経営者・鈴木啓太が見る「これからの時代に必要とされる人」
ゲスト:鈴木 啓太さん × ナビゲーター:播戸 竜二さん
AuB株式会社 代表取締役CEO/元サッカー日本代表
スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考える対談企画『SPORT LIGHTクロストーク』。サッカー元日本代表・播戸竜二さんがナビゲーターとなる今回のゲストは、同じく元日本代表で、現在は腸内細菌関連製品開発事業、アスリートに対するコンディショニングサポート事業やバイオマーカー開発事業などを展開するAuB株式会社CEOの鈴木啓太さん。会社設立の経緯やキャリアに対する考え方など、播戸さんが質問のシュートをバンバン浴びせます!
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1週間で会社を設立
播戸 腸のことを仕事にしようって現役のころからずっと考えていたの?
鈴木 初めはおなかって結構大事だよねっていうくらい。同じ量の食事をしているのに、この選手は太って、この選手は痩せて、とか、どうしてだろうなって疑問はあったんですけど、自分がこういう仕事をするとはまったく思ってなかったですね。
播戸 サッカー選手っていつかはキャリアの終わりがくる。現役時代に引退後のことは考えていた?
鈴木 それはもうプロに入るときから意識はしていましたよ。
播戸 引退は34歳やったね。
鈴木 そうです。(浦和レッズの先輩だった)福田正博さん、井原正巳さんといったあこがれの存在の人がそれくらいまでやっていたことを考えると、30歳過ぎくらいまでできればいいかな、と。だから引退後に何をするのかは、常に考えてはいました。当然、プロで活躍するんだという自分と、引退後に自分にはどんな仕事があるのか、どういうことに興味があるのか、と考える自分がいましたね。
播戸 実際、現役時にやってみたこと、試したことは何かあった?
鈴木 違う業界の人と会って話をすることは結構やっていましたね。中田英寿さんが「サッカー選手ではあるけど、自分はそれで終わるつもりはない」みたいな発言をされていて、将来のために資格の勉強をしているとも知りました。日本のトップ・オブ・トップの選手が「サッカーだけじゃない」って、そういう生き方もあるんだなって。もちろんサッカーだけやるのも幸せだとは思うんですけど、(生き方として)いろんな自由があっていいんだなって感じましたね。
AuB株式会社 代表取締役CEOを務める鈴木啓太さん[写真]渡邉彰太
播戸 ただ、現役のころの啓太がサッカー以外のことを考えているって発言はなかったように感じたけど。
鈴木 やっぱりサッカーが第一ですからね。いろんな人とコミュニケーションを取るのも、これをどうサッカーに活かそうか、それがまた次のキャリアに活きてくるだろうなという感覚でした。だから次のキャリアに対しての直接的な行動というよりも、サッカー選手としての幅を広げると同時に社会人としての幅も広げる、ということをやっていただけなのかなと。
播戸 啓太とは日本代表で一緒になることも多かった。印象に残っているのが、移動のバスとかで本を読んでいたこと。「おっ、そういうことしてるんや」って思ったけどね。
鈴木 ぼく、プロになるまで本を読まない人だったんです。でもレッズの先輩の西野努さん(現・浦和レッズテクニカルダイレクター)から「本を読みなさい」と言われて。
播戸 そうなんや。
鈴木 最初に『アルケミスト -夢を旅した少年』という小説を読んで、本ってこんなに面白いんだって思ったんです。そこから経営者やサッカー選手の自叙伝とか、あとはPL(損益計算書)BS(貸借対照表)が2時間で分かる本とか。
播戸 経営者になることも考えにはあったの?
鈴木 大きな夢を持って起業したいなっていうことじゃなくて、このくらいは知っておかないといけないんじゃないか、っていうくらいですよ。
播戸 AuBを設立したのは引退後だったっけ?
