スポーツブランドの立場からもっとファンを楽しませたい
西脇 大樹さん
アディダス ジャパン株式会社 アディダスマーケティング事業本部 ブランドコミュニケーションズ,Football/Running シニアマネージャー
学生時代はバスケットボールに打ちこんだが、Jリーグクラブでのインターンをきっかけにビジネスとしてのスポーツに関心を持ち、大手企業でマーケターとしての経験を積んだ後、スポーツブランドのアディダスへ。さまざまなキャンペーンや企画に関わり、現在はフットボール&ランニングカテゴリーのブランドコミュニケーションの統括として「みんなが楽しめる」仕事にいそしむ。
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2012年に消費財メーカーからアディダスに転職し、今年で8年目[写真]山口剛生
学生時代からの思いを成就
———まず、これまでのキャリアを教えていただけますか?
最初は新卒で外資系の消費財メーカーのマーケティング部署に採用され、そこで5年弱、洗剤や化粧品のマーケティングをしていました。その後、2012年初頭にアディダス ジャパンに転職し、今年で8年目になります。
———転職のきっかけと経緯は?
学生時代からスポーツ業界のマーケティングの仕事をしたいという思いがありました。ファーストキャリアでマーケターとしての修業を重ね、自信を深めていく中でスポーツ業界へのあこがれが強くなり、ちょうどそのタイミングでアディダスが求人を出していることを知り、会社のリクルーティングサイトから自分で応募しました。
———学生時代からスポーツ業界で働きたいと思っていたのは、どんな理由からだったのでしょうか?
大学4年生のときにあるJリーグクラブでインターンをやらせていただく機会があり、それがすごく面白かったんですよ。今までぼんやりとしか見ていなかったスポーツ業界をキャリアとして考えるようになり、それから「いつかはスポーツ業界でマーケティングの仕事をしたい」と思うようになりました。
社内でのアピールが実り、2017年にフットボール担当に[写真]山口剛生
グローバルな規模で動く
———アディダス入社後はどのような業務を経験されたのでしょうか?
最初に配属されたのは、どのカテゴリーにも属さず、横軸でブランドのキャンペーンを展開する部署でした。そこに半年ぐらい在籍した後、ランニングカテゴリーから新しいシューズが出るタイミングで、そのブランドコミュニケーションを担う部署に移り、4年ぐらい携わりました。
2016年初頭にはあるランニングのプロジェクトで3カ月ぐらいドイツ本社で働く機会を得ましたが、心の奥底ではずっとフットボールに関わりたいという思いがあり、社内でアピールし続けたこともあって2017年初頭に、フットボールの商品企画の部門に移りました。そこでJリーグのアディダス契約クラブのユニホームやサッカー日本代表関連商品の企画、開発などを担当しました。
———現在はどのような業務を担当されているのですか?
2018年10月にフットボールとランニングのブランドコミュニケーションチームが合併し、それぞれのチームを取りまとめる立場にいます。ブランド戦略やフットボール、ランニングそれぞれのカテゴリーの広告、宣伝、PR、デジタル、イベント、店頭装飾、プロモーションなどをつなぎ合わせて一つのコミュニケーションを作る業務を担当しています。
フットボールには2人、ランニングには3人のメンバーがいて、そのチームがマーケティング活動全般をデザインし、他部門の専門家やドイツ本社の担当者を巻きこみながら全体のキャンペーンを作りだしています。
———スポーツ業界に入って驚かれたこと、イメージと違ったことはありましたか?
いわゆる“ゴリゴリの体育会系”の人間ばかりではなかった点ですね。体育会系の情熱が前面に出ている方もいますけど、純粋にスポーツが好きな人、見るのが好きな人、スマートにビジネスをやる人など、いろいろな人がいて面白いと思いました。
また、外から見ていたのは“日本のスポーツシーンの中でのアディダス”だったのですが、実際はグローバルな規模で物事が動いていて、すごく驚きました。スパイクやランニングシューズは世界中で売らなければならないものですし、ワールドカップは全世界に影響を与えるイベントです。世界規模の中で見た日本、という視点で考えなければならないのは、いい意味での驚きでした。
ランニングコミュニティ『adidas Runners Tokyo』の立ち上げイベント後、本社の同僚と[写真]本人提供
まずは自分たちが楽しむ
———学生時代、前職時代の経験で今の業務に活かされていることはありますか?
ドイツ本社との連絡は英語でやり取りをするんですけど、最初の会社に入ったときはほぼ“ゼロイングリッシュ”だったんですよ。外資系で社内の“公用語”が英語だったので、自分で英語を勉強し、日々使い、仕事に支障のないレベルになってからアディダスに移りました。
世界中で働いている異なる常識やバックグラウンドを持った仲間たちをまとめていくためのビジネス英語は、学生時代に学んでいた英語とは全然違うので、そういったものを習得できたのは大きかったですね。
もちろん今でもメール1本で済むところを、海外の同僚にあえて電話をかけて会話をしたり、通勤時にスマートフォンで海外のホームドラマを英語字幕で見たりして英語力を養っています。社内でも英語を学べる環境が用意されていて、希望すればマンツーマンのレッスンやスカイプでのオンライントレーニングを受けたりすることもできます。
それと、マーケティングの基本的なフレームワークを理論と実践の両軸で学べたことも今の仕事に役立っています。業界は違っても根本にあるべきマーケティングの考え方は共通しているので。
———仕事におけるこだわりや、特に意識していることはありますか?
