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“黄金世代”が、セカンドキャリアで見た景色

播戸 竜二さん × 加地 亮さん

元サッカー日本代表

スポーツ業界で活躍する「人」を通じて、“スポーツ業界の今とこれから”を考えるトーク企画「SPORT LIGHTクロストーク」。記念すべき第1回の対談は、元プロサッカー選手で、“黄金世代”の盟友でもある播戸竜二さんと加地亮さん。引退後の現在もスポーツ業界に携わりながらそれぞれのキャリアを歩む2人に、「アスリートのセカンドキャリア」をテーマに話を繰り広げてもらった。

Index

    現役を引退し、それぞれの道へ

    ———加地さんは2017年、播戸さんは2019年にプロサッカー選手を引退されました。まずは、現在のお仕事について教えてください。

    加地 ぼくは奥さんが経営している「CAZI CAFE(カジカフェ)」で働きながら、Jリーグの解説をしたり、サッカーにまつわるイベントやサッカー教室に参加したり。ガンバ大阪の公式YouTubeチャンネル「GAMBA-FAMiLY.NET」のオリジナル番組「CAZI散歩」ではMCを務めています。

    播戸 ぼくはサッカー解説、イベント、メディア出演、スクールなどでサッカーに関わりながら、パーソルキャリア株式会社のエバンジェリストを始め、警備会社である株式会社セノンやITベンチャー企業の株式会社TENTIALでアドバイザーを務めています。この3つの企業は現役時代の縁もあって引退後、一緒に仕事をしませんかと声をかけていただいて今に至ります。

    あとは、日本サッカー協会(JFA)が次の100年に向けた取り組みとして立ち上げた「JFA SDGs推進チーム」や、競技環境改善に向けた選手視点での声を届けることを目的とした「JFAアスリート委員会」(委員長:川口能活さん)の委員を始め、Jリーグの特任理事やWEリーグ理事なども務めています。

    ———お二人ともいろんな仕事をかけもちでされていますが、今の仕事のスタイルは現役時代からイメージされていたのでしょうか。

    加地 カフェで働くことは決めていましたが、それ以外の仕事は、基本的に自分に何ができるのかも分からなかったので、声をかけていただいたお仕事は全てお引き受けし、それに100%で向き合うことを続けてきて、現在の仕事の形が出来上がりました。

    もともとはそこまでメディアへの露出は考えていなかったというか……ニーズがあってこそ成立する仕事なので、自分に話が来るとは思っていなかったんですけど、2018年がワールドカップイヤーだったこともあってか、さまざまなメディアに声をかけていただいて、解説やテレビ出演の仕事が増えていった感じです。

    播戸 ぼくは2018年にFC琉球に移籍した時に自分の中で「現役最後のシーズンになるかもしれない」と覚悟していたところもあったので、加地の引退後の姿や仕事への向き合い方を間近で見ながらサッカーに関わる仕事をするのか、それ以外の仕事をするのかを描き始めていたところもありました。

    その中で、いざ引退が現実になった時に「やっぱりサッカーに携わっていたいな」と。それを前提に、コーチなど現場での仕事か、それ以外かを考えたら、後者に興味を惹かれたので、一度フリーの身になってメディアの仕事を始めてみることにしました。

    もっとも、それらは「待ち」の仕事だということや、将来的にはリーグ、クラブに関わる仕事をしたいと思っていたことから、ビジネスを幅広く学ぶために一般企業や、特任理事などの仕事もお引き受けすることにしました。

    元アスリートがぶつかる壁

    ———お二人は現役時代も「プロサッカー選手以外」の仕事をされていました。その経験はセカンドキャリアでも役立ちましたか。

    加地 ぼくは現役中に美容室を経営したり、保育園を立ち上げたいと思って保育士になる勉強をしていたのですが、まず前者はカフェの仕事をするにあたってすごく役立ちました。これは仕事の中身というより、自分の将来的な仕事のあり方を想像する上で活かせた部分が多かったです。

    当時、奥さんはすでにカフェの経営を始めていましたが、二人が違うジャンルの「経営者」になってしまうと、どうしても相手の仕事に口を出したくなってしまうということに気づいたのも1つです。

    それを踏まえて、家族で仕事をしていくのならジャンルは1つに絞り、経営は奥さんに任せようという結論に至りました。これはぼく自身がサッカー関連の仕事にも携わっていることや、現役時代は自分の好きなようにサッカーをさせてもらった分、今度はぼくが奥さんの仕事をサポートする役に回ろうと思ったのもあります。

    また保育園経営についても場所をリサーチしたり、保育園の経営には何が必要かを調べたりもしていて……。結果的に現役時代の保育士資格の取得は断念しましたが、そんなふうに自分が将来的にやりたいことを想像できたからこそ、早めに気づけたことはたくさんあったと思います。

