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IT業界からスポーツ界へ B3・アルティーリ千葉創設の決意

ゲスト:新居 佳英さん × ナビゲーター:播戸 竜二さん

株式会社アトラエ 代表取締役CEO/株式会社アルティーリ 代表取締役CEO

スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考える対談企画『SPORT LIGHTクロストーク』。サッカー元日本代表・播戸竜二さんがナビゲーターとなる今回のゲストは、株式会社アトラエの代表取締役CEOであり、B3・アルティーリ千葉(運営会社:株式会社アルティーリ)の代表でもある新居佳英さん。自身のキャリアからスポーツビジネスに参画した理由、そして今後の展望など、播戸さんがじっくりとインタビューしました。

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    2021-22シーズンからのB3リーグ参入を果たしたアルティーリ千葉。IT企業であるアトラエがプロバスケットボールチームを設立した理由、その先にあるビジョンについて聞いた[写真提供]アルティーリ千葉

    “理想の組織”を目指して起業

    播戸 本日はよろしくお願いします。では最初に、新居さんのここまでのキャリアをあらためて教えていただきたいと思います。

    新居 上智大学を卒業して、パーソルキャリアの前身であるインテリジェンスに入社しました。宇野康秀さん(現USEN-NEXT HOLDINGS代表)が社長だった時代で、総勢150人規模の未上場のベンチャー企業でした。本当は入社後すぐに起業しようと思っていたのですが、今ほどITやインターネットが普及していない時代でまだまだハードルが高かったですし、株式会社の設立には1,000万円の資本金が必要な時代で、簡単に資金も用意できない。それで2年間はお世話になり、そこから起業を、と考えました。

    播戸 新卒で入社して2年で起業とは、動きが早いですね。

    新居 今思えば勘違いですけれどね(笑)。その起業意欲が会社にバレて、「だったらうちのグループで」となりました。5,000万円出資するので、すべて自分でやるようにとのことで、登記など起業にまつわるすべてを自身で行い、社会人3年目の7月に子会社を設立し、代表取締役社長に就任しました。本体から連れていく人員は1人だけという約束もあったので、新たな人材を採用し、2年半くらい運営しました。

    そして2003年に親会社に復帰しました。ある程度のポジションで仕事をさせてもらったのですが、子会社のように自分のやりたい経営ができるわけではなく。そこでやはり初志貫徹で起業しようと決めました。社内改革などやるべきことをやり終えて、自分だけ抜ける形にしました。

    新居さんはインテリジェンス入社3年目の2000年、弱冠26歳にして子会社の代表取締役に抜擢された[写真]冨田峻矢

     

    播戸 起業への野心はいつから持っていたんですか?

    新居 学生時代からです。よくうち(アトラエ)の会社説明会でも話すのですが、人間は生涯で10万時間以上働きます。今の時代だと、もしかしたら70~75歳まで働くかもしれませんから、12万時間にのぼることもある。これは、家族との時間や趣味の時間より圧倒的に長いわけです。その貴重な時間をただ生きていくためだけ、稼ぐためだけに使うというのは非常にもったいないですよね。なので、学生時代から、熱中できる何かを仕事にしたいという強い思いがありました。

    播戸 そういう意味では、ぼくたちアスリートは好きなことを仕事にできている職業だといえますね。

    新居 そうですよね。スポーツ選手やアーティストは仲間とともに活き活きと面白いと思えることにチャレンジしています。なぜビジネスではそれができないのか不思議でした。就活をしていてもそういう会社が見つからなくて、採用担当者に質問すると「仕事は遊びじゃない」とか「君は学生気分が抜けないね」などと言われる。それだったら自分で理想の組織を創ろうと思ったのが、起業を考え始めたきっかけです。

    播戸 なるほど。ただ、学生でいきなり起業というのはさすがに難しいですよね?

