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「スポーツは必ず“センターピン”になる」

鈴木 啓太さん

AuB株式会社 代表取締役CEO/元サッカー日本代表

スポーツビジネスの“リアル”を知るイベント「SPORT LIGHT Academy」第1回のゲストは元サッカー選手の鈴木啓太さん。浦和レッズや日本代表で活躍し、2015シーズン限りでスパイクを脱いだ鈴木さんは、幼少期や現役時代の経験から新たなキャリアを見出した。サッカー界にとどまらずビジネスマンの道を選択したのは、「外からスポーツ界、サッカー界を変えたい」と思ったからだという。

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    転身のきっかけは子どものころや選手時代の経験

    4月10日(水)、スポーツビジネスで活躍する秘訣を知るイベント 「SPORT LIGHT Academy」の第1回が開催された。

    プロスポーツの世界からビジネスの世界に転身した方や、プロスポーツ運営団体の責任者など、スポーツビジネスのリアルを知る方々を招き、doda編集長大浦征也との対談を通して、“スポーツ×ビジネス”で活躍する秘訣をひもとく本イベント。第1回のゲストには、元プロサッカー選手で現在はAuB株式会社CEOを務める鈴木啓太さんが招かれた。

    鈴木さんは東海大学付属翔洋高校(現・東海大学付属静岡翔洋高校)を卒業後、Jリーグの浦和レッズでプロデビュー。16年間のプロ生活の中で数々のタイトルを獲得し、日本代表としても活躍した。そして2015年、選手生活を引退した年にAuBを設立し、ビジネスパーソンとしてのキャリアを歩み始めることとなる。

    AuBではどのような仕事をしているのか、対談の冒頭で大浦編集長に尋ねられた鈴木さんは少し冗談っぽく、「アスリートの“うんち”を調べています」と語った。

    「要は腸内細菌に関する仕事ですね。アスリートのうんちを集めて、調べて、その研究結果をもとにサービスを提供する。例えば腸内細菌を検査して、そこから管理栄養士さんとともに食生活の改善までサポートするサービスなどを立ちあげています」

    鈴木さんが日々行っているのは体内からアスリートを支えるための研究だ。熱っぽい様子で話をする姿は、まさに“腸の専門家“といったところ。その過去を知らない人がいれば、元アスリートと気づくのは難しいかもしれない。ただ、突然に見える転身は実は昔から考えていたことであり、きっかけは「子どものころの経験」にあるという。

    「子どものころから母親に『人間は腸が一番大事だからね』と言われて、食事面にも気を使っていて。女の子に間違われるくらい体が細くて、アレルギー体質でもあったので、サプリメントもよく取っていました。実は高校生のころからすでに腸内細菌のサプリメントも取っていたんです」

    母親の教えをきっかけに芽生えた腸を整える意識。アスリートとしての経験がその意識をさらに向上させることになる。

    「おなかの調子が悪いときは確実にコンディションが悪かったんです。だから現役時代はおなかにお灸したり、食後に温かい緑茶を飲んだり、海外遠征に行くときはおなかに優しい梅干しを必ず持っていくなど、いろいろなことをしていました。
    そして選手を引退する直前に『うんちを調べている人がいる』という話を聞いて会いに行って、そこで『これをアスリートで調べたら面白いね』という話になったのが起業のきっかけになりました」

    幼いころから培われてきた意識や経験が、起業という選択をするにあたって大きな影響を与えていた。では起業後はどうだろう。アスリートとしての経験はどのような場面でビジネスに活きたのだろうか。話題は自然と鈴木さんの現役時代の話に移っていった。

    「似たもの同士」だという鈴木さんと大浦編集長が軽妙な掛け合いを見せる[写真]兼子愼一郎

    指導者になる選択は「まったくなかった」

    浦和レッズ加入前の裏話、海外のビッグクラブから移籍オファーをもらっていた話などサッカーファン垂涎のトークを交えつつ、鈴木さんは現役時代の経験から感じたスポーツビジネスの可能性を語っていく。

