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マイナースポーツを「マイスポーツ」に変える

尾形 太陽さん

株式会社ookami 代表取締役

スポーツ業界で活躍する著名な方をお招きし、 “スポーツ×ビジネス”で成功する秘訣に迫る「SPORT LIGHT Academy」。2021年6月30日に行われた第19回のゲストは、スポーツエンターテイメントアプリ「Player!」の開発・運営を行う、株式会社ookami代表の尾形太陽さん。

「Player!」はこれまで、Appleが選ぶBest of 2015、GOOD DESIGN AWARD 2016、Forbes JAPAN SPORTS BUSINESS AWARD 2019 テクノロジー賞などを受賞。いま注目が集まる“スポーツ×テック”ビジネスを牽引する尾形さんに、スポーツテック市場の将来性やookamiが目指していること、スポーツ業界におけるキャリアの可能性について語ってもらった。

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    ookamiの「Player!」はForbes JAPAN SPORTS BUSINESS AWARD 2019でテクノロジー賞を受賞した。 [写真]本人提供

    “スポーツ×テック”市場の可能性

    ookamiは「いつかNIKEを超えられるようなスポーツの会社をつくりたい」という思いのもと、尾形さんとその志をともにする仲間たちによって、2014年に設立された。現在は、約20人の社員と、約20人の副業メンバーによって、スポーツエンターテイメントアプリ「Player!」の開発・運営を行っている。

    同アプリ最大の特徴は、これまで日本のマスメディアではリアルタイムで配信されることがほとんどなかった、多種多様なスポーツの試合配信を行っている点にある。具体的には、日本中の学生チームやアマチュアチームの試合などだ。

    それまで可視化されていなかった試合情報の配信は大きな反響を呼び、2021年の全国高等学校ハンドボール選抜大会決勝の配信では、10万人以上もの人が「Player!」アプリを訪れた。

    尾形さんは最初に、日本国内のスポーツビジネス市場においてookamiが挑む領域について教えてくれた。

    「当社がターゲットにしている、学生スポーツやローカルスポーツと呼ばれる領域は、アメリカだと3兆円規模と言われる市場が顕在化しています。私たちがチャレンジしているのは日本国内におけるこの市場の開拓です。

    具体的なアプローチとしては、今までのような現地に行ったり、テレビで観たりするような観戦手法にとどまらず、従来型の観戦手法ではできなかったような体験を、インターネットを使って提案していきたいと思っています」

    「Player!」はそれまで可視化されることの少なかった学生スポーツやローカルスポーツの情報を配信することでユーザーから大きな支持を得た。[写真]本人提供

     

    「Player!」では年間何万試合もの配信が行われているが、速報データの収集・入力をookamiのスタッフが行うわけではない。実はそれらのデータを入力するのは、現地にいるスポーツチームの広報担当や部活のマネジャーなど。そうしたチームの関係者自身が「Player!」の配信システムを使用して、現地から配信を行うことで、全国各地の試合速報が集まっている。

    チーム関係者にとってのメリットは、HPの更新などに比べ、シンプルな管理画面でまとめて配信ができること。さらに「Player! サポート」という機能を通じて、ファンやOB/OGからのサポート(ギフティング)を募れること。

    インターネットを活用した新たな観戦体験の実現によって「Player!」は現在1,000チーム弱が活用するアプリへと成長。月間400万PVを超えるメディアとしての広告ビジネスと、スポーツチーム向けの一部有料機能を収益源として、さらなる成長を目指している。

    ここ1~2年は、コロナ禍の影響を受けて多くのスポーツチームが、ファンとの新たなコミュニケーションの機会づくりや収益モデルの確立に向き合う必要に迫られた。そして結果的に、これまでスポーツ業界の課題とされてきた「デジタル化」は急激に加速することになる。

    「最近では、試合映像を配信する取り組みを、日本フェンシング協会や、全日本空手道連盟とごいっしょさせていただきました。現地にお客さまを呼べない大会主催者の方々にとっては、試合を配信できてオンラインでお客さんが楽しめる場所として利用できるとともに、スポーツの大会の広告主の露出の機会も作ることができます。

