dodaのスポーツ求人

ミクシィがスポーツで描く顧客体験の可能性

ゲスト:木村 弘毅さん × ナビゲーター:播戸 竜二さん

株式会社ミクシィ 代表取締役社長

スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考える対談企画『SPORT LIGHTクロストーク』。Jリーグ、日本代表で活躍してきた播戸竜二さんがナビゲーターとなる当企画、今回のゲストは、大ヒットゲームアプリ『モンスターストライク』の生みの親としても知られる、株式会社ミクシィ 代表取締役社長の木村弘毅さん。2022年2月にJリーグ・FC東京の経営権を取得するなど、ミクシィがスポーツビジネスに力を入れる狙いについて直撃しました。

Index

    2022年2月にミクシィがFC東京の経営権を取得。木村さん(写真左)は「FC東京を強く、愛されるチームにしていきたい」と意気込みを語った[写真提供]ミクシィ

    学生時代から追求した“コミュニケーション”

    播戸 お久しぶりですね。今日は装いがカッチリされているような。

    木村 播戸さんからの取材もあるのできれいめの服を着ていこうと思ったんですけど、ワードローブの中に見つからなくて、スーツでいいや、と(笑)。

    播戸 なるほど(笑)。今日はよろしくお願いいたします。木村さんは2008年にミクシィへ入社されるまでに、電気設備会社、携帯コンテンツ会社などを経験されていると伺いました。まずはキャリアを振り返っていただけますか。

    木村 まずもって職場を4回変えていますから、かなりの“転職組”だとは思うんですよ。ただ、今振り返ってみると、転職しまくって良かったなっていう思いがあって。経営側に回ると、これまでいろんな会社を見てきたというのは今の会社を測る意味でも重要だったな、と。

    播戸 そもそもどういう経緯で転職をされてきたんですか?

    木村 ぼくはコミュニケーションサービス、つまり人々に豊かなコミュニケーションを届けていくサービスをどこであれば届け続けることができるのか、そこに主眼を置いていまして。大学生のころまでさかのぼると、ぼくは非常によく遊ぶ学生でした。友達とスポーツもやればカラオケ、飲み会、ゲームと、遊んでばっかり(笑)。何をやっていても楽しかった。

    そのときに共通しているものって何なのかと考えたときに、“コミュニケーション”なんじゃないかと気づいたんです。最初は父が経営する電気設備系の会社に入ったんですけど、やっぱりコミュニケーションの楽しさ、“エンターテインメント×コミュニケーション”みたいなところをどうしても自分の中で捨てきれなくて。

    のちにミクシィの看板タイトル『モンスターストライク』を生み出した木村さん。学生時代からゲームには熱中していたと話す[写真]冨田峻矢

     

    播戸 それで携帯コンテンツ会社に転職されたんですね。

    木村 そうです。ガラケーの掲示板サービスをやっている会社に入って、その後ITのテクノロジーやデバイスも進化していく中で、モバイルのSNSを日本で最初に手掛けようとする会社にまた転職して、と。コミュニケーションサービスの中でソーシャルネットワークを一番やりたくて、そしてこのミクシィに移ってきました。でもコミュニケーションって何もSNSだけじゃないよなって思うようになったんです。モバイル端末を使って友達と一緒にゲームをやるのも、それだって立派な豊かなコミュニケーションじゃないかって。そうやっていくうちに、次にたどり着いたのがスポーツでした。

    播戸 なぜスポーツだったんですか?

