というテーマを与えられただけで、事業本部部長という肩書こそあれ明確な仕事もない、部下もいないという状況でしたから。上司に掛けあって、いっしょに仕事をする部下をつけてもらうことから始めました(笑)。その上でまず取り組んだのは、ファンを取り込むためのマーケティングです。それまでもアンケートなどをもとにしたデータはあったんですけど、中身を見ると着任したばかりの自分でも分かるくらいオリックス・バファローズが好きなコアファンの答えだな、というものばかり。

     実際、アンケートの担当者に尋ねると「一塁側と三塁側にボックスを設置し、アンケートに記入してくれたらシールをあげる」というような取り組みをして集めていると。でも、そうなると間違いなく、記入してくださるのはコアファンばかりで、真のデータは取れない。もちろん、そういうコアなファンの意見も大事ですが、偏りなくデータを集めるにはライト層の意見も聞くべきだろう、と。それによってご来場いただくみなさんに刺さるものを見つけなければいけないと考え、まずはアンケートのやり方を変えました。

    加地 具体的にはどんな工夫をされたんですか?

     まず球場内の360度からお客さまの答えが聞けるように、エリアを指定して直接アンケートを取りに行きました。結果、想像どおり、コアファンとライトファンではかなり違う答えが出てくることに気づいたので、それをまた社内で共有して次の行動に移していく、ということを繰り返しました。また、今ではもう古くなりましたが、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)を導入して、One to Oneのマーケティングを行いました。CRMのいいところは、マーケティングの結果をもとに、特定のターゲットにメールの案内を出したり、特典を考えられること。実際、それによって目に見えて数字も伸びていきました。

    球場内でのアンケートやCRMの導入によって顧客の志向性を分析し、ターゲットごとにアプローチを変えることで飛躍的にファン数を拡大していった[写真]清水真央

     

    加地 つまり、ほとんどの時間を現場に身を置いてさまざまな施策に取り組んでいらっしゃったということですね。

     そうです。役職としては事業本部部長から企画事業部長、取締役兼事業本部長と変わっていきましたが、社長に就任するまではずっと事業系の仕事が中心でした。

    加地 社長就任後はコロナ禍もありながら、昨年(2021年)は25年ぶりのリーグ優勝も実現されました。球団経営をしていく上で、一番大事に考えられたのはどういった部分でしたか。

     私自身、オリックス野球クラブ株式会社に来るまではずっとBtoB、つまりは企業相手の仕事が中心でした。それに対して球団は、先ほどお話ししたような個人の顧客に向けたBtoCの事業と、BtoBの2つの事業で成り立っている。そのことを私自身がしっかり頭に入れて仕事をするということと、もう1つは、フロントとチームの関係です。2011年に異動になったときからいろんなことを観察してきた中で、フロントとチームの考え方が、できるだけ一致している環境をつくり出さなければいけないということは頭にありました。

    加地 ぼくはガンバ大阪時代、AFCチャンピオンズリーグをはじめ、天皇杯やナビスコカップ(現ルヴァンカップ)などでもタイトルを獲得しましたが、チームとフロントが一枚岩になって、連携して戦えている実感がすごくありました。おそらく、オリックス・バファローズもそうした状況が昨年のリーグ優勝につながった部分も大きかったのではないかと思います。そんな球団経営を推し進められる中で社員の皆さんにはどんなスキルを求められているのでしょうか。

    加地さんはプロサッカー選手としての経験・キャリアの中で、チームとフロントが結束することの重要性を体感してきたという[写真]清水真央

     

     これはスポーツ業界に限ってではないと思いますが、私はやっぱり自信を持っている人って強いなって思うんです。自信って、読んで字のごとく、自分を信じるということですが、それができる人材はハートの強さもあるし、仕事にも活かされるように思います。

    加地 ぼくも現役時代は、その自信を武器にしていたようなところもありました。自信をつけるために、可能な限りの準備やトレーニングをして、「これだけやったから大丈夫」という状態で試合に臨む。その上で試合では普段どおりの自分を発揮するということに集中していたら、それがプレーにも反映されていく手応えもありました。
    でも、その経験をしているからこそ分かるんですが、自信を持つってすごく難しいことだと思うんです。特に、就職や転職を考えるときなど、次の一歩に踏み出すときって、どうやって自分を信じたらいいのか?って思っている人も多いんじゃないかと思います。そういう方に向けて、自信を持つためのアドバイスがあれば教えてください。

     これは誰にでも言えることですが、正直、10年後、20年後の将来なんて分からないじゃないですか? 自分がどこで活躍しているのかも分からない。だからこそ私は、「これしかやらない」と決めてしまうのではなく、柔軟性を持って、いろんなことを想定して武器を備えておくことが大事なんじゃないかと思っています。教養もその一つだし、いろんな人と話すこと、幅広く仕事をすることも一つかもしれない。
    また、さまざまなことに目を向けてがむしゃらに取り組むことも自信をつける方法の一つだと思います。自分の中に「ここまで」という制限をかけてしまうと、せっかく太くなろうとしている自分の幹が育たなくなってしまうと思うんです。

