「まずは行動することが大事」
播戸 竜二さん
株式会社ミスタートゥエルブ 代表取締役/元サッカー日本代表
「SPORT LIGHT Academy」では、スポーツ業界で活躍している著名な方をお招きし、doda編集長、大浦征也とのトークを通して、“スポーツ×ビジネス”で成功する秘訣を紐解いていく。第2回のゲストは長年Jリーガーとして活躍した播戸竜二さん。プロ選手時代からビジネスの世界に足を踏み入れている播戸さんに、自身のスポーツビジネスとの関わり方や思いを語ってもらった。
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サッカー選手を「休憩」し、現在は会社経営や解説業などにいそしむ[写真]山口剛生
現在2社の会社経営に関わる
「今日は何だか皆さんの視線がキツいな」と登壇するや苦笑いを浮かべた播戸竜二さん。スポーツビジネスの世界に関心を抱く会場に集まった参加者を見渡しながら、サッカーファンばかりが集うイベントとは明らかに異なる雰囲気を察知し、いささか緊張した面持ちだ。
J1からJ3まで7つのクラブに在籍。Jリーガーとして21年間プレーし、日本代表としても活躍した39歳。気迫を前面に押し出したプレースタイルでスタジアムを沸かせたストライカーである。
大浦征也編集長に近況を聞かれると、「昨シーズン限りでFC琉球との契約を満了しましたが、正式に引退を表明したわけではありません。今はちょっと休憩中」とさっそく“バンちゃんスマイル”全開。会場の雰囲気を和ませた。
とは言いながらも、播戸さんは現在2社の会社経営に関わるれっきとしたビジネスパーソンである。今回の「SPORT LIGHT Academy」開催当日(2019年5月15日)も、Jリーグが主催するイベントを終えて会場に駆けつけるなど、精力的に動き回っており、常にアンテナを立て、スポーツ界とネットワーキングしている様子だ。「スケジュールを見て、空いている日があれば、経営者の方に会いに行ったり、知り合いの会社に連絡したり」と普段からアクティブに活動を行っている。
そもそも播戸さんがビジネスの世界を意識するようになった経緯は何だったのか? 司会を務める大浦編集長とのトークが始まった。
「30歳を過ぎたあたりからほぼ毎日のように自分のセカンドキャリアについて考えるようになりました。大宮アルディージャとの契約が終わった2017シーズン後、将来を思い悩んでいたとき、J3(当時)のFC琉球からオファーが届いたんです。
正直J3でプレーすることに対する葛藤もありましたが、シンプルに『まだサッカーをやりたい!』と思ったんです。そこでFC琉球に加入する際、自分なりの目標を掲げました。『J3で優勝する』と。そのためには自分は何をすればいいのか。それを1年間のミッションにしようと考えました」
当時J3のFC琉球からオファーがあったときは葛藤もあった[写真]山口剛生
沖縄で感じたスポーツビジネスの面白さ
初めてのJ3クラブ。経営面や運営面など、明らかにJ1、J2と規模が違う。飛びこんだからこそ知り得た実情。プレーヤーとはまた別の視点でクラブ全体を見るようになったと言う。
「だからこれまでのJ1やJ2での経験を元に頭ごなしにアドバイスするよりも、まずはJ3のさまざまな現実を一度受け入れてから、できるところから少しずつアドバイスをしていこうと考えるようになりました」
チームとして結果が出始めるとチームメートとの距離もだんだんと縮まった。チームメートのほとんどが20代。そんな中でベテランの役割を十二分に発揮し、FC琉球のJ3リーグ優勝に貢献。播戸さんもその瞬間をピッチ上で迎えた。そして今シーズン、FC琉球はJ2の舞台で戦っている。
沖縄では出会いもあった。BリーグのB1リーグに所属する琉球ゴールデンキングスの木村達郎社長をはじめ、多くの知己を得て、クラブ経営についても考えるようになる。沖縄で過ごした1年はスポーツビジネスの面白さを知る貴重な時間となった。
実体験に基づく播戸さんのエピソードに大きくうなずく参加者たち。トークはより深いスポーツビジネスの世界へと踏みこんでいく。
大浦編集長が長年スポーツの世界で見識を広めてきた播戸さんにスポーツ業界で働くためのヒントを聞くと、「ぼく自身、まだスポーツビジネスの世界で十分に働いているわけでもないですが」と前置きしながら、「例えば、今回のようなイベントがあれば、その場に足を運ぶ。これ大事やないですか。行かなかったら何も始まらない。まず行動することが大事」とトーンが高くなった。
