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鹿島アントラーズ・小泉文明が描く“新時代”のスポーツビジネス

ゲスト:小泉 文明さん × ナビゲーター:播戸 竜二さん

株式会社鹿島アントラーズFC 代表取締役社長/株式会社メルカリ 取締役会長

スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考える対談企画『SPORT LIGHTクロストーク』。サッカー元日本代表・播戸竜二さんがナビゲーターとなる今回のゲストは、株式会社メルカリ 取締役会長であり、株式会社鹿島アントラーズFC 代表取締役社長の小泉文明さん。自身のキャリアからスポーツビジネスに参画した理由、そして今後の展望など、プライベートでも交流のある播戸さんがじっくりとインタビューしました。

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    2022年シーズンのタイトル飛躍を誓う鹿島アントラーズは、アントラーズファミリーとともにどんな未来へ向かっていこうとしているのか[写真提供]鹿島アントラーズ

    「自分にしかできないこと」を追求する

    播戸 まずは、小泉さんのここまでのキャリアをあらためて教えていただきたいのですが。

    小泉 2003年に早稲田大学商学部を卒業して、大和証券SMBCで主にインターネット企業のIPO(新規公開株)のアドバイザー業務を担当していました。クライアントはミクシィだったり、DeNAだったり。3年半ほど働いて、その流れから2006年12月にミクシィに転職して取締役になったのが27歳のとき。5年ほどいて、そこから2年弱くらいは次、何しようかなって考えて33歳でメルカリに入りました。そこから今に至る、と。

    播戸 あまり「キャリアを変えた」というイメージは小泉さんのなかにはなさそうですね。

    小泉 ミクシィへの転職もアドバイザーから実行する側に変わったというくらいですから、大きなチェンジだとは考えなかったですね。経営というのは幅広いんですけど、自分の専門性は財務やマーケティングというより、幅広く全体を見て小さい会社を大きくしていく専門性なのかなと感じています。

    播戸 学生のころから「経営をやってみたい」と思っていたんですか?

    小泉 思っていましたね。高校生のころにインターネットを使ってモノを売ることを経験して、大学生になるとアルバイトはせずに週に数回原宿に行って、流行していた“裏原ファッション”の服を買ってきてネットオークションで売ったりしていました。だからまずは株式上場する会社とはどういうものなのか勉強しようと証券会社に入って、IPOを担当できたのは希望どおりでした。運もよかったとは思います。

    大学時代からオークションサイトでの商品の売買を通じて、インターネットビジネスへの関心を深めていったという[写真]冨田峻矢

    播戸 大和証券SMBCからミクシィに移ったのは、なにかきっかけがあったんですか?

    小泉 3年目である民営化の案件を担当させてもらったんです。かなりでかい案件なので会社の出世コースではあるんですよ。でもあまりに大きすぎて自分の関係ないところで物事が進むこともあり、「これ、自分じゃなくても別にいいよな」って思えてきて。一方で、ベンチャー企業はぼくのことを常に必要としてくれていました。特にミクシィは何かあったら相談に来てくれるので、一緒に経営しているみたいな感覚にもなって。じゃあ自分にしかできないことにチャレンジしようと思ってミクシィに入ったんです。

    播戸 ミクシィでは取締役執行役員CFO(最高財務責任者)まで務められていますが、そこからメルカリに移られました。この経緯は?

    小泉 ミクシィも社員が1,000人くらいになって、優秀な人材もいっぱい入ってきました。そうなってくると自分じゃなくてもできるなってことで、退路を断たないと次を決められないのでミクシィを退社しました。そこから2年弱はどこにも属さない形でスタートアップ企業をサポートしたりして、その後、創業後間もないメルカリに入りました。自分のキャリアの切り口は、自分にしかできないことに飛び込むこと。もし違う人でもできるような環境であれば、譲って次に行くという感じですかね。

    播戸 その2年弱の期間で、次にやるならこんなことをやりたい、という考えはしっかりとあったんですか?