    「自分に制限をかけず柔軟にトライすることで自信が育まれる」と話した[写真]清水真央

     

    加地 いろんな仕事をされてきた経験が、今のご自身に活かされていると思えているからこその言葉ですね。

     私もいろんな部署を経験してきましたが、新しい仕事に就いた最初の6カ月から1年くらいって、未知の世界だからこそ本当にしんどいんです。でもそこで、「今のうちに24時間、フルで知識を吸収しまくってやるぞ」とアクセルを踏み続けていたら、その先がすごく楽になるし、知らぬ間に自信も備わっていました。
    また、自分の適性は意外と自分より他人のほうが分かっていることも多い。多面評価をされる企業が多いのもそのせいだと思います。だからこそ、「自分にはこれしかできない」とは思わず、その時々で求められる仕事を真剣に打ち込むことで、どんどん新しい強みを見つけていくことも、幹を太くすることにつながっていくんじゃないかと思います。

    事業とチームの目標達成へ

    加地 今後、オリックス野球クラブとしてどんな目標を描いていますか?

     弊社は「事業」と「チーム」の2本柱で成り立っているのですが、事業においては、コロナ禍から徐々に世の中が戻りつつある中で、コロナ禍以前よりも収益を上げること。そのためにはファンの拡大が第一目標になります。お客さんが増えれば当然、それに付帯した収益も伸びていくはずなので。
    また、チームの部門においては、長かった低迷からようやく抜け出しつつある今、常にAクラス入りを継続できるチームづくり、そのための基盤づくりをしていきたい。いずれも当たり前の目標ですが、それを基本軸としていけば、いろんな発展が見込めると思っています。

     というのも、優勝はもちろん、「常に優勝を争えるチームであること」も、ファンの皆さんが高揚感を得られる要素だと思うんです。これは私たち従業員も同じで、ほとんどがスポーツ経験があるとか、スポーツが好きな人の集合体ですから。チームが勝つことは仕事のやりがいにもつながりますし、アドレナリンがどんどん出てきて、社内全体が「仕事をしよう!」という雰囲気になる。そういう意味でもわれわれのような企業においての「勝つこと」の効果はすごいと感じています。

    試合に勝利することは球団職員の仕事へのモチベーションにも大きく影響すると話した[写真]清水真央

     

    加地 それによって注目を集めれば、また新規のファン獲得にもつながりますし、いろんな相乗効果が見込めますよね。

     そうなんです。さらにもう一つ言うならば、オリックスという企業にとっても、野球の結果が営業をする際の前振りになったり、会話の糸口になることもありますから。いろんな効果が生まれるんじゃないかと思います。

    加地 湊さんご自身の将来についても聞かせてください。これまで5年、10年スパンでいろんな仕事をされてきました。大学卒業後に就職される際は、「いろんなことをやりたい」という思いもあってオリックスを選ばれたということでしたが、今もその欲は続いていますか?

     今はとにかく、事業とチームの目標を形にしたいという思いが強いので、それをしっかり達成することを優先したいと考えています。そもそも私は、あまり次の目標を考えないようにしているんです。先ばかり見ていたら今がおろそかになってしまう気がするし、先ほども言ったとおり、今を死にもの狂いでやること、充実させることが自分の自信になると思うからです。それを怠らなければ、この仕事が終わってからでも十分楽しめるものが探せるんじゃないかと思っています。

    加地 今をおろそかにせず取り組むことで、次の目標へとつながっていくということですね。

    「目標を遠くに置かず目の前のことに専念したい」という考えに加地さんも共感[写真]清水真央

     

     ……と、偉そうなことをお話ししながら、私も家に帰ってぐちぐち考えて寝られないときもあります(笑)。ただ、自分の意思を口に出して言うことってすごく大事だと思うし、私はそうやって自分を追い込むことでハートを鍛えてきました。もっとも、どれだけ鍛えても加地さんたちアスリートのメンタリティには及ばないですね。じゃないとあれだけたくさんの人が見ている前で堂々とプレーはできない。

    加地 いやいや、ぼくはノミの心臓でした(笑)。ただ、湊さんのおっしゃるように自信を持てる状況に常に自分を置いていれば、すぐに結果が出なくてもいずれ、自分に何かが戻ってくるんじゃないかと信じていました。そういう意味でも今日は湊さんに共感できるお話がたくさんありました。シーズンも残り少ないですが、連覇、期待しています!

     ありがとうございます。そこは私が頑張れるところではないですが、そのための環境づくりにしっかり取り組んでいこうと思います。

    オリックス・バファローズの躍進を支える球団経営の舞台裏に迫った本対談。湊さんが目指す「常に優勝争いができるチーム」の実現に向けた今後の動きに注目したい[写真]清水真央

    text:高村美砂
    photo:清水真央

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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