スポーツ業界の歴史を変えたい
早川 周作さん
琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役
スポーツ業界で活躍する著名な方をお招きし、大浦征也doda編集長とのトークを通じて“スポーツ×ビジネス”で成功する秘訣をひもといていく「SPORT LIGHT Academy」。2020年2月12日に行われた第11回のゲストは、卓球Tリーグ所属、琉球アスティーダスポーツクラブの代表取締役を務める早川周作さん。経営者の立場から、これからのスポーツ業界に求められる人材について語り、参加者へ転職に向けてのアドバイスを送った。
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Tリーグについて「このマーケットに挑戦すれば絶対に利益を得られると思った」[写真]兼子愼一郎
即決で社長就任
普段は会場に椅子が並び、2人のトークを聞く形で進行するが、今回は早川さんの「インタラクティブな会にしたい」との意向からテーブル席を用意。同じテーブルについた数名ずつで会話を交わし、場が温まったところで、早川さんと大浦編集長のトークが始まった。
早川さんはまず自身の半生について語った。詳細は早川さん個人のオフィシャルサイトで確認してもらうとして、気になるのはJリーグクラブの社長就任要請が来るなど引く手あまたの早川さんが、なぜ琉球アスティーダの代表取締役就任を引き受けたのか、という点。早川さんは、打診からわずか30分で就任を決断したという。
「Tリーグ立ちあげの際に松下浩二チェアマンと面会し、『5歳で始めて、15歳でメダルが取れる可能性がある。沖縄の貧富の格差が拡大する中、お金をかけずにチャンスが与えられる球技は卓球以外にない』と熱く語られたんですよ。
ぼくは強い者、強い地域に光を当てるのではなく、弱い者、弱い地域に光を当てるという視点で中小企業の支援や衆議院議員選挙、起業を繰り返してきました。『5歳から15歳』『お金をかけずにチャンスが与えられる』というキーワードを聞き、卓球なら自分の志がかなえられると考えて引き受けました」
野球やサッカーに比べるとマイナースポーツの印象が強い卓球だが、スポーツビジネスの視点で見ると、Tリーグは非常に大きな可能性を秘めたリーグだという。早川さんは同じ沖縄を本拠地とするJリーグのFC琉球と比較しつつ、このように説明した。
「例えばFC琉球は、アウェーゲームに行くときの遠征費用が数百万円かかるそうです。所属選手も25人から30人ぐらい必要。一方、卓球は最低4人いれば成立しますし、場所も取らない。今すごく人気が高まっていて、競技人口も増加中です。アジアのマーケットも狙えるし、なおかつTリーグの選手は大半が世界ランキング100位以内と、日本人が強い。今後の収入増が見込める上に、大人数でやるほかの競技に比べてコストも安く収まるんですよ」
「このマーケットに挑戦すれば絶対に利益を得られると思った」と断言する早川さん。沖縄から世界的な選手を出す、という目標も実現できる可能性が高まっているそうだ。そして、早川さんの口からはこんな注目発言も飛び出した。
「現在目指している国内プロスポーツチーム初の株式上場を達成すれば評価が高まり、ガバナンスや資金調達の問題を気にせず事業を拡大できます。資金調達ができれば数年以内にメジャースポーツのクラブを買収するつもりです」
早川さんは卓球チームだけでなく、トライアスロンチームや飲食店の運営にも携わる[写真]兼子愼一郎
志を持ってほしい
早川さんはもちろんその先の未来も見据えており、「歴史を変える作業をしたい」と大胆に語る。
「いろいろな仕掛けをして資金調達しているんですけど、お金を出してくれる企業が少ないんですよ。いくつか課題があって、まずガバナンスが利いていない。経理と財務が一緒だったり、外部監査人、監査法人がついていなかったりして、出資したお金がどう使われるか分からない会社が多いんです。
また、PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)の詳細な四半期開示がされていないところも多い。海外には上場し、株主承認に基づいて経営しているチームがたくさんあるのに、国内で上場されているチームはありません。Tリーグでガバナンスを利かせ、PL・BSもすべてディスクロージャー(情報開示)して、上場するチームを作れば、JリーグもBリーグも規則が変わると思います。夢と感動を与えるスポーツにお金が集まらない今の仕組みを、ぼくは変えたいんですよ」
