バスケ好きでなくても楽しめるアリーナに
蓑輪 えりかさん
トヨタアルバルク東京株式会社 ビジネスオペレーション アシスタントマネージャー
スポーツ経験ゼロ、スポーツ観戦歴もほぼゼロ。スポーツにまったく興味がなかった蓑輪えりかさんはなぜ転職先にバスケットボールクラブを選んだのか。しかも、希望して入った部署は、チームや選手の魅力を伝える広報部だった。関心がなかったからこそできる独自のPR戦略、リーグの頂点に立って気づかされたクラブの現在位置とは。
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新卒で入った人材サービス系企業では飛びこみ営業も経験[写真]新井賢一
営業、制作、そしてPRへ
———これまでの経歴を教えてください。
新卒で人材サービス系の企業に入社して5年ぐらい営業を担当しました。それから営業所を統括する部署に異動して、販促の企画やフリーペーパーの編集などを任されました。各営業所の売り上げにつながる代理店向けの企画を考えたり、ずっとフリーペーパーの営業をやっていたのでその経験を活かして制作に携わったり。そこに4年ぐらい在籍して、その後制作の部署に配属されました。
———営業時代は具体的にどのような業務を担っていたのでしょうか?
飛び込み営業が多かったです。新人の頃は1日100件回ることもあったので本当に大変でした(苦笑)。あまり自分には向いていなかったと思っていましたし、よく5年も続けたな、耐えたなと。ただ、いろいろな業界の方々と関わって、素人目線でいろいろなお話を聞けたことはいい経験になりました。
———それから企画・制作の部署に異動しています。
営業所がたくさんある中で、私はフリーペーパーの営業を担当する専門部署にいて、新規営業をずっとやっていたので「フリーペーパーに精通している」という印象を持ってもらっていたようで。そうした実績を買われて、「企画などを考えてみないか」と誘ってもらい異動しました。自分でも営業はキツいなと感じていて、そろそろキャリアチェンジしたいと考えていたのでいいタイミングだったと思います。
新しい部署では「フリーペーパーの売り上げを伸ばしてくれ」と言われ、企画を立てたり、フリーペーパーの編集を担当したりしていました。それと並行して、大々的なプロモーションの時期に企画を立案して、社長にプレゼンして、予算を取って、と売り上げ増につながる施策を打っていました。その後、制作の部署に異動してからは編集業務のほか、会社説明会から面接まで新卒採用も担当しました。
———そうしたキャリアを経て、まったく異なるバスケットボール業界に足を踏み入れたきっかけは?
PR系のお仕事に興味を持っていて、転職を考えていた時期にいろいろな方とお話をさせていただいたのですが、その中である方にアルバルクを紹介していただきました。面接でもPR系のお仕事がしたいとお伝えし、2017年の夏ごろにアルバルク東京に入社して広報業務に関わることになりました。
ただ正直に言うと、スポーツ業界は面白そうだなと思いつつも、そこを一番に目指して、というわけではありませんでした(苦笑)。
「PR系のお仕事に興味を持っていて」アルバルク東京に入社[写真]新井賢一
未知の業界にチャレンジ
———これまでスポーツ経験は?
一切ないです(笑)。私は3姉妹の長女で、男兄弟がいなかったこともありスポーツに触れる機会がありませんでした。これまで試合を見ることもほとんどなかったです。唯一、大学時代に野球サークルのマネジャーをやっていたので、それでようやく野球のルールを理解したぐらいで(笑)。
———スポーツにあまり関心がない中でバスケットのクラブで働くというのは変わった流れですね。
逆に面白そうだなと思ったんです。自分が関わってこなかった業界だったので、チャレンジしてみたいなと、そこで知らない世界が見られるんじゃないかと。
———現在はどういう業務を担当されているのでしょうか?
固定のものは広報業務と、ホームゲーム時の飲食店周りの統括で、そのほかにイベントなどの企画ものも担当しています。広報チームは4名いて業務を分担しているのですが、バスケットをきちんと理解しているメンバーがチームや選手に関するメディア対応を受け持っています。私はそれ以外の部分、例えば地域やイベントなどの広報業務を担っています。
飲食店周りについては、アリーナのコンコースに出店しているお店とのやり取りや、そのエリアのPRなどが主な仕事です。企画ものは、最初に関わったのがBリーグの西日本豪雨復興支援活動で、ほかにも他クラブと合同で実施した東急電鉄の列車のラッピングなどを担当しました。
———ホームゲーム開催時はかなり忙しいのではないでしょうか?