「自分がやりたいことがあれば、小さくてもいいから一歩一歩進んでいく。そういう意識が根っこにあれば、どんな組織に入っても、前に進むことができると思いますよ」とアドバイスを送ると、業界の現状を知る大浦編集長から、「スポーツ業界への転職を考えるとき、専門性がなければ難しいと考える方がいらっしゃると思います。確かにかつてはスポーツ業界で働いた人が同じ業界に転職するケースが多かった。しかし、現在は以前と比較にならないほどビジネススケールが大きくなってきているので、同じ業界にいたというアドバンテージはなくなりつつある。求められるのは専門性よりもネットワーク。そういったネットワークを広げる上でも日ごろからアクションを起こすことに重要な意味があると思いますよ」とより具体的な助言が送られた。
スポーツ業界で働く上で「行動すること」の大切さを訴えた[写真]山口剛生
自分の思いを言葉にする方法
イベント後半には参加者との質疑応答も活発に行われた。
「プレッシャーを克服するためにはどうしたらいいのか?」と質問が飛ぶ。社会生活の中で、あるいは自らの人生設計を描くとき、少なからず心理的な重圧を感じる人も多いはず。転職を考えればなおさらだ。
強気なプレースタイルでならした播戸さんだが、自らの選手生活を振り返りながら、「プロ選手は精神的に強いと思われがちですが、実情は違いますよ。程度の差はあれ、日常的にさまざまなプレッシャーにさらされています。ぼく個人の経験から言えば、普段の練習でレギュラー組から外れただけでダメージを食らいますし、ふがいない試合をすれば、サポーターからブーイングを浴びたり、ミスした責任を過度に背負いこんでしまったり……。ですから気持ちを切り替える自分なりの対処方法をいくつか身につけておくといい。ぼく自身も若いころはプレッシャーに押しつぶされそうになって、眠れない夜を何度も過ごしましたから」と素直な心情を口にした。
また、「スポーツ業界で働きたいが、自分の気持ちをうまく表現できない。言語化する方法を教えてほしい」という切実な質問には、「(しばらく考えてから)言語化ってすごく難しい。考えても分からへんから、『やりたいからやる』、それでええんちゃうかなと思うところもある。それくらいの情熱があれば、ちょっとずつ自分の内側から言葉が出てくると思います」と播戸さん。
続けて大浦編集長が専門的な立場から、「日常生活の中で、『お仕事は何ですか?』と聞かれることがありますよね。ついつい職業を答えがちですが、WHATやHOWよりもWHYを語るような訓練をしていると言語化力は高まります。なぜその仕事に従事しているかを答えるわけです。何を提案するか、どう提案するかではなく、なぜ提案するのか。そう考える習慣をつけていくと言葉の力はより高まっていきますよ」と実用的なアドバイスを送る。すると間髪入れず、「勉強になります!」と叫ぶ播戸さん。会場も大いに沸いた。
2時間に及んだイベントの中で、何度も播戸さんの口をついて出てきた言葉がある。
「やるか、やらないか」
現役選手時代から数多くの修羅場を体験し、ピッチ内外でさまざまな経験を積み重ねてきた中で体得した感覚であり、信条なのだろう。そしてそれはビジネスの世界にも通じることを今、播戸さん自身が実感している。だからこそ、このシンプルなメッセージが熱を帯びる。
参加した30代男性はイベント後、「なかなか一歩足を踏み出すことができずにいたのですが、播戸さんの力強い言葉に背中を押してもらった気がします」と感想を語ってくれた。
そして、イベントを終えた播戸さんが、「何かを得よう、何かを感じ取ろうとする参加者の皆さんの鋭い視線をヒシヒシと感じ、スポーツビジネスの世界でがんばっていこうと考えている自分にとっても刺激的な時間でした。考えを整理し、思いを言語化する難しさ。いろいろな学びがあることをぼく自身が改めて感じています」と語ってくれた言葉もまた印象的だった。
播戸さんは「自分にとっても刺激的な時間でした」とイベントを振り返った[写真]山口剛生
text:dodaSPORTS編集部
photo:山口剛生
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