    新居 そうなんです。ですから、就職のときに「起業の近道はどこだろう」と考えて、できるだけ経営者と近いところで経験を積まなければいけないと感じていました。大企業だと最初の5年間くらいはボール拾いのイメージですけれど、新人でもとにかくピッチに立たせてもらえなければ何も始まらない。そこで、若い会社なら権限や責任をどんどん委譲してくれるんじゃないかなと考えていました。

    新居 そんなとき、たまたま出会ったのがインテリジェンスでした。ある日、とんでもなく大きい三角形のDMが自宅のポストからはみ出していたんです。そこに書かれていたメッセージ「自分がヤバいと思うならここに来い」。この会社、尖ってるなと思いましたが、それを見てその会社に決めてしまった私もなかなかですよね(笑)。

    播戸 確かに(笑)。

    新居 説明会も強烈で、私の2つ上の若い方が説明していたんですが、そのプレゼンがとにかく響いた。「世の中を変える」「1年目・2年目とか年次は関係ない」など強調していましたが、結局何の会社か最後まで分からなかった。それでも「自分にはここしかない」と思い、ほかの内定は全部断ってしまいました。

    播戸 実際に3年目で子会社の社長まで任されるわけですから、その直感は正しかったんでしょうね。新居さんはインテリジェンスを退職されたあと、2003年に現アトラエを創業され、成果報酬型の求人メディア『Green(グリーン)』を主力事業として会社を成長させてきました。インテリジェンス在籍時から、今のようなサービスをやろうという構想はあったんですか?

    学生時代はサッカーに明け暮れ、会社設立時も「サッカーチームのような組織を目指した」という新居さんに、播戸さんが鋭くインタビューしていく[写真]冨田峻矢

     

    新居 いえ、インテリジェンスにいる間は忙しすぎて準備する時間がまったくなかったので、辞めてから考えようと思って飛び出しました。一般的には、“事業”を軸に起業すると思いますが、私は「活き活きと働けるチームを創る」という目的で、“組織”を軸にして起業しました。その後少しずつ、面接で理想的な人材を集めていきました。今は100人弱の組織ですが、最高の仲間が集まった会社だと自信を持って言えます。

    播戸 事業でなく組織から会社をつくるという発想がすごいですね。

    新居 そうはいっても、きちんと事業を創り、成果を上げ、給料を払えるようにしないといけません。どんなスポーツチームも、和気あいあいとやっていても連戦連敗だったらテンションが下がってしまいますよね。ビジネスも一緒で、それなりに社会に前向きなインパクトを残せたり、いい影響を与えられていると思えないと、みなの士気が下がってしまう。そういう部分でバランスが取れてきたのはここ最近です。やっと理想とする組織体に近づいてきた。今はそれをもっともっと磨き上げていくフェーズに入っています。

    バスケットボールに感じたビジネスチャンス

    播戸 2003年に事業を発足し、2018年6月には約40人の人数規模で東証1部上場を果たすなど、アトラエはIT企業として成長してきました。その流れの中でスポーツビジネスに参入されたわけですが、最初は2019年のJ2・水戸ホーリーホックとの事業提携ですね。

    新居 そうです。鹿島アントラーズの小泉(文明)社長のような方の存在や会社を見ながら、いつかはそういうレベルの会社になれたら、と考えていました。
    私たちが大事にする価値観として「四方よし」というものがあります。働く社員とクライアント・ユーザー、株主、社会の4つの方向に対して価値を提供し、その規模をどこまで大きくできるかを大事に考えています。

    スポーツや芸術も社会の一部。それらを通して社会貢献し、地域活性化や青少年育成につなげていくことが公器となる企業の責務だと考えています。単に高い利益を出して株主だけに還元するような会社であってはいけない。そう思っているときに、たまたま水戸ホーリーホックさんとご縁があり、お話していくうちに出資をスタートすることになり、私自身も2年間、取締役を務めさせていただきました。

    2019年、アトラエはJ2・水戸ホーリーホックとの資本業務提携とユニホームパートナー契約締結を発表した[写真提供]アトラエ

     

    播戸 その経験をされたことで、自分自身もスポーツクラブのオーナーになりたいという思いが芽生えたのでしょうか。

    新居 水戸ホーリーホックさんで経験させていただいたことは大きかったですね。一番強く感じたのは、サッカーはビジネス的には非常に難しいということ。成立しないとは言いませんが、難易度が高い。野球はビジネスとしては計算が立つけれど、参入ハードルが高い。そこで可能性を感じたのがバスケットボール。「千葉市でチームを作りたいんですが、一緒にやりませんか」と声掛けいただき、「これは面白い」とスタートしたのがアルティーリ千葉。2021年に発足した新規クラブです。

