選手経験を活かしチームに寄り添う広報でありたい

チケット部門を担当した時期にJリーグ初優勝

———選手経験があるそうですが、これまでのサッカーとの関わりについて聞かせてください。

小学4年生の時、当時住んでいた山口県のクラブチームに入団し、サッカーを始めました。その後、親の転勤で地元の広島県に戻り、女子サッカー部がある広島皆実高校に入学してプレーしました。卒業後は早稲田大学の教育学部に進学し、ア式蹴球部女子部に入部しました。

私が入学したころはまだ初心者の選手が多く、チームも関東女子大学サッカーリーグ2部に所属していましたが、4年時にはインカレ（全日本大学女子サッカー選手権大会）で全国優勝することができました。この大学4年間は一番サッカーに没頭することができ、4年時にはキャプテンも務めさせてもらい、自分にとって大きな経験だったと思っています。

———学生時代は、将来のキャリアについてどのように考えていましたか？

サッカーを続ける道も考えたのですが、当時の女子サッカーはまだアマチュアスポーツで、働きながらプレーしなければならない環境だったので、それは少し難しいかなと。仕事をするのであれば早くキャリアを積みたいと思い、選手としての第一線は退いて就職し、サッカーは趣味の領域でやろうと考えました。

———サッカークラブへの就職は検討していましたか？

いいえ。最初はいろいろなスポーツクラブやスポーツジム、マスコミ関係などの企業の採用試験を受けていました。しかし、大学OBの方と面談をした時に、ちょうどタイミング良くサンフレッチェ広島で新しい人材を探していると声を掛けていただいて。「それなら東京から広島に戻ります」と返事をして、サンフレッチェで働くことになりました。

———入社後からこれまで、どんなお仕事をされてきたのですか？

お話をいただいた時に欠員が出たのが総務・経理だったので、最初は経理の仕事からスタートしました。経理は5年担当し、その後、チケット部門、運営部門を経て現在の広報部へ。サンフレッチェはジョブローテーションを積極的に取り入れているので、こういった部署異動はよくあります。私は今年で入社14年目ですが、広報部に異動してからは3年目になります。

———部署ごとに仕事内容は大きく異なるかと思います。

そうですね。経理はほかの会社と似通っていると思いますが、一部、特殊な処理が必要だったりします。運営やチケット、広報の仕事は、プロスポーツクラブならではだと思います。また、ホームゲームの設営は部署に関係なくスタッフ全員で行います。

現在、サンフレッチェがホームゲームで使用している『エディオンスタジアム広島』は、広島市が所有している施設ですので、試合前日に社員全員でスタジアムに行き、看板を設置したり、ポップを貼ったりと装飾を施し、ホームゲームに向けた準備をします。試合当日も必ず、スタッフ全員でスタジアムに行きます。

———その中で、特に印象深い出来事はありますか？

チケット部門を5年担当した間の2012シーズンに、サンフレッチェがJリーグで初優勝しました。満員になったスタジアムの景色は、今でもものすごく鮮明に覚えています。また、2015シーズンはJ1が2ステージ制で行われたため、チャンピオンシップが開催されました。そこでも満員のホームゲームで優勝が決まり、チケット担当として感慨深いものがありました。

サッカーも仕事も、“チーム”の中で役割を果たす

———広報担当となってからは、どんなお仕事をされているのですか？

サンフレッチェには広報担当が5人いて、現場とのやり取り、リリース発信、メディアの方々への取材対応など、仕事内容は多岐にわたります。また、今年から始まるWEリーグ（サッカー女子プロリーグ）の発足に伴い、『サンフレッチェ広島レジーナ』という女子プロチームが設立されたため、私は女子チームの専属広報となりました。女子チームの専属広報は私一人で、まずは女子チームの存在を広く知っていただくことが大きな活動目的ですので、今までの仕事内容とは少し違った、新たな挑戦をしているという感覚があります。

———メディア対応とは、具体的にどんな仕事ですか？

選手と取材日程の調整が主な業務です。また、メディアの方が練習取材に来られた際にはコミュニケーションを取って、メディア側の要望も聞きつつ「こういうエピソードがあるんですよ」と、こちらから取り上げてほしい情報を伝える場合もあります。あとは、自分で写真や動画を撮影してチームのSNS等で発信しています。今はWEリーグ本部とやり取りしながら、4月から始まるプレシーズンマッチや、9月のリーグ開幕に向けた準備にも取り掛かっているところです。