    「スポーツは将来的に、必ず“センターピン”になる」。センターピンとはボウリングの一番ピンのこと。それを倒すことでほかのピンを倒す波及効果が生まれる。つまり、スポーツにはさまざまな産業に波及効果をもたらすポテンシャルがあると鈴木さんは言う。

    「高齢化社会にあってヘルスケアは成長産業の一つ。そして未来をつくっていくのは教育です。子どもたちと高齢の方々、一緒に楽しめる唯一のものがスポーツだとぼくは思うんです。今の社会では難しい部分はありますが、将来的に間違いなく“来る”と思います」

    力強く語る様子から、スポーツへの愛がひしひしと伝わってくる。だからこそ、なぜ現場を離れたのかが気になってくる。しかし、「サッカーの指導者になるという選択はなかったんですか?」と尋ねた大浦編集長に対し、鈴木さんは「まったくなかったです」とキッパリ。その理由は「外からスポーツ界、サッカー界を変えたい」と思ったから。選手として感じていた業界の課題を解決するには、中からよりも外からのほうが早い。そう感じたからこそビジネスの世界に飛びこんだ。

    「中からコツコツ変えることもできると思います。でもその時間を短縮するためには、ぼくは一度外に出て、いろいろなことを学んで、いろいろな人を引き連れて戻ってきたほうがいいと思ったんです」

    この話に大浦編集長も同調し、今スポーツ界が求めているのは「異分野の知識を持ちこんでくれる人材」だと話す。「新しい血」が求められており、それによる「イノベーション」を期待しているのだと。

    質問コーナーでは参加者から次々と質問が寄せられた[写真]兼子愼一郎

    セカンドではなく、ネクストキャリア

    トークテーマが核心に迫る中、イベント開始から1時間半が経過。参加者同士の交流タイムを挟んだのちに、鈴木さんに対する質問が会場から募られた。

    「ビジネスにおけるリーダーとしての振る舞いで大事なことは何か」という問いに対して鈴木さんは、「大事なのは目標設定を明確にして共有すること」だと話した。それぞれが仕事に対してどれだけ納得できるか。そのためにはどちらかというと「リーダーではなくプロジェクトが重要」であり、そこに楽しさがあれば人はついてくると。

    大浦編集長はそれを「夢中」な状態であると話し、「やらされているわけでもなく、ものすごくやりたいわけでもなく、好きで自然とやってしまっていること」を導き出すことで人は動かせると言う。この補足には鈴木さんも「なるほど!」と相槌を打ち、メモを取る参加者の様子を見ながら「ぼくもメモしたいくらい」と大浦編集長の話に感じ入っていた。

    続く質問で「学生アスリートのセカンドキャリア」について意見を求められた際には、「セカンドキャリアというより、ぼくは“ネクストキャリア”と言いたい」と話した。

    「セカンドと言うと今までとは別ものという印象がある。でも本当は、もともと持っているものや培ってきたものが次のキャリアで活きると思うんです。だから“ネクスト”」

    子どものころや選手時代の経験をきっかけに起業した鈴木さんならではの持論を展開。その上で学生アスリートに対するアドバイスとして、「本を読むこと」を挙げた。

    「何をすればいいかという問いに正解はない。正解がないから面白い。本を読んだりして常に学んで、どうすれば面白いことを見つけられるかを考えてほしいです」

    鈴木さんも大浦編集長も、そして会場に集まった参加者もまだまだ話し足りないといった中、イベントは終了時刻を迎える。「この後飲み屋で続きやります?」という冗談を口にしつつ、イベントの感想を聞かれた鈴木さんは、「スポーツは今後絶対にセンターピンになると思います。けれどそれは“みんな”で作っていってこそだとも思っています。そのためにも、スポーツビジネスというものをこれからも皆さんと一緒に考えていけたらと思っています」とコメント。鈴木さん本人の希望で軽食などをつまみつつ、終始和やかなムードで進行したイベントは盛況のうちに幕を閉じた。

    終始楽しげな様子でトークを展開した鈴木さんと大浦編集長[写真]兼子愼一郎

    text:dodaSPORTS編集部
    photo:兼子愼一郎

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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