    播戸 もともとクラブがあって経営権を取得されたのではなく、完全にゼロから立ち上げたんですね。

    新居 こだわったのはそこです。既存チームの買収ではなく、完全なる新規新設。なぜなら、カルチャーを大事にしたいからです。これはアトラエを設立したときと同じですが、例えば今、私がインテリジェンスの社長になったところで、自分の理想の組織に変えるのは難しい。なので、バスケットボールに関してもゼロから創ることを大事にしました。

    千葉は東京からも近く、バスケットボールの登録人口は神奈川に次いで2位です。しかも県内には千葉ジェッツさんの1チームしかなく、地域貢献や活性化という意味でも貢献できそうです。すべてのバランスが合致していたので「これは勝負できる」と思いました。

    播戸 ちなみに、先ほどサッカーはビジネスとして難しいとおっしゃられましたが、そう考える背景はどこにありますか?

    新居 いくつか要因はあるんですけれど、まずサッカーは45分ハーフで、競技中はいっさい目を離せない。ゆっくりビールも飲んでいられないですよね。飲食がハーフタイム以外にできないという点が野球との収益構造の違いです。また、サッカー場は基本的に屋外であることから、観戦体験という意味でも「寒さ・暑さ・雨・風」の影響下で快適な環境を求めようとしても難しい。天候・環境も含めたエンターテイメント体験をコントロールすることは簡単ではありません。ほかにも、選手数が多くコストを要する点も経営上の難しさだと認識しています。

    J2・水戸の取締役として経営に参画し、サッカーの新規ビジネスとしての難しさを体感したと話す新居さん[写真]冨田峻矢

     

    播戸 市場規模の大きさなどメリットも大きい一方で、そういった競技特性や環境など、ビジネスとしての難しさは確かにありますね。

    新居 バスケットボールの場合はアリーナが屋内なので、天候や環境に左右されない。すり鉢状になっているのでスタンドからの距離も近いですし、目の前で大柄な選手がプレーしている分、迫力も感じられます。

    バスケットボールは競技人口が男女1対1というのも大きいですね。サッカーは8対2、野球は9対1で男性が多く、それに比べると圧倒的に女性にも馴染みがあるのは強みです。24秒ルールがあり攻守の切り替えも速いので、見ごたえがあります。ゲーム時間も10分×4クウォーターなので、途中休憩に飲食もできますし、室内ならではのレーザー光線や音楽を使った演出も可能。トータルのエンターテイメントとしても非常にポジティブだと考えています。

    コスト面に目を向けても、選手数がサッカーの約半分なので、収益性も高い。まだプロリーグが発足して6年。今後10年間で劇的な飛躍が期待できます。サッカーだと新規参入クラブがJ1を目指そうとしたら10年くらいかかりますが、Bリーグなら最短2年でB1まで行ける可能性があります。そこも大きいですね。

    自分たちのブランドと歴史をつくる

    播戸 新居さんがアルティーリの運営を始めるにあたって、掲げた理想像はありますか?

    新居 アトラエと限りなく近いのですが、選手・コーチ・スタッフ・フロント・社員が一致団結して、強固な信頼関係の下で運営できるチームを創りたいと思っています。だから私も選手やコーチと密にコミュニケーションを取りますし、社員も選手やコーチとコミュニケーションを大切にしています。そういう部分をすごく重視して運営しています。

    もうひとつは、千葉に関わる方々が誇りを持てるような強くて、格好良くて、誠実なチームを創ろうとしています。そのため、選手選びにおいても、周りのことを常に考え努力できる真面目な人物を選ぶなど、能力だけでなく人格面にもこだわっています。

    アルティーリが目指すのは「選手・コーチ・スタッフ・フロント・社員が団結し、強固な信頼関係でつながるチーム」だという[写真提供]アルティーリ千葉

     

    播戸 アルティーリはエンブレムやユニホームもデザイン性が高くてかっこいいですが、そこのこだわりも新居さんらしいと感じます。

    新居 バスケットボールはアメリカ発祥のスポーツなので、デザインやカルチャーもNBAを中心としたアメリカの影響を強く受けています。だけど私たちは自分たちにしかないブランドを創りたいので、グッズもデザインはもちろん素材にまでこだわっています。ロゴも白文字のみでカラーは入れませんし、ユニホームも全部縫い込みの英字だけです。ホームゲームの看板広告もネイビーのボードに白文字。それらもすべて、私たちが今創ろうとしている歴史の一部なので、そこを含めて理解して協賛していただける企業さまを探していくというポリシーでやっています。

    播戸 かっこええなあ(笑)。その新居さんが目指すチーム哲学の原点はあるんですか?