    播戸 ぼくが現役中にブログサイトの運営などを行う有限会社リリオや、アスリートのマネジメントやイベント事業等を行う株式会社ミスタートゥエルブを立ち上げたのは、セカンドキャリアを意識した準備という側面もありました。これらの仕事は基本的に「サッカー」に関わる業務で、今につながる仕事でもあると考えれば、そこで培った人脈も含めて今の自分にも活かされていると思います。

    ただ、プロサッカー選手を引退しなければ気づけなかったこともたくさんありました。いざプロサッカー選手という仕事がない生活を始めてみたら、想像していた以上に自分の体や心をフィットさせていく難しさを感じたし、最初の半年は、そこに適応するのに時間もかかりました。それはおそらく元アスリートの多くがぶちあたる壁なんじゃないか、という気もしています。

    加地 それはぼくも感じたね。例えば、カフェの仕事をするにしても、お客さんの中にはぼくのことを知ってくれている方もいれば、まったく知らない方もいて……となると接客の仕方とか、コミュニケーションの取り方も変わってくる分、最初はそのプレッシャーがすごくて全身にじんましんが出たりもした(笑)。

    またサッカーの仕事も、やってみなければ分からなかった大変さを感じることは多かったし、試合解説をしていてもいまだに「これで伝わっている?」「もっといい説明ができたんじゃないか」って、反省ばっかりや(笑)。

    播戸 間違いない。正直、ぼくもサッカーを辞めて2年半くらい経ったけど、強みであるはずのサッカーに関わる仕事でさえ、全然アカンと思う毎日よ。解説とかは正直、最初はもっと気楽な感じでやれると思っていたけど、やればやるほど難しさも感じるしね。また、いろんな仕事に携わることに面白さを感じている一方で、自分がどこに向かっているのか正直、分からなくなることもある(笑)。

    でもだからこそぼくは明確な目標を掲げたというか。幼少のころにプロサッカー選手という目標に向かって努力を続ける中で道が開けただけにセカンドキャリアも目標を据えようと考え、引退会見ではあえて「将来はJリーグチェアマンに」という大きな目標を口にしたところもあった。

    「やれること」の選択肢を広げる

    ———セカンドキャリアを始めてみて、もっとこういう準備をしていたら良かったと思うことはありましたか?

    播戸 これがしたい、という明確なものがあるならそこに向けた準備は絶対にしたほうがいいと思います。それに取り掛かることで、加地の保育士みたいに気づけることもあるだろうし、となればその分、早く違うキャリアを想像することもできるから。

    つまり、具体的に行動に移さなくても、キャリアを想像するだけでも生まれる何かは絶対にあるし、そもそも何かを学ぼうとすることにマイナスはひとつもない。実際にぼくも2011年3月にミスタートゥエルブを立ち上げ、経営や数字のことを分からないなりにも勉強しようとしたことで今に活きていることはたくさんありますしね。

    もっとも、さっきも言ったように、いざ引退してみたら足りていないと感じることばかりで……自分の未熟さを痛感する部分はたくさんあります。それに、仕事である以上「やりたい」と思うことと「実際にやれること」は違うというか。「やりたい」と思うだけで突き進めるほど甘くもないからこそ、まだまだ学ばなければいけないとも思います。

    加地 「やれること」の選択肢を広げる意味では、ぼくは語学をもっとしておけば良かったなって思う。キャリアの後半にアメリカのチーバスUSAで半年間プレーした時も、改めて語学ができれば世界の広がり方が大きく変わると実感したから。ただ、難しいのはプロサッカー選手の場合、ほかのことをやりたくてもクラブの縛りがあってできないこともあるからね。最近はどうなんやろう?

    播戸 今の時代は、ぼくらが若いころに比べると各クラブも選手のセカンドキャリアへの準備に対してだいぶ寛大になってきた気はするし、そういう準備をしている選手も増えていると思う。「サッカーをしている間はサッカーだけのことに集中したい」って選手もまだまだいるけどね。

    ただ、現役生活が長くなるほど必然的に年齢も重ねるわけで、例えば30代でパッと社会に出た時に「はい、ゼロからスタートします」では正直、厳しいから。サッカーでいうインサイドキック、インステップキック、くらいの基礎知識は備えた上で次のキャリアに進むほうがいいんじゃないかとは思うし、例えばパソコンを使いこなせるとか……一般社会で必要とされることを最低限、マスターしておけるように、スポーツ界全体として取り組むのはアリだと思う。

    加地 Jリーグがマストのカリキュラムとして組み込んでしまうくらいでもいいよね。バン(播戸)が言うようにパソコンなのか、語学なのか、将来自分が何をするにせよ無駄にならない知識を学ぶ場を作るというか。

    播戸 いいと思う。ただ、スポーツ界の難しいところは、ほかのことをやり始めると、成績が振るわないと余計に「サッカーに集中していないんじゃないか?」的な見られ方をする風潮がまだまだ根強く残っていることよね。

    そういう意味ではセカンドキャリアに対するスポーツ界全体のマインドを変えなければいけないところもあるし、実際に引退した選手が「引退前から準備をしていたのでセカンドキャリアにスムーズに入れた」というモデルケースを増やしていくことも必要かもしれない。

    転職やセカンドキャリアを考える人のために

    ———逆にプロサッカー選手という仕事が今のキャリアに活かせているところもありますか?