ビジネスの視点からさまざまなアクションを起こし、スポーツ業界に変革をもたらそうとしている早川さん。自身も経営者としてさまざまな人材を雇い入れているが、就職希望者と面接する際はどんなことを聞くのだろうか。「聞くのは自宅の電話番号」とジョークを飛ばしながら、早川さんはこう続けた。
「ぼくは『有志有途』という言葉が好きなんです。そんなぼくの志を理解する必要はないけど、自分の中でしっかり志を持ってほしいですね。実際、この業界ではこういうことを実現したい、自分のやりたいことで社会課題を解決していきたいという強い思いを持っている方が残っています。スポーツという夢と感動を与える器で社会課題を解決したり、マネタイズしたりしなければならないので、ぼくも面接のときには『何をやりたいの?』と聞きます」
ビジネス界から今後、多くの人材がスポーツ業界に流れていくとの声もあるが、ビジネス界で活躍できる人材と、スポーツ業界で活躍できる人間は必ずしも同じではないという。早川さんはその理由を次のように説明した。
「普通のビジネスは安く買って高く売る能力が求められますが、スポーツ業界は社会性がより強く求められます。ビジネス界の感覚でビジネスをしてしまうと、選手を悪いイメージで売ってしまったり、チームのブランディングがマイナスになったりします。優秀なビジネスパーソンがスポーツ業界でも活躍できるかといったらその限りではありません」
1時間が過ぎ、ここから質疑応答のコーナーに移っていく。「ガバナンスの分野に転職のチャンスがあると思いますが、どんな人材が求められているのか教えてほしい」という男性からの質問に対して、早川さんはこう答えた。
「上場審査の際は、さまざまな規定管理を矛盾なく作ることが非常に重要になります。また、投資したお金がどう使われるかを明確にし、加えてうちは客観性を保つために、監査役の弁護士や代理監査人を入れて会計処理を任せたり、銀行出身の人間を取締役に入れたりしています。それを考えると、ガバナンスの部分で人事規定に強いとか、倫理のところで社内システムを作るのがうまいとか、そういった人材が今後、求められていくと思います」
スポーツ業界はビジネス界と比べて「社会性が強く求められる」と語る[写真]兼子愼一郎
楽しいと思えることに挑戦を
「Tリーグが今後、さらに盛りあがるためには何が必要で、そこに役立つ仕事はどのようなものか」という質問に対する早川さんの答えはこうだ。
「チェアマンをサポートする営業管理や人事管理の人間がまずは必要です。営業が十分にはできていないですし、チームを増やすにも説得力を増していかなければならないですからね。いろいろな企業に興味を持っていただいていますが、実際に参入していただくためには、最後の一押しができる人材が必要です。プロモーションの仕方などを変えていく上でも、広告のセンスや経営感覚を持った人間をもっと入れていきたいです」
イベントの翌日に面接を受けるという女性は「バックオフィスから関わっていきたいけど、経験がない。一般的な企業で力をつけてからのほうがいいのか知りたい」という悩みを打ち明けた。早川さんは「会計ソフトも企業によって使っているものがまったく違います。それを考えたら、入って勉強するのがいい。スポーツ業界に行きたいならスポーツ業界に思いきって入って、そこでしっかり勉強するしかないと思います」と背中を押した。また、大浦編集長は多くの転職事例を知る立場からこうアドバイスしている。
「スポーツ業界は、アルバイトやインターンからのたたき上げの方が多い。トップカテゴリーのチームに最初から入るのが難しくても、下位カテゴリーに間口を広げていけば募集は多いです。そういうところから入って経験を積み、結果としてトップカテゴリーのチームで働く人は大勢います。そういうアプローチもありますし、ほかの業界でスペシャリティーを身につけてから入るのもありだと思います。ガバナンス、管理部門系のニーズが多いのは事実です。専門家になればいろいろなところで求められますよ」
ほかにも多くの質疑応答がなされ、最後にメッセージを求められた早川さんは「ぼく、バカなんですよ」と切り出して、参加者に語りかけた。
「頭がいいわけでもなかったし、縁もコネもお金もなかったけど、何か楽しいことをやりたいと飛び出していったら何とかなるんですよね。一度限りの人生、自分が楽しいと思えることにチャレンジングに取り組んでいくことが、人生を豊かにするのかな、と思います。このイベントを機に一歩前に進んでがんばってほしいですね」
イベント終盤には、スポーツ業界に転職するためのアドバイスを送った[写真]兼子愼一郎
text:dodaSPORTS編集部
photo:兼子愼一郎
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