    新居 私の原点は『スラムダンク』の湘北高校みたいなチームです。エリート集団ではないけれど、多様性があって、バスケットボールが大好きで、みなが一致団結して圧倒的な力を発揮する。そういうのってとっても格好良いじゃないですか。

    これは余談ですが、湘北高校のユニホームもデサントなんです。スラムダンクが出版された後、デサントはバスケットボールラインをやめてしまったんですけれど、今回特別に協力していただきました。アルティーリ千葉は今、日本のバスケットボール界で唯一、デサントのユニホームなんです。これをきっかけにバスケットボールラインを本格的に復活させようと試みているようなので、うれしいかぎりですね。

    デサント社とサプライヤー契約を結んで製作されたユニホーム。ロゴなどもプリントではなく刺繍で施されるなど、細部までこだわりが詰まっている[写真]冨田峻矢

     

    播戸 アルティーリとアトラエとのつながりや人事交流などはありますか?

    新居 アルティーリ千葉はほぼ100%アトラエの子会社なので、一事業部のような位置づけ。会社全体がアルティーリ千葉を応援しています。Bリーグ参入を果たしたことで、アトラエの社会的信用力も高まりましたし、就活中の学生にも「すごいな」という感覚を持ってもらえているようです。採用面でもポジティブに感じられますね。

    播戸 アトラエのシステムをバスケの現場に還元することもあるんですか?

    新居 はい、もちろんです。アトラエが開発・運営している『Wevox(ウィボックス)』という組織力向上プラットフォームがあるんですが、アルティーリ千葉もフロントや現場に導入し、スタッフや選手のエンゲージメントを把握しながらの組織構築にトライしています。

    これからのスポーツビジネスにはテクノロジー活用は不可欠です。スポーツ業界はファン体験やファンアプリなどコミュニケーションツールを含めて伸び代がまだまだあります。チケット管理、ファン管理、映像配信などあらゆる面でバスケットボールがサッカーや野球を追い越して、最先端のプロスポーツビジネスに進化していくことは十分可能でしょう。私たちも積極的に取り組んでいきます。

    播戸 現在もアルティーリとして人材を採用されていると思いますが、新居さんがスポーツ業界で働く人に求めることは?

    新居 現時点で、スポーツビジネスはそこまで利益率が高い業界ではないです。金融やITなど利益率の高い業種に比べると、そこまで高い生産性が出せていません。スポーツが好きな人たちがボランティア的に頑張って安い給料で働いているのが実態です。それをみなで協力し改善していかなければ幸せにはなれないと考えています。だからこそ、自分たちでスポーツビジネスを構築して、収益性を上げていこうと本気で考えて実行できる人に加わってほしいですね。先ほどお話ししたように、その意味でBリーグは非常に可能性が高いと思います。

    播戸 最後に、これからのビジョンを教えてください。

    新居 千葉市でスタートして、地元の方々が誇りを持てるようなチームをここから3年・5年かけて創りあげようとしています。そのためにも、B2・B1への昇格を最短で実行しなければいけない。「新しく生まれたチームを創業時から応援したんだ」というファンを増やすべく、今はバスやモノレールなどの公共交通機関のラッピング、駅の告知などから活動しています。こうした取り組みが偉大な歴史になるように努力していきたいと思います。

    播戸 本当に応援したくなりますね。貴重なお話を伺わせていただき、ありがとうございました!

    サッカー部時代は「とにかく攻撃が好きで、ずっとフォワードだった」という新居さん。ともにフォワードタイプの経営者同士、スポーツビジネスの未来を熱く語り合った[写真]冨田峻矢

    text:元川悦子
    photo:冨田峻矢

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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