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女性リーダーが切り開くスポーツの可能性

SPORT LIGHT Women Career Event

2022年3月11日、スポーツ業界の女性活躍を応援するキャリアイベント「SPORT LIGHT Women Career Event」が開催された。第1部のトークセッションでは、元内閣府男女共同参画局長の武川恵子さん(現昭和女子大学グローバルビジネス学部長)が登壇し、「女性活躍の背景と女性リーダーの重要性」をテーマにプレゼンテーションを実施。続く第2部では、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)理事の村松邦子さんと、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)理事の中根弓佳さんによるパネルディスカッションを開催。スポーツ界に女性が求められている背景や、スポーツ界におけるキャリアについても理解を深められる貴重な機会となった。

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    • 武川 恵子さん

      昭和女子大学グローバルビジネス学部長

      香川県高松市生まれ。一男一女の母。1981年総理府(現内閣府)に就職。2014~2018年内閣府男女共同参画局長。2018年版男女共同参画白書では、2020東京オリパラがレガシーとして日本の男女平等を進展させることを願って「スポーツと女性」を特集。政治、経済分野等での女性の意思決定層への参画促進や家庭への男性の参画拡大、女性に対する暴力対策等に関わった。

    そこに女性はどのくらいいるのか?

    武川恵子さんは、日本における男女共同参画・女性活躍推進の取り組みを牽引してきた人物だ。「そこに女性はどのくらいいるのか?」。そんな問題提起からプレゼンテーションは始まり、豊富なデータを参照しながら、スポーツの領域だけでなく、日本社会全体における女性活躍の現状と課題、そしてより良い社会づくりへ向けた指針を話してくれた。

    最初に映し出されたスライドには、諸外国の国会議員に占める女性の割合を示したグラフが描かれていた。

    「社会にあるいろいろな制度やそれを支える予算は、政治が決定していくわけです。“そこに女性がどの程度いるのか?“という問題があります。これは非常に重要な見方です」と武川さんは話す。

    女性議員の比率を示すランキングでは、1990年代前半に女性の政治参画が急速に進んだ北欧諸国を代表するスウェーデンは12位。民族間の紛争を経て、社会が大きな方針転換を遂げたルワンダが1位。日本は166位とランキング中で下位に位置している。

    諸外国の国会議員に占める女性割合において、日本は調査対象国193カ国のうち166位(2022年2月1日現在)と下位に位置する[図表]映写資料より(出典元:内閣府男女共同参画局作成資料)

     

    上位を占める国の中には、2000年前後に「クオータ制」を導入したことが女性の議員数増加につながった事例も多い。クオータ制とは、格差を是正するために組織の構成員におけるマイノリティへの割り当てを、あらかじめ一定の比率で決めるものであり、導入した多くの国でその成果が認められている。

    日本でも女性議員の増加に向けて、2018年5月に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が成立したが、政党へ自主的な努力を求める理念法であり、強制力はなかった。武川さんは日本の現状について、「まだ徹底した対策は取られていない」という見解を示した。

    続いて紹介された、日本の経済界における女性役員の比率も、おおよそ政界と同じような歩みを示していた。2015年時点で上場企業の役員10%を女性にしたいという目標が掲げられたものの、こちらも強制力はない。一方で割合としてはまだ多くはないが、上場企業全体では2021年までの9年間で、4.8倍に増えており、徐々に増えてきていることも紹介された。

    諸外国の国会議員に占める女性割合において、日本は調査対象国193カ国のうち166位(2022年2月1日現在)と下位に位置する[図表]映写資料より(出典元:内閣府男女共同参画局作成資料)

     

    政治と経済、それぞれの分野で改善は進んでいるものの、まだ多くの課題があることは分かった。しかし、ここまでは理解できても、そうした現状が「自分たちの生活にどう関係があるのか?」と疑問を抱く人も少なくはないだろう。武川さんは、そんな思いに対して、意思決定機関に女性が増えることの意義を説明した。

    マッキンゼーによる「The Power of Parity」(2018年4月)という報告書のデータからは、役員に女性が多く在籍する企業のパフォーマンスが高くなる傾向があること、意思決定機関に多様性があることで透明性が高くなり、議論が活発化する傾向があることが分かるという。

    そして話題はスポーツへ。東京2020オリンピック・パラリンピックではあらゆる種目で女性アスリートの活躍を見ることができたが、歴史をさかのぼると第1回の1896年アテネ・オリンピックには女性の姿はなかった。第2回1900年パリ・オリンピックでは初めて女性が参加したものの、テニス・ゴルフという限られた競技だった。そこから、開催を重ねるとともに徐々に女子種目は増えてきたが、スポーツの世界でも女子の参画は比較的最近のことだと、武川さんは話す。

