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“ビジネスアスリート”の世界に挑戦してほしい

石井 宏司さん

株式会社ミクシィ スポーツ事業部長

スポーツ業界で活躍する著名な方をお招きし、パーソルキャリア執行役員・大浦征也とのトークを通じて“スポーツ×ビジネス”で成功する秘訣に迫る「SPORT LIGHT Academy」。2020年12月16日に行われた第14回のゲストは、株式会社ミクシィでスポーツ事業部長を務める石井宏司さん。プロスポーツに携わることになった経緯から、スポーツビジネス市場の課題や将来性まで、話題は多岐に及んだ。

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    ミクシィは自社のエンタメブランド「XFLAG」として千葉ジェッツふなばし(Bリーグ)、FC東京(Jリーグ)、東京ヤクルトスワローズ(プロ野球)などのプロチームをサポート。競技の枠を超えてスポーツ産業の発展を図っている[写真]XFLAG

    成長産業としてのスポーツビジネス

    石井さんは現在、ミクシィのスポーツ事業を統括している。もともとは東京大学大学院で学び、1997年にリクルートに入社。デジタルビジネスや人材コンサルティングなど多くの事業に携わったのち、2009年からは経営コンサルタントとして、野村総合研究所でさまざまなプロジェクトに関わってきた。

    スポーツ業界に身を転じたのは2016年、日本女子プロ野球機構の事業理事に就任したときだ。誰もがうらやむビジネスパーソンとしてのキャリアを築きながら、40代半ばにして女子プロ野球リーグに参画した理由は何だったのだろうか。

    「野村総研時代は経営コンサルタントとして働いていたわけですが、当時はどのコンサル会社も、これからはグローバル化するのでグローバル展開しましょう、東南アジアに進出しましょうと。国内でモノが売れないから、そういう戦略を提案するしかないんです。そのうちに『自分は何をやっているんだろう』と思うようになりました。日本企業を海外に進出させて、人材もお金も知恵も日本から外に出していく。自分は正しいことをしているのかと疑問を覚えました」

    日本から外へ出すのではなく、逆に世界から日本にお金が流れ込むような産業を生み出せないか――。そう考えたとき、石井さんが着目したのがスポーツ、音楽、ゲームといったエンターテインメントの領域だった。

    「この分野で新しい輸出産業やインバウンド産業を作れたら、自分も日本の役に立てるようなコンサルタントになれるんじゃないかと思ったんです。当時スポーツ庁ができたときに、たまたま外部アドバイザリーのような立場になったこともあって、少しずつスポーツ業界の仕事をするようになりました」

    石井さんは新しい「成長産業」としてスポーツビジネスに注目し、毎週のようにさまざまなセミナーや社会人講座に足を運んで知識と人脈を増やしていった。そのなかでも、筑波大学の社会人向けスポーツビジネス講座で大きな刺激を受けたという。

    「侍ジャパンの事業戦略を作った荒木重雄さん(現スポーツマーケティングラボラトリー代表)や、当時宇都宮ブレックスの社長だった山谷拓志さん(現茨城ロボッツ社長)、それからJリーグの山下修作さん(現Jリーグ パートナー事業部長・国際部長)の講義を聞きました。彼らのスポーツビジネスにかけるパッションはすごかった。

    特に荒木さんはもともとIBMにいらっしゃって、40代半ばで千葉ロッテマリーンズを改革しています。40代半ばからスポーツ業界に行くキャリアパスがあるのかと、衝撃を受けました」

    石井さんはそのころから少しずつ、セミナーに登壇したプロクラブの経営者に自分を売り込んだり、採用面接を受けたりしたという。しかし、そこには厳しい現実が待っていた。一つは40代という年齢、もう一つは待遇だ。

    石井さんの築いたキャリアと実績に見合うだけの役職と待遇を用意できる企業は、当時のスポーツ業界には多くなかった。

    「女子プロ野球機構の事業理事に就任する前に、書類選考や面接で7連敗しているんです。これはさすがにショックでした」

    2016年に女子プロ野球機構の事業理事に就任。試合運営から広報やスポンサーセールスまで、あらゆる業務をこなしたと振り返る[写真]本人提供

    目に見えない資本を増やす

    「スポーツの領域で新しい産業を作る」という志を持ちながら、スポーツ業界への転身は「7連敗」という厳しい状況にあった。そんななか、2016年に女子プロ野球機構の事業理事に就任した経緯を「ある種の割り切りをした」と石井さんは表現する。

    「女子プロ野球はとにかく人がいない、赤字だということで、最初はアドバイザリーを頼まれたんです。そこで経営再建のプランを作ったら、当時女子プロ野球機構のオーナーだった方に、この計画を実行する人がいないんだと言われました」

    一方で石井さんも、どこかの組織に入らなければスポーツ業界でのキャリアは前に進まないと感じていた。

    「仕事がきつくても、給料が下がってもいいから一度中に入ろう。そう割り切って、女子プロ野球機構の事業理事を引き受けました」

    中に入ってみると、想像以上に大変な仕事が待っていた。「休みはほとんどない、赤字を圧縮しなきゃいけない、試合のたびに道具を運ばなければいけない。正直これはきついなと思いながらやっていました(笑)」

