誰かの思い出に残るイベントを提供し続けたい
吉田 典世さん
株式会社名古屋グランパスエイト マーケティング部 イベント・プロモーショングループ イベント・飲食担当
名古屋グランパスは2016年にイベント専門の部署を設立して以来、多種多様なイベントでファン・サポーターを楽しませてきた。「鯱の大祭典」開催にあたって与えられたミッションは、スタジアムを埋める満員の観客を楽しませるイベントの実施。担当した吉田さんは音楽ライブをはじめとする華やかな企画をいくつも開催し、来場者から高い満足度を引き出すイベントの実現に成功した。
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2016年に新設されたイベント専任の部署で働く[写真]本美安浩
クラブを挙げてイベントに注力
———名古屋グランパスのホームゲームでは毎試合どれほどのイベントを実施しているのでしょうか?
名古屋グランパスは豊田スタジアムとパロマ瑞穂スタジアムという2つのスタジアムをホームゲームで使用しています。敷地面積の都合もあって両者で実施されるイベントの数には差がありますが、より大きい豊田スタジアムでは毎試合8イベントを実施しています。
イベントには2つの種類があって、一つは毎試合実施する定常イベント、もう一つは試合ごとにテーマを決めて行う特別なイベントになります。内訳としては定常のイベントが5つほどで、そこに毎回異なるテーマのイベントを3つほど加えています。
———それぞれどのようなイベントがあるのですか?
定常のイベントにはエア遊具の「ふわふわグランパスくん」や「キックターゲット」「選手握手会」など、多くの方に楽しんでいただけるイベントを用意しています。
テーマ別のイベントは本当にさまざまですが、例えば今年4月28日のサンフレッチェ広島戦では「グランパスキッズワンダーランド」というテーマを設けて、子どもたちが楽しめる謎解きラリーや動物と触れ合えるイベントを開催しました。
また、5月26日の松本山雅FC戦では、「ガールズフェスタ」というテーマで女性向けのイベントを多数実施しました。緩急をつけながら、時節に合ったイベントの開催を意識しています。
———2018シーズンと比べても、2019シーズンは本当に多種多様なイベントを開催している印象です。
実は2018シーズンまでは、テーマを設けたイベントは年間で5試合ほどしか開催していませんでした。ですが2019シーズンは全試合で実施しています。クラブとしても2016年にイベントを担当する部署を作り、お客さまによりホームゲームを楽しんでいただくための施策に取り組んでいます。
Jリーグでイベント専任の部署を設けているクラブは決して多くないと思いますが、グランパスは試合以外でもお客さまに楽しんでいただけるよう、今後もイベントに力を入れていきたいと思っています。
鯱の大祭典では全試合で音楽ライブを開催[写真]名古屋グランパス
大祭典は「認知型」イベントで構成
———それでは「鯱の大祭典」ではどのようなコンセプトでイベントを準備したのでしょうか?
最初に「街中にもグランパス」というテーマがありました。サッカーは基本的にスタジアムの中で行われるものですが、3年前にイベントの部署を立ちあげて以来、「スタジアムの外でも楽しんでもらう」という意識がクラブ内に醸成されて、今回の鯱の大祭典ではスタジアムはもちろんですが、駅や駅からスタジアムに続く道などもグランパス色に染めるように意識して企画をしています。
全体のコンセプトに「スタジアムから愛知県全体をグランパスの色に染めて元気にする」というものを据えて、それを目標に進めました。
———それでパブリックビューイングや各所でのフラッグ掲出など、街中を巻きこんだインベントを多数実施したのですね。
そうです。街中のイベントとしてはこれまでで最大規模で、名古屋市の大須商店街にもフラッグが掲出されたり、郵便局員の皆さんに「鯱の大祭典」記念ユニフォームを着用していただけたりもしました。クラブとしてもホームタウン、イベント、グッズ、プロモーション、営業、チケット、広報と、事業部全体がこれほど大規模に一丸となって取り組む施策は今までになかったと思います。
———スタジアム内のイベントもバラエティ豊かでした。
鯱の大祭典では全試合満員を目標として掲げていました。豊田スタジアムのキャパシティは約4万人なので、私たちとしては4万人のお客さまに満足してもらえるイベントを用意しなければいけません。
そう考えると「体験型」のイベントよりも「認知型」のイベントのほうがより多くのお客さまに楽しんでいただけるのではという話になり、アーティストさんのライブなど「見て」楽しむ形のイベントをメインに据える方向性が決まりました。鯱の大祭典中は4試合すべてで音楽ライブを実施していますし、大道芸などのイベントも用意しました。
———音楽ライブの出演アーティストはどのような基準で決めたのですか?
今回は名古屋とつながりがあるという点を重視しました。それがないとお客さまとしてもキャスティングに対して戸惑ってしまいますから。例えばTEAM SHACHIさんは鯱の大祭典の広報大使を担当していただいていますし、BANTY FOOTさんは以前グランパスの公式サポートソングを担当していただいています。いずれもグランパスを強く応援してくださっているアーティストの皆さんです。
以前から年に1回「NO GRAMPUS, NO LIFE」という音楽イベントを開催していましたが、音楽とサッカーは親和性が高くて、お客さまの満足度が高いです。何より、スタジアムがいっそう華やかになりますよね。
———鯱の大祭典ではターゲットとする顧客層なども決めていたのですか?