    小泉 やはり人々の生活を変えるようなサービスをやりたいな、と。ミクシィのときの原体験として、SNSが世の中に出てきて個々の情報発信が社会現象化し、大きなパラダイムシフトが起こったわけです。みんなに利用してもらえる新しいライフスタイルが生まれるようなサービスじゃないと、自分がやる意味はあまりないだろうなと考えていました。

    小泉さんの経営者としてのルーツを探る話に花が咲く。そして話題はいよいよスポーツビジネスの話に[写真]冨田峻矢

    アントラーズ経営参画の理由

    播戸 小泉さんはその後、メルカリを成長させながら、2017年に鹿島アントラーズとスポンサー契約を結び、2019年8月には経営権を取得し代表取締役社長に就任します。ここまでの流れを教えてください。

    小泉 もともとメルカリは若い女性をターゲットにプロモーションをしていたんですが、男性や高年齢層にターゲットを広げたいと考えたときの一つの切り口がスポーツだったので、鹿島アントラーズと北海道日本ハムファイターズのスポンサーになりました。アントラーズとも頻繁に意見交換をして関係が深まっていく過程で、経営権の話が出てきていたのでそれならやりたいと思うようになったんです。

    播戸 昔からスポーツビジネスに対する興味はあったんですか?

    小泉 めちゃめちゃありましたよ、スポーツが大好きだったので。ただ、きっかけがなかった。プロ野球ではソフトバンク、楽天、DeNAなどテクノロジーを持っている会社が野球界に参入してビジネスが変わり、感動値が大きくなっていったじゃないですか。サッカーはまだまだテクノロジーで変えていけるんじゃないかって思ったこともスポーツビジネスに興味を覚えるきっかけの一つでした。

    播戸 経営権取得となるとメルカリで働く人たちの理解も得なければならないと思うのですが。

    小泉 経営参画の目的として3つのことを掲げました。1つ目はスポーツを通じてメルカリをアピールし、新規ユーザー層を拡大すること。2つ目はメルペイという金融事業をスタートさせるうえで、信用力を強化すること。ベンチャー企業がお金を扱うにあたっては信用が大事になってきますから、Jリーグクラブを経営するとなれば信頼性も企業の社会性も高まります。

    播戸 なるほど。

    小泉 そして3つ目は純粋にビジネスとしての可能性です。1つは「エンタメ×テクノロジー」。時代とともにVR、ARなど視聴体験もリッチになって、パブリックビューイングをはじめテクノロジーでどんどんサポートできるようになっている。もっと感動値を届けられるエンタメとして価値が上がれば、まだまだ大きくなれる可能性があります。
    そしてもう1つが「街づくり×テクノロジー」。メルカリでいうと、アプリでモノの売買をすることで、モノを捨てない循環型社会を目指していますが、それを街全体で循環型社会、サステナビリティに向かっていこうとしたときに、メルカリだけで行政に「やりましょう」と持ち掛けても、難しい部分があるじゃないですか。

    「エンターテインメントとテクノロジーが交わる新しい地域づくりにチャレンジしていきたい」と話す[写真]冨田峻矢

    播戸 確かに、Jリーグクラブだからこそ理解を得やすいというところがありますよね。

    小泉 鹿島アントラーズはホームタウン5市(鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市)すべて合わせて人口27万人ほど。日本の行政としてはよくあるサイズだと思うんです。テクノロジーで生活をしやすくするなど街を変えていきつつ循環型社会のエッセンスも入れていけば、新しい街の形を提案できるんじゃないかなと。Jリーグの理念にも沿うし、ぼくらのビジネスも大きくなる。みんながwin-winになれるイメージがあります。メルカリはアプリから、アントラーズは街づくりから循環型社会をつくったらどうなんだろう、と。最後は2つを組み合わせれば、無駄もありませんから。

    播戸 地方も活性化していきますよね。ぼくは現役時代いろいろなクラブでプレーさせてもらって、J3のFC琉球でもプレーしました。沖縄では認知度が低かったんですが、あるときふと入った定食屋の方が、ぼくとクラブを応援してくれるようになったんです。ぼくの最後の試合には50人くらいが応援に駆けつけてくれた。

    たとえば選手が30人いるとして、それぞれ50人ずつファンを増やせば1,500人になるじゃないですか。マンパワーで好きになってもらって、そこからテクノロジーが入ってくると地域が元気になる。Jリーグのクラブがない都道府県は7つありますけど、全部にJリーグのクラブができてその街が元気になれば、日本全体が活性化すると思うんです。

    小泉 そして、その50人が1人ずつ誰か連れてきたら100人になるし、もう1人連れてきたら150人、200人となっていきますよね。テクノロジーを入れることで誘いやすくなるという側面もありますね。

    播戸 現在、鹿島の経営に参画されて2年4カ月ほど(2021年12月取材時点)ですか。ここまでコロナ禍もあって大変だったのでは?