    初めてすべての参加国から女子選手が出場し、さらに全競技で女子が参加した画期的な大会となった2012年ロンドン・オリンピックを経て、東京2020オリンピック・パラリンピックはさらなる進歩を目指した。男女の参加者比率が均等になることを目指し、男女混合種目も多く採用。また、IOCは各国の旗手、男子種目と女子種目の順序、メディアの報道、競技施設や運営に当たっての調達でも、ジェンダー平等に配慮しながら調整が行われた。スポーツは社会の写し鏡として、あるいは社会を牽引する立場として、大きな期待が寄せられる場となっている。

    最後に紹介されたのは、女性アスリート特有の課題だ。特に若年層のアスリートに多い、無月経や疲労骨折などの、身体的なトラブルは、女性の発育・発達状況を考慮したケアが行き届いていないことが、原因として挙げられている。専門知識を持ったトレーナーからのサポートを受ける一部の選手を除き、若年層の女子選手がこうした問題を抱えることは珍しくないという。

    そのほかにも同年代の男性アスリートに比べて既婚率が低いことや、平均年収の低さ、スポンサーがつきづらく活動資金の自己負担が大きいこと、引退後のキャリアが限られていること、セクハラやパワハラの根絶も、課題として挙げられた。

    武川さんは、問題解決へ向けて、「もっと女性の意思を反映するためにも、スポーツ団体の役員に占める女性比率を上げることが大切」だと結論づけた。スポーツ界における女性活躍の推進は、アスリートだけの問題ではなく、私たちの社会と地続きの問題として考えていくことが、よりいっそう大切になっていくはずだ。

    社会をつなぎ、文化を育む、スポーツの持つ力

    • 中根 弓佳さん

      公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事

      慶応義塾大学法学部卒業後、1999年にエネルギー会社に就職。2年後にサイボウズに転職し、知財法務部門にて著作権訴訟対応やM&A法務などに携わる。その後、2007年・2009年に出産、育児休暇取得後に人事領域も手掛けるようになり、制度策定や採用に従事する。2019年1月より現職。

    • 村松 邦子さん

      公益社団法人 日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)理事

      グローバル企業での26年間の実務経験(経営管理、内部統制、人財組織開発など)を経て、2010年に独立起業。 サステナビリティに視点を置き、ガバナンスの実効性向上を通じた経営改革を支援している。九州旅客鉄道(株)、NECネッツエスアイ(株)、(株)ヨコオ 社外取締役。2014年より7年間、Jリーグ理事(同参与)を務め、Jリーグ社会連携(シャレン!)の立ち上げに参画。 社外理事の立場から、スポーツを通じた社会連携、社会課題の解決にも取り組んでいる。WEリーグ、Bリーグ、日本ブラインドサッカー協会理事。筑波大学大学院修士課程修了(スポーツウエルネス領域)

    第2部のパネルディスカッションに登壇した、WEリーグ理事の村松邦子さんとB.LEAGUE理事の中根弓佳さんは、スポーツ界に関わることになったきっかけから語った。

    (村松さん) 「26年間勤めた企業を辞めて2010年に独立し、ガバナンスやサステナビリティ、ダイバーシティ推進といった領域で経営改革の支援をしてきました。武川先生もご紹介されていた、スポーツ団体のダイバーシティ推進の一環でお声がけいただいたことをきっかけに2014年からJリーグの理事・参与を7年間務めました」

    (中根さん) 「サイボウズの役員として働きながら、2019年からB.LEAGUEの理事を務めています。サイボウズでは10年間ほど人事をやっていて、“人”や“組織”という面から事業成長を支える役割を担ってきました。人事という仕事は企業間での横のつながりも多いのですが、その交流の中で、B.LEAGUEの理事を務めていた方から声をかけられました」

    ビジネス領域でのキャリアを経てスポーツ界に飛び込んだ二人は、スポーツ界の課題と可能性について、それぞれの切り口で新しい見方を示してくれた。

    (村松さん) 「スポーツ界での経験を重ねる中で、『スポーツはもっとニュートラルなものでは?』という問題意識を持つようになりました。日本では、“体育会系”、“勝ち負けにこだわる”、“厳しい”といったイメージがありますが、スポーツにはもっと多様な面があります。本来はもっと生活の身近にある、たくさんの人が楽しめるものだと思います。