鯱の大祭典全体は老若男女すべてのお客さまに向けたものでしたが、その中で試合ごとにメインターゲットとする層は変えていました。例えば最初のガンバ大阪戦は「Grampus Beat Party」と銘打って少しクラブっぽく、老若男女の中でも少し若者向けの雰囲気で構成しました。
小中高生1万人を招待した川崎フロンターレ戦では、初めてきた子どもたちに楽しんでもらえるように、「グランパス夏祭り」というコンセプトで射的やスーパーボールすくいなどのゲームが体験できる縁日ブースを用意しました。そういった招待施策やプロモーションと連動したイベントを企画することはいつも意識しています。
縁日ブースでは射的やスーパーボールすくいのほか、輪投げ、サメ釣りなどが楽しめる屋台が設置された[写真]名古屋グランパス
強みは「オールグランパス」
———金のしゃちほこレプリカの展示もインパクトがありました。
今回のイベントの目玉でもありました(笑)。実は鯱の大祭典開催にあたって、クラブスタッフでしゃちほこの歴史を勉強しに行きました。そこで教えていただいたんですけど、金のしゃちほこを初めてお城の天守閣につけたのは織田信長で、基本的に天下人の城にしかついていないそうなんです。勝利の守り神でもありますし、名古屋のシンボルでもある。鯱の大祭典を名乗るのならこれがないと始まらない、もう呼ぶしかないと思い(笑)、名古屋市が保有するレプリカをお借りすることになりました。
「見て」楽しむイベントとして名古屋城の金のしゃちほこレプリカの展示も行われた[写真]名古屋グランパス
———豊田スタジアムでは西イベント広場の非常に目立つ場所に展示されました。
やはりお客さまで一番にぎわっているところに展示したかったですし、できればその様子をSNSなどで拡散してほしかったので、豊田スタジアムをバックに金のしゃちほこが一番きれいに映るポイントを探しました(笑)。当日はおかげさまで人が集まり大盛況でしたね。そしてパロマ瑞穂スタジアムでは、試合中継に映るようにピッチの横に置きました。中継を見ている人が「あれ、何かあるぞ?」となるのを狙って。実際、8月24日の横浜F・マリノス戦の試合映像にはバッチリ映っていましたね。
———イベントを終えて、ファン・サポーターの反応はいかがでしたか?
グランパスは大きなイベントを開催した後はアンケート調査を行っているのですが、その中の「また鯱の大祭典を開催してほしいですか?」という質問に対して、80パーセント以上の方からまたやってほしいという回答をいただきました。運営している側としても、たくさんのお客さまに来場していただきましたし、SNSなどでも「グランパス変わったね、がんばっているね」という声を見かけるので、とてもうれしく、手応えを感じています。
———名古屋グランパスのイベントの強みはどこにあると思いますか?
個人的にグランパスの強みは「オールグランパス」であることだと思っています。イベントは一つの部署で成り立っているわけではありません。チケットやプロモーションのスタッフと一緒に企画しますし、企画したイベントを広報スタッフが一番よいタイミングや方法でSNSを使って告知してくれます。お客さまの要望から実施につながったイベントもありますし、選手が参加するイベントもあります。
さらには、パートナー企業さまも我々のコンセプトに沿ったイベントを開催していただいたり、協賛していただいたりしています。例えばガールズフェスタなら、女性が喜ぶPRやサンプリングをしましょうといったように。営業部がイベントのテーマを理解して、パートナー企業さまを結び付けてくれます。そうやって一つの部署だけではなく、オールグランパスでやれるのは大きいと思います。
———イベント担当としての今後の目標を教えてください。
イベント担当のミッションとして、試合とともにイベントでもお客さまに楽しんでいただきたいと考えています。家を出てからスタジアムに到着し、試合が終わり帰路につくまでをイベントとして捉え、多くのお客さまに「グランパスを見に来て楽しかった!」と思っていただけるようお客さま目線で工夫していきたいと思います。理想は活気あふれる城下町のようにしたいのです(笑)。
———城下町ですか?
はい。国宝のお城を見る前に、ちょっとお店によっておいしいものを食べたり、お土産を買ったり、おみくじを引いたり。写真を撮ったり、知り合いに偶然会って盛りあがったり、目的であるお城を見る前に、そうやってまず城下町で楽しみますよね。きっとそこにいる人は、みんな笑顔だと思うのです。同じようにお客さまには試合が始まる前からワクワクを感じてもらいたいです。
毎回何かしら違うイベントを用意して「今日は楽しかった! また来よう」と皆さんに思ってもらいたい。お客さまの笑顔でスタジアムがいっぱいになることが目標です。グランパスの試合やイベントを通じて、楽しかったこと、うれしかったこと、感動したことが誰かの思い出になればうれしいです。誰かに話したくなる、そんな思い出に残るイベントを提供し続けたいと思っています。とにかく楽しんでもらいたいです。楽しんでいただけること、いっぱいやりたいです!
「思い出に残る」イベントの企画に全力を注ぐ[写真]本美安浩
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interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:本美安浩
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