    小泉 経営参画からほとんどの期間がコロナ禍にあたるので本当に大変でしたけど、デジタルを活用していくマインドが高まったところはポジティブに捉えています。クラウドファンディングも2億4,500万円ほど集まりましたし、ギフティング(投げ銭)企画などいろんなことができました。その意味ではすべてがマイナスではなかったと思います。ファン、サポーターにも、メルカリになってからテクノロジーによっていろいろとよくなっていると感じ始めてもらっている段階ではないでしょうか。

    播戸 そこはさすがだな、と思うんです。コロナ禍に負けず、アントラーズは小泉さんのもとでいろんなチャレンジをしようとしていたな、と。そこは強く感じました。

    小泉 手数を打つことが大事だと思うんです。たとえばイチローさんの打率が3割5分として、一般的な成績が2割5分と考えると、大きな差のように見えて1割しか違わない。成功する確率って、そこまでの大差がない。だからこそ手数。もしうまくいかなくても、失敗と思うのか、それとも成功へのプロセスを歩んでいると思うかの差。「経営は手数」というのはぼくの信条でもあります。

    播戸 現場のサッカーという部分ではどんなことに取り組んでいますか?

    小泉 アントラーズらしさをどう言語化していくか、仕組み化していくか。ここがすごく大切だと思っていて、特にアカデミー、ユースでは小笠原満男テクニカルアドバイザー、柳沢敦鹿島アントラーズユース監督らを中心として、アントラーズのDNAというものを言語化した資料をベースに若い世代にインストールしてもらっています。それに選手一人ひとりのカルテみたいなものをつくって、どういうトレーニング、フィードバックを受けてきたかをデータ化していく。そうするとその選手がどうやってきたかが見えるじゃないですか。

    海外のクラブに挑戦していくのはある程度仕方ない部分があるとしても、育成組織からどんどん抜擢していけるような仕組みにしておく。クラウドファンディングの資金で建設したアカデミー専用グラウンドも活かして、「あの選手をトップチームで使いましょうよ」みたいなことが起こってほしいんですよ。

    播戸 育成組織の環境を整備しているわけですね。

    小泉 ドイツのボルシア・ドルトムントを見ても、若い選手がどんどん出てくるじゃないですか。17、18歳でもトップチームに行けるような環境にしていきたいですよね。そのために、選手寮も5億円かけて整備しました。

    播戸 中長期での狙いはよく分かりました。ただアントラーズはタイトル獲得を義務づけられたクラブですから、短期的にも結果を出していかないといけない。今、5年間タイトルを獲れていない状況です。

    現役時代は選手としてアントラーズと長年戦ってきた播戸さん。近年はクラブとしてのチャレンジや変化を感じているという[写真]冨田峻矢

    小泉 直近2年(2020-2021シーズン)で連覇した川崎フロンターレとの勝ち点差は、20ポイント以上離されています。苦渋の決断で監督交代に至りましたが、アップデートしていかなければなかなかその差は縮まっていかないと感じています。

    播戸 2021シーズンのアントラーズは初め、ブラジル人のザーゴ監督が指揮しました。イタリアでプレーするなど欧州のエッセンスを持っていた監督ですがなかなか結果が出ず、そこからクラブレジェンドの相馬直樹監督になり、そして今回新しく就任したのがスイス人のレネ・ヴァイラー監督。アントラーズでは初のブラジル人以外の外国人監督ということもあり、クラブとして変わってきている様子が伝わってきます。

    小泉 タイトルを獲る確率を一番に考えたときに、今回はブラジル人監督じゃないという判断をしただけですね。フットボールにおけるグローバル化が進み、監督の国籍は昔ほど関係なくなってきています。むしろ監督のスキル、戦略、戦術が重視される時代で、アントラーズもそこについていかないと世界との差がどんどんと開いてしまうんじゃないかと感じています。

    組織は人がすべて

    播戸 話を再びキャリアのほうに戻したいと思います。転職市場でいうと、「サッカークラブで働いてみたい」という希望を持っている人は少なくないと思うのですが、人材採用についてはどんな考えを持たれていますか?

