dodaのスポーツ求人

成長するスポーツMD市場でリーグ、チームのパートナーに

川名 正憲さん

ファナティクス・ジャパン合同会社 マネジングディレクター(代表)

「ファン」としてスポーツのとりこになり、総合商社でビジネスマンとして実績を残し、スポーツ業界に飛びこんだ。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本代表の広報を務め、大手コンサルティング会社を経てたどり着いたのはスポーツマーチャンダイジング(MD)業界。リーグ、チームのパートナーとして「ファン」がスポーツをより楽しめる環境を作りあげる。

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    いろいろな縁があり、2013年WBCの日本代表に広報として同行[写真]兼子愼一郎

    WBC日本代表の広報に

    ———学生時代はどのようにスポーツに関わっていたのでしょうか?

    小学生のときに1年ぐらいアメリカのテネシー州ナッシュビルにいたんですけど、そのときに野球やバスケットボール、アメフトなどいろいろなスポーツを観たりやったりして育ちました。

    中学生のときはバスケットボール部、高校、大学は野球部だったんですけど、選手ではなくマネージャーをしていました。アスリートとしてではなく、運営側の立場で7年間、関わっていました。

    ———大学卒業からどういった流れでスポーツビジネスに携わるようになったのでしょうか?

    球団経営者はビジネス界で経験を積まれた方が多く、スポーツ業界に入るにはそれしか道がないと勝手に思いこんでいたので、ビジネスマンとして実績を作ろうと思い、総合商社に就職しました。そこで6、7年勤めた後、シカゴ郊外のビジネススクールに2年間、留学しました。

    そこで本場のスポーツビジネスに触れる機会があり、自分のキャリアを見つめ直したときに、いつかプロ経営者になって40代、50代でスポーツの世界に入れたらいいな、というのではなく、もう少し明確なキャリアの計画を描かないといけないと思ったんです。それで留学期間が終わった後もニューヨークのスポーツビジネス関係の会社でインターンをしたり、いろいろなネットワーキングをしたりしました。

    それが2012年から2013年で、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に関わりたいと思って仕事を探し、いろいろな縁でMLB(メジャーリーグベースボール)の方と知り合い、日本代表の専属広報の仕事をさせていただく機会に恵まれました。本格的にスポーツの仕事をしたのはそれが最初です。

    ———そこからご自身の会社を設立するまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

    WBCが終わった後、マッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティングファームに転職して約3年間、消費財や小売り・マーケティング関係の仕事をしていました。

    そこでは同僚がスポーツ関係者とつながっていたり、スポーツ業界に転身したOBがいたりして、その中で、元陸上選手の為末大さんを紹介してもらい、一緒に株式会社FanForwardを立ちあげました。自分自身はアスリートだったわけではなく、ファン側から見たエンターテインメントとしてのスポーツに思い入れがありました。

    そうした背景がある中で、日本のスポーツ界をもっと良くしたいと考えたときに、ファンが楽しむ環境を良くしたい、ファンがもっとコンテンツにエンゲージできるサービスを立ちあげたいということで取り組んできました。

    また、2016年にBリーグが立ちあがるタイミングで、マーケティングやクラブを支援する枠組みの構築など、自分のバックグラウンドを活かす形でのサポートをしながら自分の会社を運営していました。

    ファナティクスでは東アジアの責任者を務める[写真]兼子愼一郎

    事業における2つの柱

    ———ではファナティクス・ジャパン設立の経緯は?

    2017年の夏ごろ、ファナティクスの創業者であるマイケル・ルビンと知り合い、これからファナティクスが日本やアジアで事業展開するとしたら何ができるかを話しました。日本のスポーツのマーチャンダイジング(MD)市場がどんな状態で、今後どれだけ広げられる可能性があるか、その中で何ができるかを話したところ、ファナティクス・ジャパンの立ちあげをリードしてほしいということでスタートしました。

    ———現在担っている業務や活動内容を教えてください。

    ファナティクスの東アジアの責任者として、主に日本と韓国、そのほかアジア諸国でファナティクスのビジネスを広げる活動をしています。

    2つの柱があって、1つはMLBやNBA、欧州サッカーなどのグローバルなブランドのライセンス商品を、アジア各地で購入しやすくすること。日本にも数多くのファンがいる中でグッズが手に入りにくい状況があるので、それをきちんとお届けできるサプライチェーンを組み、eコマースで販売しています。

    もう1つは、日本国内のスポーツマーチャンダイジング市場はアメリカ、欧州の次に大きなマーケットなので、自国のスポーツコンテンツ価値を広げてライセンスグッズの売り上げを伸ばすという取り組みを行っています。

    今年から福岡ソフトバンクホークスと長期的かつ包括的なマーチャンダイジングのパートナーシップを組ませていただき、ほかにもバスケットボールやサッカーなど、いろいろなところとお話をさせていただいています。

    ———今までで特にやりがいを感じた仕事は?