    それでも石井さんは、当時の経験を「ラッキーだった」と振り返る。

    「スタッフが少ないので、いわゆるスポンサーセールスもやる、チケットも売る、自分たちで機材を運んで設営もやる。チラシを配って、ポスターを貼って、SNSも自分でやりました。とにかく全部やらなくてはいけなかった。これはラッキーでした。女子プロ野球で仕事をした2年の間に、おそらくスポーツ業界のほとんどの仕事を経験したんじゃないかと思います」

    その後はスポーツマーケティングラボラトリーの執行役員を経て、ミクシィのスポーツ事業部長という現在の役職に就いた。女子プロ野球の経験を活かし、スポーツ業界でも順調にキャリアを切り開くことになったわけだが、石井さんはその秘訣を「人的資本」という言葉で説明する。知識や経験、スキルなどの「目に見えない資本」という意味だ。

    「資本の一つはネットワークです。人脈を作っておくこと。私はたまたまリクルートにいましたから、元リクルートの方々とはつながりやすい環境にありました。もう一つは野村総研のとき、すごく勉強したんです。グロービス経営大学院に通ったり、アメリカに行ってビジネスカンファレンスに参加したり。専門書もたくさん読みました。新しい分野にトライするとき、自分の資本を高くしておくというのは大事なポイントだと思います」

    日ごろから蓄えた知識、作ってきた人脈が、スポーツ業界でも役に立った。そしてもう一つ、「レピュテーション(評判)を上げておく」ことも大切だという。

    「例えば石井という人間を面接するときに、採用側はこの石井はどんな人物なのかと必ず調べます。業界の誰にも知られていない人物、悪評が立っている人物では採用は難しいでしょう。あとで分かったことですが、私の場合は人に頼まれてやっていたボランティアワークとか、スポーツ庁の仕事、沖縄のスポーツ振興の仕事、そういった積み重ねが評判につながっていた。一種の自己ブランディングですよね。これも重要だと思います」

    2019年、FC東京はサポーター向けのイベントスペースを『青赤パーク supported by XFLAG』として全面的にリニューアル。石井さん自身もFC東京のグローバル推進本部長としてクラブに携わっている[資料]本人提供

    新しいものはお客さまから生まれる

    対談開始から1時間ほどが過ぎ、聞き手役を務める大浦が参加者に質問をうながすと、興味深いテーマが次々と寄せられた。

    「なぜミクシィがスポーツ事業に乗り出したのか?」という質問が投げかけられると、石井さんはSNSからスタートしたミクシィの強みを「感情のコミュニケーション」と定義したうえで、アプリ『モンスターストライク』に代表されるミクシィの成功モデルは「ユーザーが市場を作っていくモデル」だと説明する。

    そのモデルをスポーツ界に広げる構想を語りながら、話題はeスポーツや、ミクシィが手がける「Unlim」というスポーツギフティングにも及んだ。

    続いてスポーツビジネスのトレンドについて質問が寄せられると、石井さんはコロナ禍によって加速した多様なオンラインサービスを例に挙げながら、「ここ10年くらいのマクロトレンドとして、世界的に草食化が進んでいる」と指摘した。

    「家の中で充実した豊かな時間を過ごすためのサービスは、先進国でも発展途上国でも伸びている。そこにスポーツがリーチできているかというと、まだできていないように思います」

    その点で、プレミアリーグのマンチェスター・シティがアマゾンプライムでドキュメンタリーを公開したケースを、新しいビジネスモデルの一つとして注目していると語った。

    最新のビジネスモデルの話に続いて、FC東京のビジネス展開に関する質問も相次いだ。石井さんはミクシィがスポンサードするサッカークラブ、FC東京でグローバル推進本部長という役職も担っている。

    石井さんは「スポンサードの目的はケースによって異なる」と前置きしながら、FC東京については「クラブをどう成長させるか」という点に主眼を置いているという。

    例えば世界的な成長市場である東南アジア地域に、FC東京の放映権を輸出する。アジアのクラブと提携を結び、FC東京が培ってきたノウハウを提供して利益を得る。さらには、アジア地域のクラブとのパイプを活用し、スポンサー企業の海外進出をサポートするようなモデルも視野に入れ、その成功事例も紹介した。

    幅広い話題に触れるなかで、特に強調したことがある。「スポーツ業界で求められる経験や能力」について質問されたときだ。石井さんはロジカルシンキング、マーケティングといった特定の能力ではなく、「学習能力」と「カスタマーフォーカス」と答えた。

    「新しいものはどこから生まれるかというと、今の時代はお客さまから生まれるんです。いかにカスタマーにフォーカスできるか。お客さまの変化を日々感じられるか。お客さまをよく観察して、そこから新しいものを考えられるか。これは普遍的に大事な能力だと思います」

    「我々もビジネスアスリートだと思っています」

    対談の最後、石井さんはそう言って参加者にエールを送った。

    「いかに苦労しながら自分を磨くか、自分を鍛えるか。それが最終的に花開くかどうかにつながるのだと思います。ビジネスアスリートの世界にぜひ来ていただきたい。そのチャレンジを応援したいと思います」

    「新しいものはお客さまから生まれる」と石井さんは言う。スポーツビジネスではファンの感情を共有できるかどうかが重要になる[資料]本人提供

    text:dodaSPORTS編集部
    photo:本人提供

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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