鈴木 いえ、現役最後の2015年シーズン中に設立したんです。2014年に不整脈が分かって、翌15年シーズンはレッズが契約を更新してくれたんですけど、自分のなかでコンディションが整わないからどうしようと。そんなときにあるトレーナーと食事をした際に、腸内細菌のことを仕事にしている人がいると聞いたんです。ぼくの母親は昔から「人間は腸が大事」と言っていて、ぼくも高校生のころからサプリメントを飲んでいたので腸内細菌に興味があった。だからすぐにその人を紹介してもらって話をしたら、コンディションと腸内細菌の関係について、これからもっと面白い研究結果が出てくるんじゃないかと感じて、その1週間後に会社を設立したんです。
播戸 行動が早い(笑)。
鈴木 ただぼくは選手だったので、別に会社の代表をやろうと思ったわけじゃないんです。ファウンダーの一人としてジョインしよう、と。代表はある方に任せていたんですけど、ただぼくが引退すると同時に「社長やれるでしょ」と言われて。創業者と実務を回す人は別でもいいわけなので、本当はそんな気なかったんですけどね。
株式会社ミスタートゥエルブ 代表取締役を務める播戸竜二さん[写真]渡邉彰太
熱量の高い人と仕事がしたい
播戸 今、デュアルキャリアといわれている時代。選手をやりながら並行して別のキャリアを持つ考えにはどう思う?
鈴木 実務については選手ではできないし、個人的にはやるべきじゃないと思います。そこには責任が生じてくるし、期限がある。例えばものをつくるにしてもサービスをつくるにしても、じゃあサッカー選手がケガをしたからそこに関われませんとなったら困る話じゃないですか。
播戸 たしかにね。
鈴木 例えば週1回のミーティングとか、そういう形の関わり方ならいいと思うんです。いろんなコミュニケーションやロジカルに説明することなどは、自分のプレーに直接活かせないとしても学びがあると思うので。もちろんアスリートとして支障がなければという話ですが。
播戸 起業してもう7期目だけど、いろんなことがあったのでは?
鈴木 あと1、2カ月で解散しなきゃいけなくなるかも、というところまでいったこともありましたよ。
播戸 すごいね、それは。そのときの啓太の気持ちは?
鈴木 ただただヤバいなって思っていましたよ。4年間ずっと研究しかしていなかったから売るものがない。研究の成果で5期目に入る前にようやくプロダクトを作ることができるとなって資金調達ができたから今も続けられていますけど、それがなかったらと思うとゾッとしますよ。
2015年12月にAuBを設立し、一時期は経営が危ぶまれたこともあったと話す[写真]渡邉彰太
播戸 そこから学んだのはどんなこと?
鈴木 結局は「人」なんだなって思いますね。まあ、サッカーと一緒。一つの強い個だけあってもダメで、どうマネジメントしてどう(人に)活躍してもらうか。その仕組みがしっかりできているか。それってサッカーの監督に照らし合わせてみると、「この人が会社組織のマネジメントをやるならきっとこうやるんだろうな」ってなんとなく分かりますよね。
播戸 じゃあ逆に、啓太がサッカーで監督をやるとしたらどんなふうにマネジメントをすると思う?
鈴木 選手に自由にやってもらうパターンかなと思いますね。あとは優秀な戦術家のコーチをつけるかな。自分のプレースタイル的にもそうだし。
播戸 ピッチで走り回っているイメージあるけど。
鈴木 ぼくの場合、決定的な仕事をするわけじゃなくて常に補助をしていく感じ。優秀な選手たちが自分の力を発揮するために、ほころびがでないようにするっていうのがぼくの役目かな、と。だから今の経営でもそうで、みんなが活躍するような土台、ルールづくりをやるようにしています。
播戸 この記事を読んだ人が、啓太のもとで働きたいってアピールしてくるのはウエルカム?
鈴木 めちゃめちゃウエルカムです。今採用をやっていても思うのは、自分から情報を取りにくる人、熱量の高い人と一緒に仕事がしたい。こういう人材がほしいなと思って仮にスカウトして採れたとしても、合うかどうかは分からない。こういう会社でこういうミッション、ビジョンがあって、ここに共感したから一緒に働きたいっていう人のほうがきっと長く一緒に働けるんだろうなって思います。待っている人より自分から情報を取りにいく人のほうが、これからの時代は必要とされるんじゃないかなって思いますね。特にベンチャーはそんな感じがします。
AuBメンバーのみなさんといっしょに[写真]渡邉彰太
いずれはサッカー界に戻りたい
播戸 これからAuBをどうしていきたいと考えてる?