    また『スポーツ団体にはどんな意義やパーパスがあるのか?』という課題にも向き合っています。私はスポーツには、競技性・社会性・事業性という3つの面があると考えています。一般的には“競技性”の印象が強いですが、私が関わってきた、Jリーグ、WEリーグ、B.LEAGUE、ブラインドサッカーといった競技団体は、それぞれ『社会の中で役割を果たしたい』という思いを持って活動しています。

    これまでのスポーツ界との関わりを通じて、私は『スポーツには社会を変える力がある』と実感しています。特に社会課題の解決に向き合う際、社会をつなぐ“ハブ”としての可能性を感じています。例えば地域密着を掲げ、社会連携(シャレン!)を進めているJリーグは、行政や大学、企業、NPOとのつながりがすでにあり、地域と一緒に課題を解決していく大きな力を持っていると思います」

    2021年に発足したWEリーグでは「夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会」の実現へ向けたさまざまな社会貢献活動を行っている[写真提供]WEリーグ

     

    (中根さん) 「私は、B.LEAGUEの役員に誘われる前に、子どものミニバスケットボールに付き添うなかで、『人事とスポーツにはつながりがある』と気づき、スポーツ界への興味を持ち始めました。スポーツのなかにある見えない文化やヒエラルキー、強い人が偉いといった考え方が、個人の価値観の醸成や集団における文化形成に大きく関係していると感じるようになりました。

    身の回りの人を見ても、自分自身のことを考えても、価値観がスポーツを通じて醸成されている部分は少なからずあるように思いました。逆にいうと、子どもに影響の大きいスポーツをツールとして使うことによって、良い文化形成や人材育成につなげられるはずだと考えています。

    武川先生のお話でもありましたが、これはスポーツ界固有の問題ではなく、社会の問題の象徴だと思っています。意思決定における女性の参画や、給与ギャップの話、コンプライアンスの話は、スポーツ界に限ったことではありません。ただ、スポーツは子どもからも大人からも見えやすい世界です。逆にそこを変えさえすれば、社会が変わる可能性があると思っています」

    中根さんはスポーツの持つ影響力について期待を語ってくれた。写真はB.LEAGUE理事会での様子[写真]本人提供

    どんな人にも活躍できるチャンスがある

    それぞれ理事になるまでは、スポーツとは決して近くはない距離で働いてきた村松さんと中根さん。これからスポーツ業界に携わりたいと思う人にとって、二人の話から可能性を見いだせる部分は大いにあるはずだ。

    とはいえ、いざ転職について考えたときに、自分の経験や希望にピッタリと合う求人が出ているとも限らない。そんなとき、「自分にできる仕事はあるだろうか?」と二の足を踏む人も少なくないだろう。しかし、中根さんはそんな人たちに向けて、「どんなところでもあなたの経験は活きる」と断言する。

    (中根さん) 「一般企業で働いてきた人も、それぞれにいろいろな経験やスキルを備えているはず。スポーツは多面性のある世界なので、あなたの経験やスキルを活かせる場所はきっと見つけられます。一つ条件を付け加えると、『スポーツによって、どう社会を変えるのか?』という見方を持っていることは大切です。そこに意義を感じている方なら、誰にでも活躍の可能性はあります。

    理事のように最終決定に関わるところに女性を増やすことは大切ですが、それだけでなく、最終決定にいたるまでのいろいろな場に女性を増やすのが大事です。ぜひ仲間として一緒に頑張っていきたいですね」

    続けて村松さんは、スポーツ業界で働くメリットについて話してくれた。

    (村松さん) 「中根さんもおっしゃったように、組織の中で築いてきた経験があればいろいろなところで貢献できるはず。私自身もそうですが、違う分野に入って“他流試合”のような経験を積むことで、自分の強みが見つかったり、磨き上げるべきポイントがより明確に分かったりすることもあります。

    管理部門で組織運営に関わる仕事はもちろん、社会課題の解決へ向き合うときには、コーディネーターやボランティアとして、スポーツと社会を“つなぐ”役割も必要です。いろいろなところでスポーツに関わってもらいたいですね」

    最後に、アンテナを立てていれば、必ずニーズはあると話してくれた二人。「スポーツを通じて、自分は何をしたいのか?」という中根さんからの問いかけに対する答えを考えながら、自分にできることを探すことから、スポーツ界でのキャリアの第一歩が始まるかもしれない。

    text:川端優斗/dodaSPORTS編集部
    photo:本人提供

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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