    2018年11月の日米野球の際、従来のスポーツ物販とは異なる購入体験をしていただきたいと思い、お客さまにより買い物を楽しんでいただけるような店構えにしました。従来はカウンター越しにお客さまが並んで、写真を指さして「これください」と注文し、裏から持ってくるというオペレーションが多かったんですね。

    販売するアイテムが限られている場合は効率的なんですが、品ぞろえを増やし、試着もできて鏡もあるウォークインストアの形にしたところ、ファンの方に喜んでいただきました。売り上げも前回大会に比べて倍近くになったので、チャレンジしてすごく良かったなと。

    また、大会期間中にちょうど大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)がMLBの新人王を受賞したので、発表された瞬間に記念Tシャツを製造して販売するという企画も実施しました。もちろん前もって準備した部分はあるんですが、選ばれるかどうか最後まで分からなかったので、決定してからプリントしても間に合うような体制を整え、実際に販売したときは一瞬で完売しました。

    「ホットマーケット」といって、その瞬間だから記念に買う方が大勢いらっしゃるんです。そういうニーズに応えるためにチャレンジし、実現できたので、非常にやりがいがありました。

    2018年11月の日米野球開催時に大谷翔平の新人王獲得が決まり、即座にグッズを製作して販売。短時間で完売した[写真]ファナティクス・ジャパン

    東京ドームで行われた2019年のMLB開幕戦ではイチローグッズを販売[写真]ファナティクス・ジャパン

    MD市場はもっと成長する

    ———スポーツ業界で働くことの一番の魅力は何だと思いますか?

    自分自身は年中スポーツに触れられているだけで、かなり幸せなんですよね(笑)。選手の移籍情報など、趣味で集めているような情報がビジネスに影響しますし、仕事と趣味の境目がなくなり、それが苦にならないのは間違いなく魅力だと思っています。

    ———日本スポーツ界のマーチャンダイジングは今後どう変わり、その中でファナティクス・ジャパンはどんな役割を担うのでしょうか?

    市場はもっと成長していくと思います。マーチャンダイジングはスポーツ団体にとって売り上げのメインではないんですよ。チケット収入やスポンサーシップ、放映権などがある中、マーチャンダイジングは4番目、5番目という位置づけになっていて、少なくとも立ちあげたばかりのチームやリーグの中で優先度が高くなることはあまりない。そのため最初は外注の形を取るチームやリーグが多いんですけど、成長していくと内製化に切り替わっていきます。

    日本は野球もサッカーもこのフェーズにあると思うんですが、商品開発やeコマース運営、店舗運営などの専業のパートナーと組むほうが、中長期的にはより大きなインパクトを出せると考えています。MLBやNFLのチームは日本の球団よりも売り上げは大きいですが、マーチャンダイジングに割くリソースは限定的で、リーグ管轄にして、我々のようなパートナーと組むスタイルが一般的です。

    日本が内製化で成長しているのは正しいステップだと思いますが、我々はその先に行くためのパートナーとしてホークスさまとご一緒させていただくことになりました。そこで実績を残し、他球団や野球以外のチームにもパートナーとして認めてもらえるようになっていきたいです。

    ———スポーツ業界に欲しい人材、一緒に働きたい人はどんな人でしょうか?

    新しいことにチャレンジするにあたって、どれだけプロフェッショナルでも自分のやり方に固執する人はダメだと思っています。知見は活用しつつ、先のことを考えられる人がいいですね。

    また、仕事を与えられるのを待つのではなく、自分で動いてくれる人、たとえ若くても、インディペンデントに動ける人に来てほしいです。価値を出せるスキルを持っていることを前提とし、その上でマインドセットを持っていることが大事だと思います。

    福岡ソフトバンクホークスとのビジネスを皮切りに事業拡大をめざす[写真]兼子愼一郎

    interview & text:dodaSPORTS編集部
    photo:兼子愼一郎

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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