「鯱の大祭典」を地域を代表するお祭りに
戸村 英嗣さん
株式会社名古屋グランパスエイト マーケティング部 部長付 (兼)イベント・プロモーショングループリーダー
「スタジアムの盛りあがりを名古屋、愛知、さらにその外にも広げていきたい」との思いを抱き、プロモーションの陣頭指揮を執って情報拡散を最大化させた。出身者だからこそ名古屋の街を、名古屋の人々を熟知し、アプローチ方法も心得る。計画的でありながら、振りきった、その斬新なプロモーションは「鯱の大祭典」の成功に一役買った。
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満員の試合が増え、現在は新規来場者の獲得に傾注する[写真]山口剛生
モデルは「鷹の祭典」
———名古屋グランパスはプロモーションにおいて、どういうコンセプトで発信しているのでしょうか?
一番の狙いは、今のスタジアムの盛りあがりを、来場したことがない方々に伝えていくことです。最近はたくさんのお客さまにお越しいただきスタジアムも盛りあがっています。その状況をいかにクリエイティブやキャッチコピーに落としこんで伝えていくか。ここ3、4年はそこに力を入れています。新しいお客さまに来場していただき、さらにリピーターになっていただく。そのサイクルを作っていければと。
———その中で、鯱の大祭典はシーズン最大のプロジェクトだったと思います。
そうですね。自分たちは鯱の大祭典を通じて、スタジアムの盛りあがりを名古屋、愛知、さらにその外にも広げていきたいと考え取り組みました。スタジアムだけでなく、街全体を盛りあげることがグランパスの存在意義だと思っていますし、それを具体化させたのが鯱の大祭典です。
———「鯱の大祭典」というフレーズはどのようにして生まれたのでしょうか?
モデルは、福岡ソフトバンクホークスの「鷹の祭典」で、イベント名はホークスさん公認のパクリです(笑)。でも、社内のみんなでしっかり考えた結果、「鯱の大祭典」になりました。鯱は名古屋の象徴ですし、チーム名でもありますので。祭典ではなく大祭典としたのは鷹の祭典を超えたいという思いからです。
以前、クラブのみんなで鷹の祭典を視察させていただき、いろいろなお話をうかがいました。競技は違いますけど、企画やイベントなど参考になるところが多く、福岡、九州を超えて日本を代表するイベントになっているという意味でも我々が目指すべきものだなと。
———ネーミングでいうと、イベント全体のキャッチコピーは「シャチほこれ!」でした。
「勝ち誇れ」というキーワードが最初に出てきました。昨シーズン夏の4試合で、「グランパス史上最大の夏祭り」というイベントを実施したのですが、4試合全勝ですごく盛りあがったんです。振り返ってみると、グランパスは夏の試合に強いんですよね。
それと、私自身も名古屋出身なのですが、名古屋の方々は自分たちの街に一種のプライドというか、誇りを隠し持っているところがあるんです(笑)。名古屋愛、地元愛が強い方が本当に多いんですよ。そこで名古屋の象徴である金のしゃちほこと勝ち誇れを掛け合わせ、シャチほこれ!としました。
名古屋のシンボルである金のしゃちほこと、金鯱グランパスくん[写真]名古屋グランパス
金鯱グランパスくん誕生
———またメインキャラクターとして、マスコットの色が変わった金鯱グランパスくんが登場しました。
せっかく祭典をやるのならシンボリックな存在が必要だなと。であれば、クラブのマスコットであるグランパスくんが金色になるのはどうかという話になりました。また、グランパスくんからも、一緒に盛りあげたいという申し出がありました(笑)。『Jリーグマスコット総選挙』で2連覇を達成しているグランパスくんを次の段階に上げていく上でも、新しいことに挑戦してほしいと思っていたのでちょうどいいタイミングでした。
———マスコットのカラーを変えるのは大胆な試みです。
自分たちは普段からいろいろなアイデアを出し合っていますが、その案が出たときはみんな「やろう」とすぐにまとまりました。面白いし、広がりもあるし、そのときすでに8月30日(金曜開催)のFC東京戦でDAZNコラボの「金J限定ユニフォーム」の制作も決まっていたので、デザインも金鯱グランパスくんにしようと。シンプルに顔をドーンと置きました(笑)。
デザインについては、カッコ良くないという批判的な意見がなかったわけではないですが、「かわいいから欲しい」という声もたくさんいただきましたし、金Jと金鯱グランパスくん、そして名古屋の象徴である金しゃち。金と鯱というキーワードを軸にいろいろなものを生みだせたので良かったです。
———鯱の大祭典開催はどういう形で発表したのでしょうか?