    木村 ゲームを何本かつくりましたけど、ほかにももっと盛り上がれるコミュニケーションってあるんじゃないかなと考えた先にスポーツがあったんです。サッカーでもバスケでも、自分が熱心に応援しているチームの結果に一喜一憂するわけじゃないですか。この熱量って、日本ではまだまだ表現しきれていないんじゃないか、と思ったんです。スタジアムに行っても、コミュニケーションの場ってつくられているようでつくられていない。逆に欧米のスタジアムって、至るところにたまり場があって、そこでみんな何か食べたり飲んだりしながら観戦していて。

    播戸 欧州のサッカースタジアムはまさにそうですね。

    木村 ライブビューイングのプラットフォームとして『Fansta(ファンスタ)』を始めたのも、スポーツを中心としたコミュニケーションの場づくりの一環です。世の中に提供したい価値はコミュニケーションであり、学生時代からこれまでぼくがずっと追求していることでもあります。

    2021年、ミクシィはスポーツ動画配信サービス「DAZN」と連携して、スポーツ観戦ができる飲食店を検索可能なサービス『Fansta』をリリースした[写真提供]ミクシィ

     

    播戸 少し脱線しますが、木村さんはお父さんもおじいさんも経営者なんですよね?

    木村 祖父はトヨタ自動車系列の子会社の社長、会長を務めました。もともとエンジニアで、モノづくりを突き詰めていった中で会社のマネジメントを手掛け、いわゆる承継型でトップになっていった人物です。逆に父の場合は、日本長期信用銀行で営業部長を務めていて、そこから独立して電気設備会社を興しました。例えるなら『半沢直樹』が独立して社長になっていくみたいな感じなんですかね。堺雅人さんとまったく外見は違いますけど(笑)。

    播戸 でも半沢直樹が独立するっていう例えは分かりやすいですよ(笑)。やっぱりどこかお二人の影響は受けてきたところはあったのでしょうか?

    木村 それはあったんじゃないですかね。祖父と父の2パターンを見てきたというところはあると思います。ぼくはミクシィの4代目社長で、祖父と同じ承継型。とはいえ、これから新たなビジネスやカルチャーをつくっていく上で、アントレプレナーシップ(起業家精神)は必要だと思っています。そういう部分がうまくハイブリッドされているので、ぼくはここ(経営者)のポジションにいさせてもらっているのかな、と。

    播戸 過去、どこかのタイミングで起業しようかなと考えたことはあったのですか?

    木村 まったくないです。起業を考えたことは一度もないです。

    播戸 じゃあミクシィに入られて社長になっていくイメージは持たれていましたか?

    木村 それもないですね。社長になることで世の中に一番、バリューを届けられるかと言われればそうでもないでしょうし。たとえば前会長の笠原(健治)は今、取締役ファウンダーという肩書きですけど、いまだに現場でプロデューサーをやっているわけです。好きなモノづくりを徹底的にやれるのはうらやましいですよ。

    播戸 笠原さんに対して経営や事業面で何か相談されたりすることってあったりするんですか?

    木村 普通に相談はしますね。

    播戸 じゃあ、それはアカンよ、みたいに言われることも?

    木村 それはまったくないですね。逆に笠原が経営会議に議案を上げてきて、こちらが逆に「難しい」と蹴ることもあります。彼は大株主でもあるんですけどね。

    播戸 創業者の案にNGを出すんですか。それもすごいですね。

    木村 でもそれって非常に健全だと思うんです。ミクシィは意思決定の軸として「ユーザーサプライズファースト」を掲げていて、ユーザーの驚きを最優先する。だから笠原が無理にアイデアを押し通そうとすることもありません。フェアネスはこの会社の大きな特長。何よりも笠原自身がそれを体現してくれていますし、ぼくも大切にしていきたいと考えています。

    以前から木村さんと交流のあった播戸さんも「木村さんが起業を考えたことがないというのは意外」と話した[写真]冨田峻矢

    ゲームの隣地にあったスポーツ

    播戸 話題をミクシィとスポーツに戻したいと思います。木村さんはSNS『mixi』から始まったミクシィに入社し、スマホゲーム『モンスターストライク』を生み出して大成功を収めた。その後、ゲームから競輪、競馬など公営競技ビジネスに幅を広げていきますが、この背景と狙いについて教えてください。

