100カ所以上と交渉 沿道使用の難しさ
山田 龍志さん
一般財団法人 東京マラソン財団 運営統括本部 運営企画部
大学卒業後、地域のスポーツセンターで貸館業務を担当。約6年勤務し、一念発起して東京マラソン財団へ転職。現在は運営企画部で、大会実施にあたって沿道使用の許可を得るため、沿道区、道路管理者、警視庁、交通事業者など100カ所以上とやり取りをする。初めて運営に携わった東京マラソンは「自分の仕事には満足できなかった」。その経験を糧に二度目の大舞台に臨む。
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市立や区立のスポーツセンターで「すべての業務」を経験[写真]兼子愼一郎
「街の体育館」で6年勤務
———東京マラソン財団に入った経緯を教えてください。
もともとは神奈川県の公共スポーツ施設を指定管理で運営している会社にいて、そこで6年ぐらい働き、ほかの仕事もしてみたいと思ったのが転職のきっかけです。ただスポーツには関わっていたい気持ちがあり、転職サイトで東京マラソン財団が職員を募集しているのを見つけて応募し、2018年8月に採用されました。
———前職のスポーツ施設ではどのような業務を担当されていたのでしょうか?
市立や区立のスポーツセンターといったいわゆる街の体育館に勤務して、貸館業務を担当していました。一般の方々が体育館やテニスコートを使う際の手続きや、会社が主催するスポーツ教室などのイベントの企画や運営、それらの広報業務も請け負っていました。ときにはトレーニングジムで運動指導をしたり、お年寄りや子どもと一緒に体操をしたりと、スポーツセンターに関わるすべての業務をやっていましたね。
———学生時代も含めこれまでスポーツとはどう関わってきたのでしょうか?
中学生のときに陸上部に入って高校でも続け、大学はスポーツ系の学部に入って、バスケットボールやダンスのサークルに参加していました。スポーツをするのも好きですけど、スポーツにはいろいろな価値があると信じているので、仕事をする上でもずっと関わっていたいなと思います。
———中学、高校の陸上部では長距離の選手だったんですか?
短距離です。100メートル、200メートル、長くても400メートルまでで、長距離はあまり好きではありませんでした(笑)。だから正直に言えば、マラソン自体への思い入れは強いほうではありません。ただ前職で携わっていた生涯スポーツという分野では、マラソンのような有酸素運動は特に大事でした。健康効果がある有酸素運動は社会的にも必要ですし、東京マラソンという大会も面白そうだったので、そういう意味では以前からランニングに興味がありました。
中学、高校時代は陸上部に所属。ランニングに興味があり東京マラソン財団に転職した[写真]兼子愼一郎
都庁や警察署などに申請
———現在は東京マラソン財団の運営企画部に所属されていますが、具体的にどんな業務を担っているのでしょうか?
東京マラソンを実施するための準備をしています。スタートラインのある東京都庁をはじめ、沿道の使用に際して警察署や区役所、各駅と調整し、申請して許可をもらうところまでやっています。流れとしては、各所と打ち合わせをして概要を説明し、書類で申請する形です。
———大会開催までにおよそ何カ所とやり取りするのでしょうか?
運営企画部は現在4人在籍しており、その4人と協力会社で100カ所以上とやり取りしています。私の担当は都庁、警察署、区役所が主なところなのですが、一つの役所でもいくつかの部署との調整があり、区役所でも扱っている場所によって部署が異なったりするので進め方は気をつけています。
———2019年3月にご自身初めてとなる東京マラソンの運営を経験しました。特に難しかったことは?
まだ一度しか経験していないので、言えることは少ないですが、やり取りする皆さんそれぞれに立場があってそれぞれに守らないといけないものがあり、そうした中で全体を運営していくのは大変でした。そもそもマラソンで使用することを想定している場所なんてないですからね。
———うまく進行することはできましたか?
個人的にはできなかったですね。苦労しましたし、あれもこれもうまくできなかったという感じでした。もちろんいろいろな事情があるんですけど、各所への申請が遅れてしまったり、迷惑をかけてしまったり。悔しいことばかりでした。
———東京マラソンの大会当日はどのようなスケジュールでしたか?
私はスタートエリアを担当していました。都庁の一室をお借りしてスタート本部を作り、そこにモニターを並べて、ランナーの方々がエリアに入ってくる様子やスタートラインに並んでいる姿などを見ていました。それからスタートするランナーを見送り、終わったら撤去という流れでした。都庁に観光でいらっしゃる方もいるので撤去作業は安全かつ、素早く終わらせるよう進めました。
前回大会はスタートエリアで3万8000人のランナーを見送った[写真]兼子愼一郎
交通規制の広報業務も担当
———各所とのやり取りや申請業務のほかに、大会前には交通規制に関する広報業務も担当されているそうですね。
広報部が担っている大会に関するリリースとは別に、広告代理店と連携して交通規制に関するお知らせを発信する仕事もしています。チラシやポスターを作ったり、ラジオで流す原稿を作ったり、ネット広告を制作したり。チラシは約28万枚を各所に配り、約24万戸にDMを送っており、ポスターは電車やバスの中づりも含め約4万枚掲出しています。そのほかにも、道路に告知看板や横断幕を出したり、首都高速道路にデジタルでメッセージを発信したりしています。
———こうした業務はどういうスケジュールで進めているのでしょうか?
東京マラソンは3月が本番なのですが、交通規制の広報は一番早いところで12月から始め、開催日に近づくにつれて集中的に行っています。各所への申請は、早いところで警察署に夏ごろにあいさつに行き、秋ごろから話をつめていく流れです。ただ道路工事などもあって細かな部分まではなかなか決まらず、最終的に許可をもらうのは結構ギリギリになってしまうこともあります。
———業務的なピークが夏から冬にかけてとなると、春は少し落ち着いていそうですね。
そうですね(笑)。でも今年は9月15日に都内で行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ、主催:日本陸上競技連盟)の運営協力をしていたので、春から夏にかけてもバタバタしていました。
———二度目の東京マラソンに向けて順調に進んでいますか?
そうですね。ただ、今はMGCのコースが頭に入っていて、早く東京マラソンのコースを思い出さないといけないなと(笑)。
———これからチャレンジしたいことや改善したいことはありますか?
今は沿道の調整や、交通規制の広報を担当していますが、例年どおりというのではなく、どうやったら皆さんに道路状況を伝えられるのかをもっと考えていきたいです。東京マラソンはもう10年以上、毎年続けていますけど、当日になると「この道が通れないなんて知らなかった」という方は当然いらっしゃいます。
ご理解していただける方も多いのですが、マラソンに興味がない方には迷惑でしかないんですよね。交通規制で迷惑をかけてしまうことに変わりはないんですけど、まずは事前にしっかりとお伝えしたいですし、そのためにはどうすればいいかを考えて改善できればと思っています。
———今後の夢や目標は?
個人的なことですが、前職のときも転職活動中もスポーツを通してハッピーになる人を増やしたいと、ぼんやりですけど考えていました。これからもこうした仕事を通じてそういう流れを作っていければと思っています。
「スポーツを通してハッピーになる人を増やしたい」と決意を語る[写真]兼子愼一郎
interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:兼子愼一郎
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