一番大事にしたのは最初にどう最大限露出するか。これはもう名古屋を代表する場所である名古屋城しかないなと。金しゃちがありますし、名古屋を盛りあげる上で最適な場所なので、まずは5月13日に名古屋城で記者会見をさせていただき、ビームス様デザインの「鯱の大祭典記念ユニフォーム」を発表しました。
それから6月6日に名古屋港水族館にある鯱の水槽の前で、TEAM SHACHIにも参加していただき、水族館とのコラボイベントを実施することを発表しました。そして7月17日に名古屋駅前で「ナナちゃん人形」にビームス様デザインのユニフォームを着用してもらい、金鯱グランパスくんもここでお披露目となりました。記者会見はクラブハウスやスタジアムで実施することが多いのですが、今回はあえて街中で行うことにこだわり、話題が続くように月に一度行って山を作っていきました。
2019年5月13日、名古屋城で「鯱の大祭典」開催を発表[写真]名古屋グランパス
名古屋駅前にグランパスのユニフォームに袖を通したナナちゃんと、金鯱グランパスくん(右)、金鯱グランパコちゃん(左)が登場[写真]名古屋グランパス
ビームスとのコラボユニ
———道路を借り切ってのプロモーション映像の撮影もありました。
あのムービーも、ポスターのデザインもそうですが、街がどれだけ盛りあがっているかを伝えることがカギだったので、街中で映像を撮りました。道路を借り切ってムービーを撮るのはクラブとしても初めてのチャレンジでしたが、ちょうどグランパスの試合がある日、豊田市駅の駅前が歩行者天国になるので市と相談させていただいて撮ることができました。
クアイフや名古屋おもてなし武将隊、TEAM SHACHI、小西工己社長、楢崎正剛クラブスペシャルフェロー、サポーターの皆様など300人ぐらいに集まっていただいたのですが、日程調整が大変でしたね。雨が降ったらヤバかったです(苦笑)。
———先ほどお話のあったビームスデザインのユニフォームですが、どういう経緯で実現したのでしょうか?
最初のきっかけは、ビームス名古屋の店長さんがグランパスを応援してくださっていたことです。うちの社員とも親しくさせていただいていたご縁で、ダメ元で一度ご相談し、そこから本社につないでいただきました。本社の窓口として担当いただいた方も名古屋出身で、グランパスを応援してくださっているという偶然もありました(笑)。
プレゼンした際にはユニフォームをデザインするにもしっかりとした理由がないとできないとのことでしたが、大祭典を通じて街を盛りあげたいというコンセプトに共感していただき、実現に至りました。ビームス様は日本各地のいろいろな魅力を掘り起こして発信していく「BEAMS JAPAN」という取り組みをされていて、今回『大名古屋展』を実施し、連動企画のような形でご一緒させていただくことになりました。
夏の4試合で、選手たちはビームスデザインのユニフォームを着用[写真]名古屋グランパス
どれだけ街を元気にできるか
———結果的に鯱の大祭典は4試合いずれもチケット完売となりました。プロモーション面での手応えはありましたか?
非常にありましたね。今回はスタジアムに足を運んでもらえなかったとしても、まずは大祭典の存在を知ってもらうことが大事だと考えていました。いろいろなメディアに取りあげていただき、話題になることを意識して、実際露出は大きかったと思います。
スタジアムでの来場者アンケートにはなりますが、大祭典が始まる1カ月以上前に「大祭典を知っていた」と答えた方が9割以上いました。4試合で12万人という来場者数ももちろんですが、こうした認知度の面でも成果があったと感じています。
———興行面では最高の結果が出たと言えますが、その上で改善点などはあるのでしょうか?
スタジアムが満員になったことは良かったのですが、街中でももっと大祭典をきっかけにして盛りあげていければと考えています。パブリックビューイングなどでグランパスの試合が街中で流れ、そこに人が集まってきて盛りあがる。そういう場所をたくさん作っていきたい。スタジアムに足を運んでもらう、という一つの目標は達成できました。
行政の皆さんや商店街の皆さんにユニフォームも着てもらいました。今後はもっとグランパスをきっかけに街が盛りあがり、名古屋、愛知のいろいろなところに興味を持ってもらい、地域の皆様とともに企画やイベントができたらなと思います。
———プロモーション担当として今後の目標は?
やっぱり祭典なので、その日は街のみんながお祭りと感じるような、驚くような企画を実施したいです。名古屋と言えば鯱の大祭典、と言われるぐらいの地域を代表するお祭りにしたい。そのためにもスタジアム以外にも集まれる場所、スポーツバーでも公園でも、グランパスをきっかけに集まれる場所をたくさん作りたいです。
全試合満員にするという目標がありつつ、そこを飛び出してどれだけ街を元気にできるか。グランパスを通して知り合いになったり、きずなを深めたり、名古屋、愛知がより好きになったり。そうやって、いつもみんなの心の中にあるクラブにしていきたいと思っています。
「グランパスをきっかけに集まれる場所をたくさん作りたい」と意気込む[写真]山口剛生
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interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:山口剛生
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