    木村 上場企業としてわれわれがマーケットから求められているのは安定的な成長です。そうなると一定の規律をもって投資をしていく必要があります。まったく無関係なところにむやみやたらに手を出すのは経営としてイケてない。自分たちが培った能力、技術力を活かせる領域やシナジーがどれだけ働くかというところで新しい領域を定めていくことになります。

    播戸 よく分かります。

    木村 コミュニケーションを活かした別の場所を模索して、ゲームというエンターテインメント寄りの場所で商売をつくりました。じゃあその隣地に何があるのかといえば、スポーツなんじゃないか、と。スポーツの試合を「ゲーム」と呼ぶし、勝負事という点も共通している。

    木村 JリーグのFC東京(2018年からクラブスポンサー・株主、2019年からマーケティングパートナー、2022年2月に経営権取得)、Bリーグの千葉ジェッツふなばし(2017年からパートナーシップ契約、2019年には戦略的資本業務提携を締結してその後グループ会社に)との関係もそうですが、公営競技の世界でもっとコミュニケーションの場をつくれるんじゃないかと考えたわけです。そういった連続性を考えたときに公営競技を含めてスポーツに投資をしていこうとなりました。

    2020年6月に共遊型スポーツベッティングサービス『TIPSTAR(ティップスター)』をリリースし、公営競技における新しいファン層を開拓している[写真]冨田峻矢

     

    播戸 一見、ゲームとスポーツは遠いような感じもありましたが、木村さんの話を伺うとそうじゃないんだなと感じました。たしかに近いですね。

    木村 はい。自分たちからしたらわりと隣の土地で商売している感覚なんです。

    播戸 一方で、「スポーツビジネスは儲からない」という風潮もあると思うんです。木村さんはどうお考えですか?

    木村 その答えで言わせてもらえば「ノー」です。

    播戸 理由を教えてください。

    木村 グローバルで見ていくと、特にアメリカにおいてはスポーツにおけるビジネスの収益化に成功しています。時間は多少かかるかもしれませんが、日本でもやれるんじゃないか、と。例えば、スポーツベッティングは日本で解禁されるかどうか分かりませんが、公営競技も広い括りで言うならばスポーツベッティングに近い。将来をにらみながら、公営競技に投資し収益を積み上げながら熟成させていく。順番的に投資をしている感じです。新たな財源を日本でも立ち上げていければ、スポーツビジネスはもっと儲かるし、儲かったもので発展に貢献できる。そういった好循環がつくれるんじゃないかとは思っています。

    播戸 全部つながってくる話ですよね。最初から全体像みたいなものを描けていたんですか?

    木村 特にスポーツベッティングのようなプラットフォーム型ビジネスモデルっていうのはもともと構想としてありました。どちらかというとスポーツクラブの経営権を取得して自分たちで運営していく形は、最近になってですね。こればかりはご縁もありますから。

    播戸 ミクシィは三井不動産とともに、船橋に大型多目的アリーナを建設することを発表されましたよね。バスケならアリーナ、サッカーならスタジアム。いわゆる“ハコ”にもこだわっているようにも感じます。

    2022年2月、ミクシィと三井不動産は、千葉県船橋市に収容客数1万人規模の大型多目的アリーナ「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」を建設する計画を発表した[写真提供]三井不動産

     

    木村 体験全体をデザインしないといいものにならないと思うんですよ。チームも“ハコ”も、強力に結びついたときにさらに豊かなコミュニケーション体験を提供できると思っているので。トータルでデザインしていくべきものなんじゃないかなとは思いますね。

    播戸 一般的には「自分たちで“ハコ”を持っていたほうが収益になる」とか、そういう話から入りがちです。しかし木村さんの話を伺うと“コミュニケーション“という根本がある。そこに付随してチーム、サポーターやファン、スタジアムと全部がつながっている。そんな印象を受けます。