    播戸 適応する力はそのひとつですね。サッカーをするという根本は変わらなくてもチームは毎年、人が入れ替わるし、時には移籍で環境が大きく変わることもありましたから。そこにアジャストしていかないと結果を出せない世界だけに適応力は育まれたし、それは今のキャリアにも活かせていると思います。

    加地 確かに置かれた環境で自分の立ち位置の決め方とか、どうすれば早く周りとうまく仕事ができるようになるのか、という部分は、キャリアを積むほどスムーズになっていった気もする。あとは目標に向かってあきらめない、粘り強さも武器やな(笑)。

    播戸 間違いない。Jリーガーになりたい、日本代表になりたい、という目標に対してあきらめずに進んでいくとか、何が足りなくてどう改善していけばいいのかを考えてとにかくひたすら努力するとか……誰に何を言われようと、自分を曲げずに突き進む心の強さとかね(笑)。

    ———最後に、このクロストークの企画では、今後お二人がナビゲーターとなってスポーツ界のさまざまな仕事に携わる方たちとの対談をしていきます。楽しみにしていることがあれば教えてください。

    加地 「セカンドキャリア」の考え方一つとっても、ぼくら元プロサッカー選手と、ほかの仕事をされてきた方は違うはずなので、純粋にそれを聞けるのがすごく楽しみだし、例えば、どういうきっかけで転職を考えて、そこにどんな勇気が必要だったのかもすごく知りたいです。

    播戸 日本のスポーツ産業が大きくなっていくには、「転職」を考えるきっかけの裏にあるスポーツ界の課題や、次なる仕事に見いだした面白さなどを共有することは大事だし、そういうものが明らかになっていくことで、スポーツ界全体が経済的にも発展していくきっかけになればいいな、と思っています。

    またスポーツにしかない力というか、誰かを元気づけるとか、勇気づけられるのもスポーツの醍醐味ですからね。その部分をいかに経営と結びつけていくのか、そのためにはどんな仕事、人材が必要とされているのかを一緒に考えることで、転職やセカンドキャリアを考えている人たちの新たな一歩を踏み出すヒントになればいいなとも思っています。

    • 播戸 竜二(ばんど・りゅうじ)さん

      株式会社ミスタートゥエルブ 代表取締役/元サッカー日本代表

      1979年8月2日生まれ、兵庫県出身。1998年、ガンバ大阪に加入。1999年FIFAワールドユース選手権・ナイジェリア大会に出場し、準優勝を経験。2006年J1リーグで16得点を挙げ日本代表に初選出。21年にわたる現役生活でJリーグ通算109得点を記録し、2019年9月14日に現役引退を発表。引退後は2020年3月からJリーグ特任理事、同年5月から日本サッカー協会のアスリート委員、2021年2月からはWEリーグの理事を務めている。また、サッカー解説やメディア活動と並行し、パーソルキャリア株式会社を始めとする企業アドバイザーを務めるなど、スポーツ界・ビジネス界を横断して幅広く活躍している。

    • 加地 亮(かじ・あきら)さん

      元サッカー日本代表

      1980年1月13日生まれ、兵庫県出身。1998年、セレッソ大阪に加入。1999年FIFAワールドユース選手権・ナイジェリア大会に出場し、準優勝を経験。2003年10月に日本代表に初選出され、2006 FIFAワールドカップ・ドイツ大会等に出場。ジーコジャパンのレギュラーとして活躍し、国際Aマッチ64試合に出場した。2006年にガンバ大阪に移籍し、約8年半にわたってチームを支えた後、米国プロリーグのMLS・チーバスUSAやJ2リーグ・ファジアーノ岡山でのプレーを経て、2017年11月25日に同シーズン限りでの現役引退を発表。現在は、「CAZI CAFE(カジカフェ)」を夫妻で切り盛りしながら、サッカー解説やガンバ大阪公式YouTubeチャンネル「GAMBA-FAMiLY.NET」のオリジナル番組「CAZI散歩」のMCを務める。

    interview & text:高村美砂
    photo:高村美砂

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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