———広報の仕事において近藤さんがこだわっていることは？

情報発信をするうえでこだわっているのは、「どんな人に、どのように見ていただきたいか」を明確にすることですね。伝えたいことがしっかり伝わる情報発信が大事だと思います。そのためにはメディアの方々との関係構築も重要で、お互いのこだわりや信頼を崩さないようにしながら、偏りのない関係を築いていきたいと思っています。クラブの最前線に立って情報を発信していくことには“怖さ”もあり、かなり神経を使う仕事ですが、ただ、お客さまの反応が見える立場でもあるので、そこにやりがいも感じますね。

———選手としての経験が今の仕事に生きていると感じる部分はありますか？

3代前の社長から掛けられた言葉が印象的ですね。「サッカーも仕事も一緒だよ」と言われたのですが、「確かにな」と。任されたポジションをどのようにこなすのか、どういった役割を果たすのか。サッカーは集団スポーツなので会社と似ているところがあり、その言葉がスッと心の中に入ってきました。サッカーで培ったチームワークを、仕事への取り組み方、周りの人との関係性の築き方に反映できている部分もあるのかなと思います。

———もともとスポーツに関わる職に就きたいと思ってプロサッカークラブに入社できたとはいえ、最初は経理の仕事からのスタートでした。どんな気持ちで仕事と向き合ってきましたか？

確かに、最初は経理の仕事から始まって、少しは苦手意識のようなものがあったかもしれません。ですが、先ほど述べた3代前の社長の言葉のように、私の仕事が“会社”という一つのチームの中でどんな役割を果たしているのかが分かってくると、その違和感もなくなってきたように思います。また、経理の仕事だけでなく、試合会場でお客さまと接したり、ほかの社員の役割を知る機会があったりしたことも、私にとっては良い勉強になりました。

女子サッカーの発展に貢献したい

———近藤さんが女子チームの専属広報になったのは、どのような経緯からでしたか？

私自身、女子サッカーをしていた経験を活かしたいという思いがありましたし、女子サッカーを広く知ってもらいたいという気持ちもあります。会社がそういった私の気持ちをくんで提案してくれたので、「ぜひ、お願いします」と。チームがゼロから立ち上がるところから関わらせてもらえて、すごくありがたいなと思います。

———現段階での、サンフレッチェ広島レジーナの魅力や注目ポイントを教えてください。

知名度のある近賀ゆかり選手をはじめ、さまざまな地域から選手が集まり、1月からチームが始動しました。まだ会話の中で選手たちの個々のキャラクターの把握に努めている状態ですが、選手たちもだんだん広島での生活に慣れて、緊張がほぐれてきたかなと思います。とても明るいチームなので、選手個人の魅力を発信していきたいですし、私自身の選手経験を活かしながらチームの雰囲気を感じ取り、チーム・選手に寄り添った広報でありたいなと考えています。

———WEリーグは「Women Empowerment League」という名称のとおり、「日本の女性活躍社会を牽引する」という理念を掲げています。男子サッカーのJリーグよりもさらに難しい挑戦だと思いますが、リーグが目指すものに対してどのようなアプローチをしていこうと考えていますか？

WEリーグが掲げている理念はすごく魅力的ですし、私もぜひ実現したいなと思います。具体策はまだまだこれからですが、ただ、受け身になってばかりではなかなか広く知っていただけないと思っているので、さまざまな形で前に出ていく必要があると考えています。例えば、選手を連れて各市町の役所を訪問するなど、地域との関わり方が重要です。クラブとしての方向性を練りながら、リーグ開幕に向けた“仕掛け”を用意していきたいと思います。

———スポンサー企業への営業、集客、チーム情報の発信など、あらゆる分野のハブになるのが広報という仕事ですから、ご苦労も多いだろうと思います。

そうですね。とくに今年は新しいことに挑戦しているので、やらなければいけないことが山のようにあります。自分一人では到底こなしきれないので、会社全体はもちろん、会社以外も含め、いろいろな人の手や知恵をお借りしながら取り組んでいけたらと思います。とくに集客面は、コロナ禍でJリーグも昨シーズンから苦戦しているので、WEリーグも課題の一つになるでしょう。ただ、サンフレッチェは男子チームもあることが強みなので、両チームとも応援していただけるような流れを作り、みなさんに楽しんでいただきたいなと思っています。

———最後に、今後の夢や目標は何ですか？

広報としては、「サンフレッチェを応援しているよ」と言ってくださる方を増やすこと。それが一番の目標であり、そういった声が届くことがやりがいの一つです。私個人としては、WEリーグの誕生をきっかけに、サッカーをする女の子が増え、多くの子どもたちが「女子サッカー選手になりたい！」と夢を持つような環境をつくりたい。“情報を伝える”という仕事を通して、女子サッカーの発展に貢献していきたいです。