    木村 ありがとうございます。

    播戸 つまりはユーザーサプライズファーストにつながっていきますよね。

    木村 モンストが出る前、かつてミクシィは経営的に苦しい時期がありました。やれ売り上げを立てなきゃいけないとか、やれコストがどうだとか、一つひとつは大事なんですけど、会社にいるみんなが同じ方向に向かえていないなと強く感じることがあったんです。みんながブレないでゴールに向かっていくにはどうしたらいいんだろうと考えたときに、たどり着いたのがやっぱり「顧客」でした。お客さんをどう幸せにしていくか、そこから逆算してすべてのものを引っ張っていけばブレないな、と。このときにユーザーサプライズファーストという概念が生まれたんです。

    スタジアムでの体験価値をつくる

    播戸 今回、ミクシィはFC東京の経営権を取得されました。その意味でいうと、ユーザーはサポーターになるわけですね。

    木村 はい、ライト層のファンも含めて。

    播戸 サポーターに対して、どんなサプライズのある価値を届けたいと考えていますか?

    木村 サポーターでも、直接スタジアムに足を運んでのサッカー観戦を体験していない人って実は少なくないと思うんですよ。まずは体験してもらわないと、魅力を伝えられない。ここを促していくことを一番やりたいですね。やっぱりライブで観ると興奮しますから。そのステップのひとつとして、例えばスタジアムまで足を運ぶのが面倒なら友達とスポーツバーで観戦してもらってもいい。そうやってどんどんと接触を図っていきたいですね。

    播戸 IT企業がJリーグに次々と参入してきています。三木谷(浩史)さんの楽天がヴィッセル神戸の経営権を取得したことを皮切りに、最近では鹿島アントラーズをメルカリが、FC町田ゼルビアをサイバーエージェントが。そして今回のFC東京とミクシィを見ても、強くコミットしている印象を受けます。先ほどあがったコミュニケーション、体験というところにぼくは期待を感じてしまいますね。コロナ禍の影響もあってだんだんとそこが落ちているような気がしているので。

    播戸さんは「スポーツ界に新しい風を吹かせていくべき」とIT企業の新規参入を歓迎する[写真]冨田峻矢

     

    木村 正直、エンターテインメントの中でもスポーツが一番ダメージを受けている部類だと思うんですよね。いろんなライブコンテンツが復活していますが、実際スタジアムやアリーナ観戦に戻る率が低いと感じています。

    播戸 簡単じゃない状況ではあると思います。ただ、だからこそ余計に期待感があるといいますか。Jリーグもここまで30年やってきて、経営も同じような形で運営してきたクラブも多いと思うんです。イノベーションや大きくスケールすることもそんなになかった。そこにまた新しいベンチャー企業が入ってきた。本当に楽しみなんですよ。

    木村 そう言っていただけるとうれしいです。

    播戸 最後になりますが、スポーツ界がもっとこうなっていったらいいなとか、その中で自分たちがこう関われたらいいなというものはありますか?

    木村 サステナビリティの話で言うと、運営を永続的にしていくための資金をどう調達していくべきかという論点がすっぽりと抜け落ちている気がするんですよ。先ほどのスポーツベッティングの話も含めて、やっぱり新たな財源をつくっていく必要があると思っています。スポーツに対する国の予算もアートに比べてもまだまだ足りないのではないでしょうか。前進していくには、それ相応の資金が必要。経済循環がきちんと回っていくことがぼくは大切だと思いますね。

    播戸 経営側だけでなく、ぼくら引退した選手も含めてみんなで考えていかなきゃいけないし、みんなで協力してやっていかなきゃいけないこと。木村さんと話をして、またいろいろと考えさせられました。本日はありがとうございました!

    「コミュニケーションと顧客体験でスポーツはもっと豊かになる」という木村さん。ミクシィが目指すスポーツビジネスの本質が見えた対談となった[写真]冨田峻矢

    text:二宮寿朗
    photo:冨田峻矢

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

    Job information by doda

    お仕事情報

    Recruit

    スポーツ関連のピックアップ求人

    求人一覧を見る