    まさに“スポーツ観戦をデジタル化する”、ということをPlayer!としても加速することができました。今後もデジタル化が進む中、ここの先頭を切って走り続けたいな、というのが今年、来年の大きな指針となっています」

    ookamiはメンバーの役半数が副業での勤務。専門的なスキルを有する人が多く、同社にとって欠かせない戦力となっている。[写真]本人提供

    「Player!」を突き動かす思い

    尾形さんは、2012年に新卒で入社したソフトバンクを1年経たずに退職し、2014年にookamiを設立した。起業への思いは高校時代から持っていたという。

    「父親は音楽家で、簡単な仕事ではないと思うんですけど、自由に自分の好きを追求している父親を、そんな父親がいる家族をつくった母親を、心のどこかでカッコいいと思っていた気がします。少なからずそれが、自分で事業をやりたいという意志につながっていったのだと思います。ただ、自分が優れた人間だと思っていたわけではありません。

    だからこそ、5~10年という勝負ではなく、50年~60年という一生を費やして勝負できるものを探しました。自分がスポーツから多くのことを学んできたことや、アメリカ留学中にサッカー女子ワールドカップで日本が優勝した際の様子を見て、スポーツは国内だけじゃなく“世界で感動を共有できる”と感じられた経験を通じて、スポーツで事業をしようと思いました」

    気になるのは、「なぜ、いわゆる“マイナースポーツ”に着目したのか?」ということ。華々しい受賞歴からすると、一見順風満帆に歩んできたようにも思えるが、尾形さんは「ベンチャーらしくいろんな試行錯誤を経て、今のサービスにたどり着いた」と言う。

    「本当にいろんな失敗をしてきました。マイナースポーツや学生スポーツに市場があることは、アメリカの市場規模を見て理解はしていましたし、創業時から『学生スポーツはチャンスがあるのでは?』とアドバイスをしてくださる方もいましたが、創業時はアマチュアスポーツ、学生スポーツに懸けていたわけではなく、純粋なスポーツメディア、スポーツコミュニティをモバイルで作ろうとしていました。ただ、良いプロダクトを作って、賞をいただいても、“ユーザーに刺さっている”という感覚を得られない期間がしばらく続きました。

    それからいろんな試合の速報配信を試していく中で、ヒットしたのが高校バスケのウインターカップと春高バレーでした。データを見ると、サッカー日本代表戦以上に人が訪れている。それはなぜだろう?その理由を考える中で、“今まで可視化されていないけれど、観たい人たちがいる領域”がたくさんあることに初めて気づきました。

    その後も、ユーザーの課題がありそうなところを探して、試行錯誤を繰り返してきた結果、今のように多くのスポーツ協会と事業をごいっしょさせていただけるようになりました」

    「Player!」のサービス紹介動画の中で語られる、「ファン、チーム、スポンサー、私たちはともに、マイナースポーツを、マイスポーツへと変えていく この世界にスポーツダイバーシティを」という言葉には、「Player!」の目指す世界観が示されている。

    「Player!」は日本中のありとあらゆる試合のデータを、テキスト速報を中心に配信するプラットフォームである。「今まで可視化されていなかった試合情報の配信」が大きな支持を集めたことは先に述べたとおりだが、なぜそれらの試合は、これまで可視化されてこなかったのだろうか?

    「ハンドボールの高校選抜の試合などは、今日参加されている皆さんもきっと見たことがないはず。こういう、今までテレビやチャンネル数に限りのあるマスメディアで取り上げられなかった試合というのは、日本国内に何十万試合とあります。

    ただ一方で、そういう大会に見たい人がいなかったかというとそうではないと思っています。例えば、現地に息子の試合を見に行けない親御さんだったり、母校を応援したいOG・OBだったり、他校の試合が気になる現役の選手たちだったり。こういう方々はもともと潜在的な顧客だったはずですが、今までの日本のマスメディアだと、なかなか可視化することが難しかったんです。