鈴木 AuBは「すべての人を、ベストコンディションに。」というビジョンのもとに活動しているんですね。体の状態がいいときはすごくやる気もあるし、新しいことにチャレンジしようとか、新しい場所にいってみようとか、何か行動を起こすことができる。でもコンディションが悪いときって、何もやる気が起きないじゃないですか。
だからこそ、ぼくも播戸さんもそうですけど、アスリートとして、コンディショニングの大切さをより知っているからこそ、みんながコンディション良く生活できたら、もっともっといい仕事ができるし、いいコミュニケーションが取れる。そんな世の中にしていければとは思っています。
逆に、アスリートの(データの)おかげで、コンディションが整って自分たちの健康に寄与してくれているんだなとみなさんが感じてくれたら、アスリートを応援したいとなるかもしれない。ヘルスケア、教育といった分野にまでアスリートが社会に貢献しているんだと可視化していきたい。それがぼくらにとってのミッションなのかなと思っています。
播戸 AuBの商品にはぼくもお世話になっていますよ。腸内環境を整えるサプリメント『AuB BASE』とプロテイン製品の『AuB MAKE』。現役を辞めてもコンディション良く生活できているのは、こういった商品のおかげ。体の健康を助けてくれていますよ。
鈴木 商品には自信を持っています。ぼくらとしては商品を通じて、コンディションを整えることがどれだけ自分にとっていいことなのか、そこを知ってもらいたい。腸は睡眠にも関係しています。特に播戸さんみたいにお忙しい方、自分で料理をつくることが難しい方には、うまく使っていただければと思いますね。
腸内細菌サプリメント『AuB BASE』などの自社プロダクトの販売も行っている[写真]渡邉彰太
播戸 鈴木啓太として、今後どうしていきたいっていうのはある?
鈴木 いずれはサッカー界に戻りたいとは思っています。
播戸 それは楽しみやね。
鈴木 スポーツってコミュニティづくりだと思っていて、Jリーグの100年構想は素晴らしいと思うし、ぼくもそういったものに何か貢献したい。もしクラブ経営ができるのであればそういうクラブづくりがしたいですね。
播戸 自分も思うけど、こうやって今も楽しく過ごすことができているのはサッカーのおかげ。そういう人を一人でも増やしたいっていう思いは自分にもある。日本サッカー協会は2050年にワールドカップ優勝っていう目標を掲げていて、それを達成したらビジネスもやりやすくなるだろうし、何よりも日本が元気になる。日本サッカー界には啓太もそうだけど、素晴らしいOBがいっぱいいる。今、いろんな経験をしたうえで、いずれまたサッカー界を盛り上げるためにみんなで一緒にやりたいなって思う。
鈴木 本当にそうですね。
播戸 一人ひとりが人間的、社会的に大きくなったら、組織としても大きくなると思うから。
鈴木 Jリーグにしてもサッカークラブの価値ってまだまだ可能性があると思うんですよ。どのクラブも(収益が億単位で)3ケタにいってないわけじゃないですか。もう少し街づくり、コミュニティづくりの一端を担える影響力を持てるはず。外の世界でビジネスをやりながらも、お金になる仕組み、教育できる仕組みとか、現状の課題や不都合だと感じていることに対して、何かしら一石を投じることができればいいと思っています。
播戸 もっといいサッカー界にして、次の世代の子どもたちに経験してもらいたい。そして啓太みたいに、現役を終えた人がイキイキしているようなサッカー界になってほしいし、そういう世界にしていきたいね。今日は本当に楽しかった。ありがとう!
鈴木 こちらこそ播戸さんとじっくり話ができて、楽しかったです!
ともにサッカー界とビジネス界の両方を経験する二人。最後は互いに激励の言葉をかけ合った[写真]渡邉彰太
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