    小泉 優秀な人材を獲得しないとクラブは稼げません。採用のところは努力しないといけない。サッカークラブは夢があるから入ってくるだろうとか、そんな甘い世界じゃないですからね。たとえば、アントラーズではクラブの採用サイトをつくって職種ごとの求人を掲載し、さらにnote(ノート)を活用して「仕事の裏側」を紹介する記事もアップしています。

    実は、サッカークラブの仕事って意外に分かってもらえていない。マッチデー以外には何をやっているのかとか伝えてあげないと、働きたいと思っている人もイメージが湧かないと思うので、そうしたリアルな情報を出すことが重要だと思っているんです。

    播戸 たとえばアクセス面だと鹿嶋は都内からだとちょっと遠いですよね。そういった働き方という面で工夫されていることはありますか?

    小泉 昨今、複業を解禁する企業も増えてきていますが、アントラーズはメルカリと同じ働き方なので複業の人を受け入れています。リモートワークもできる環境にあるので、複業の応募はかなり来ていますよ。将来的には「鹿嶋っていい街だな」と感じて移住してもらえるケースだってあると思うんです。

    播戸 小泉さんは、どんな人と一緒に働きたいと考えていますか?

    小泉 アントラーズには2つの軸があります。1つは「すべては勝利のために」というミッションのもと、タイトル獲得を目的にしています。もう1つは「地域とともに」というマインド。この2つは掛け算になると思っていて、アントラーズで働く人はそれぞれの持ち場で大事にしている軸です。この2つの軸を大切にしてくれる人がいいですよね。

    2021年にクラブ創設30周年を迎えた鹿島アントラーズは「すべては勝利のために」をミッションに掲げている[写真提供]鹿島アントラーズ

    播戸 小泉さんの話を伺うと、人材って大事なんだなって思います。

    小泉 組織は人が引っ張っていくものですからね。人がすべて。ぼくらの仕事は、能力と熱量の掛け算で物事を進めていくわけですから。

    播戸 小泉さんのなかで将来、アントラーズをこんなクラブにしていきたいという青写真は何かありますか?

    小泉 アントラーズというよりこれはJリーグ全体として言っていいのかもしれないですけど、クラブOBが経営に関与する時代に早くなればいいなと思っています。バイエルン・ミュンヘンがまさにそうじゃないですか。ルンメニゲがクラブのCEOを務めていましたし。

    播戸 今年(2021年)7月からはオリバー・カーンがCEOですもんね。

    小泉 日本もセカンドキャリアが指導者だけじゃなくて、もっとビジネスサイドに入ってきてほしい。アントラーズでいうと中田浩二C.R.O(クラブ・リレーションズ・オフィサー)がその役割なんですけど、サッカーサイドとビジネスサイドとの融合があると経営に厚みが出てくるとぼくは思っています。

    播戸 ぼくも現役を引退していろいろと勉強させてもらっていますが、小泉さんから見て、選手出身の人はどういう仕事が向いていると感じますか?

    小泉 セールスとかマーケティングから始めるのがいいんじゃないかと思います。セールスはスポンサー相手、マーケティングはファン相手とあって、現役時代から関わってきていることではあるので、近しいところから始めるのがセオリーですね。

    播戸 選手たちもOBがクラブにとってどういう存在になっているか、現状、おぼろげに見えているくらいだと思うんです。頑張ったらアンバサダーになれるとか、C.R.Oになれるとか。その道筋を経営陣がどう見せていくかはかなり大事ですよね。

    小泉 本当にそのとおりだと思います。

    播戸 最後に、小泉さんの夢や目標を教えていただけますか。

    小泉 ぼくの目標であり会社の目標であるのは、鹿島アントラーズの街づくりの事例をJリーグの事例にしていきたいということ。サッカークラブが街の中心にあることはこんなにいいことなんだ、という事例をたくさんつくって、ほかのクラブからもアントラーズの成功事例を参考にしてもらえるようになりたい。サッカーだけじゃなくて、もっとライフスタイルのところで提供できる価値はたくさんある。もっとその観点で地域への影響力を高めていければ、結果としてそれがサッカーそのものに返ってくるんじゃないかって思っています。

    播戸 熱いなあ(笑)。これからのアントラーズ、これからの小泉社長がすごく楽しみになってきました。今日は本当にありがとうございました!

    「クラブOBがもっと経営に関わっていくべき」と口をそろえる二人。スポーツビジネスの未来に向けて熱く語り合った[写真]冨田峻矢

    text:二宮寿朗
    photo:冨田峻矢

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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