    インターネットであればチャンネル数に限りはありません。今まで可視化されていなかった大会を配信することを通じて、リアルタイムにオンラインで応援できる場所、感動の瞬間を分かち合える場所をつくることができます。こうした大会を無数に集めることによって、現在は月間利用者数が400万人を超えるメディアとなっています」

    現在「Player!」では年間約2万試合が配信されている。その内訳は、プロ野球、Jリーグ、Bリーグといったメジャースポーツの試合の合計でも2,000試合弱であり、大半はプロ以外のカテゴリーの試合だという。尾形さんは、落ち着いた口調ながらも使命感を感じさせる言葉で、ookamiのビジョンについて語ってくれた。

    「マスメディアの時代には、サッカー日本代表戦やプロ野球、バレー日本代表といった有名なスポーツコンテンツはマスメディアのチャンネルに入って、どんどん有名になっていった一方で、気づけばそれら以外が “マイナースポーツ”と呼ばれるようになってしまっていた。

    でも、例えばサッカーをする子を持つお母さんから見れば、日本代表戦よりも子どもの試合のほうが“メジャースポーツ”だったりする。それこそが自分たちが楽しみたい“マイスポーツ”なんだ、といえるような世界観を実現させていきたいと考えています」

    「一生を費やして勝負できるもの」としてスポーツビジネスに挑むことを決意したという尾形さん。[写真]本人提供

    スポーツ業界に必要なのは “畑違い”の人

    イベントの最後は、質疑応答へ。参加者からは尾形さんへ次々と質問が寄せられた。その中でも特に盛り上がりを見せたのが“スポーツ業界でのキャリア”に関する質問。尾形さんは、いまスポーツ業界に必要なのは、“畑違い”の人だと言う。

    「スポーツ業界には、今この業界にいないような人たちのスキルが必要だと思っています。IT化が遅れている業界なので、第一線で活躍するクラブチームを含め、今後IT領域の経験者が求められるのは確実です。また、スポーツチームにもより健全な組織運営が求められるなか、総務・人事・経理といった管理部門のニーズも高まっています。当然、成長を目指すチーム・企業においては営業の経験者も必要です。

    当社でも、転職前はスポーツ業界に無縁だった者は少なくありません。いま営業部門のマネジャーを務めるのは広告代理店で10年以上勤務してきた人間。浦和レッズの大ファンであることが高じて、スポーツに関わる仕事を希望してookamiに転職し、営業として活躍してくれているママさん社員もいます」

    そして話題は、“スポーツ業界での副業の可能性”へ。近年スポーツ関連企業の副業求人は増え続けている。以前は条件面の折り合いがつかずスポーツ業界でのキャリアをあきらめる人は多かったかもしれない。しかし近年では、異分野で豊富な経験を積んだプロフェッショナルな人材が、本業と並行して副業でスポーツ関連ビジネスに関わることが増えている。

    「ookamiでも、副業で活躍しているメンバーが多くいます。例えば現在は、他のベンチャーで広告営業部門の立ち上げをされた方や、大手の金融系企業で公認会計士をされている方などに、副業で当社の事業をサポートしていただいていますね」

    イベントの最後は、スポーツ業界への転職を目指す方々へ向けた、尾形さんからのメッセージで幕を閉じた。

    「もっとスポーツ業界に人が集まるようにしないといけないと思っています。若い人や、業界外からの人が来ないと、発展しません。だからこそ、チャレンジしたいなと思う人たちを採用できる器を作っていきたいなと思っています。すぐにでもいっしょに働けたらうれしいですし、5~10年後であってもスポーツビジネスでごいっしょできたらな、と思っています」

    約1時間半のトークを通して、尾形さんの言葉から終始感じられたのは、あらゆる人を巻き込みながら、スポーツの未来を切り開いていこうとする姿勢だった。

    自分の見たいスポーツを「マイスポーツ」と呼べる世界観の実現へ向けて志をともにする仲間を増やしながら、ookamiはこれからも成長し続けていくはずだ。

    今年設立8年目を迎えたookami。同社が開発・運営を行う「Player!」はいま、スポーツ業界内でも大きな注目を集めている。[写真]本人提供

    text:川端優斗/dodaSPORTS編集部
    photo:本人提供

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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