何よりもまずは企画している自分たちが楽しんだり興奮したりワクワクしたりできることを形にしようと意識していますし、チームのみんなにも言っています。担当者の熱量はマーケティング活動を通して、良くも悪くもお客さまに伝わりますし、いろいろと面白いことが仕掛けられる環境にいるのに自分たちが楽しめなかったらもったいないですからね。
その一方で、戦略的に物事を考えるということも強く意識しています。誰に、何を、いつ、どうやって伝えれば人の心を動かし、商品が売れるようになるかというのを、自分の言葉でしっかり説明できるところまでプランを磨きあげてから実行に移すよう心掛けています。
勢いだけでやろうとするとその後の学びもないですし、なぜ売れたのか、売れなかったのかが分からず、次につながらないですからね。それと、チームのみんなが充実感を持って取り組み、結果を出して成長できるようにサポートすることも大事にしています。みんなが自分の役割を果たし、結果を出して充実感、成長感を得られるようにしていきたいと思っています。
———今までやってきた中で、特にやりがいを感じた仕事はありますか?
1つはランニングでの最初の仕事です。『BOOST』というミッドソールを搭載したシューズを初めて世に出すプロジェクトだったんですが、まったく新しいものでしたし、値段も少し高かったので、本当に売れるのかと懐疑的な目もありました。そうした中で、他のカテゴリーの部署にも協力を仰ぎ、サッカー選手、野球選手も起用しながら包括的で大きなプロモーションを作ることができました。
もう1つは、サッカー日本代表チームが、ロシアで行われるワールドカップ本大会の出場権を獲得する瞬間にアディダスとして何ができるかを考え、出場決定記念Tシャツの企画を中心としたキャンペーンを作ったことです。(W杯出場が決まった)オーストラリア戦に向けてドイツ本社、日本サッカー協会を巻きこんで商品を作り、流通先とも事前に話しこみ、PRの仕込みや、ソーシャルプラン、クリエイティブも準備しました。
当日は選手担当者が選手着せこみ用のTシャツを持って試合現場でスタンバイし、夜中でしたけど販売できる状態をチームみんなで整えて、あとは祈るだけでした(笑)。そこで日本が勝ってW杯出場を決め、選手たちがTシャツを着てピッチを歩いている様子が放送されて、すぐにそれが売れて、同時にTシャツに込めた我々のメッセージも世の中に伝えることができました。このリアルタイム感、ライブ感こそがスポーツブランドにおけるマーケティングの醍醐味だと感じられた、すごく充実した仕事でした。
ワールドカップが開催されたロシアに仕事で行き、サッカー日本代表を応援[写真]本人提供
意見の衝突も大歓迎
———スポーツ業界で働くことの一番の魅力を教えてください。
ドラマには筋書きがあるけど、スポーツには筋書きがないのがすごく面白いですね。マーケターは目指すべきビジネスゴールから逆算してマーケティング戦略を作り、プランを実行するんですけど、スポーツってどうしても試合の結果や、チーム、選手の状態などいろいろなものに左右されます。
自分が影響を及ぼせないところで状況が日々、変わっていく中で、どうやって商品の魅力を伝えるかを考えながら取り組むのはすごく面白いですし、飽きないですよね。
———この仕事における夢や目標は?
いつかは海外でより多くの、いろいろな文化やスポーツの習慣を持つお客さまに向けて、マーケティングをしていきたいです。それと、入社したときからの夢の一つがサッカー日本代表を盛り上げていくことなんです。アディダスからサッカー日本代表を中心に、もっとファンを楽しませ、盛り上げていきたいと思っています。
———現在、チームは西脇さんを含めて6人ということですが、新たにメンバーを加えるとしたら、どんな人がいいですか?
要素として3つあります。まずは、当たり前ですけどスポーツが好きであること。思いどおりにいかないこと、失敗することもあるんですけど、根本でスポーツが好きであれば踏ん張れるので、まずはそこですね。
2つ目は、職能としてのマーケティングに興味と情熱がある人に来てほしいです。アディダスというブランドや商品をうまく使い、人の心を動かしたり、ものが売れていく必然をデザインし実行していくことに興味のある人がいいですね。
3つ目は、何事においても自分の意見や主張をちゃんと言える人がいいです。言われたことをやるだけではあまり面白くないですから。それで意見が衝突するのも大歓迎です。そうしないといいものを作ることはできないし、強いスポーツチームは強烈な個性の持ち主が集まり、ぶつかり合いながらいいチームになっていきますからね。ぼくも自分のチームがそうなるようにしていきたいです。
「スポーツには筋書きがないのがすごく面白い」と笑顔を見せる[写真]山口剛生
interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:山口剛生
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