会場を作る大掛かりな部分、会場設営の部分は、外部の協力会社の方にお願いしていて、私たちは担当ブースをセッティングしたり、イベントがあればその準備、対応をすることがメインになります。
15時5分開始のゲームだったら、朝9時から10時の間にアリーナに来て、10時半からミーティングを行います。その後はずっとコンコース周りの対応をしているので、試合はあまり見られません(苦笑)。
撤収作業がない日は試合後数時間で帰宅しているので、作業自体はそれほど過酷ではないと思います。ナイトゲームだと帰りが遅くなったり時間が不規則なのは大変ですけど。
シェーファー アヴィ幸樹(左)ら所属選手とのコラボ商品の開発も[写真]アルバルク東京
自分の感覚を活かせる
———選手との関わりはあるのでしょうか?
クラブオフィシャルの媒体で選手のインタビューをしています。いつも必死に作っていますけど、文章のプロの方に見せられるレベルではないです(苦笑)。制作時間が限られるので難しいですね。
あとキャンペーンやサインの協力を依頼したり、SNS担当の者と一緒にお願い事をしたり。それと今シーズン、アリーナで選手考案のオリジナル弁当を販売しているんですけど、そこでも選手とやり取りしています。
———今の仕事でのこだわりなどはありますか?
スポーツを全然知らずに入っているので、同じようにスポーツを知らない、見ない人たちに向けてどうすれば響くかというのを意識しています。そこは強みというか、同じような感覚を持っているので。
自分の経験で言うと、例えばサッカーの試合の楽しみ方が分からなかったんです。応援している選手、チームもないし、競技自体も理解していなくて。でもサッカーって地域や企業と連携していろいろな商品を出したり、イベントを実施したりしていて、サッカー好きでなくても楽しめます。
バスケでも同じように取り組み、誰でも楽しめるアリーナを目指していますけど、そうした企画を考える上で、スポーツに興味がなかった自分の感覚は活かせているかなと思っています。
———バスケットの仕事ではどんなところにやりがいを感じていますか?
SNSなどで、お客さんから良い反応があったときは、やっていて良かったなと思います。喜んでもらえたときはうれしいですし、改善の余地があるんだなと分かったときも改めてやりがいを感じます。
アリーナのコンコースでグッズ販売をサポートすることもある[写真]アルバルク東京
まずはチーム名を知ってもらう
———大変に感じるときは?
時間が不規則なところですね。試合の時間に縛られてしまうので、合わない人もいるかもしれません。実際、私も家族から心配されることがあります(苦笑)。ナイトゲームで撤収作業があると夜遅くなりますし、代わりに休めるときにはしっかり休みますけど、規則的に働いている方からすると違和感があるかなと。
日程によっては極端に忙しいときもあって、開幕前は本当に忙しいんですけど、ただ昨シーズンのようにリーグ優勝したことによる忙しさもあり、そういう“うれしい忙しさ”もあります。
———リーグ2連覇を目指すシーズンを戦っていますが、今後の目標や夢はありますか?
すごく言いにくいことですけど、優勝してもまだ「アルバルク東京」というチーム名を知らない方がたくさんいます。もっと言えば、東京の中だけでもバスケの試合を見たことがない人がまだたくさんいます。ですので、まずは名前を知ってもらうこと。名前を言えば「ああ、あのクラブね」と言ってもらえるようにしたいです。そのためにも私たちフロントがもっとがんばらないといけないと思っています。
———そうした目標がある中、バスケット業界にはどんな人に来てほしいですか?
スポーツ業界で働きたいと思っているスポーツ好きの方はたくさんいると思うんですけど、その想いにプラスして、アイデアを形にするためにきちんと力を注げることが大事だと思います。
スポーツクラブってスタッフの数がそんなに多くないんですよ。縦割りで業務がきっちり分かれていてというわけでなく、一人でいくつものことを掛け持つことが多いんですよね。だから一人ひとりの責任が大きいですし、それぞれの業務に対して責任を持ってやりきらないといけない。常に面白いことをキャッチできるようにアンテナを張りつつ、アイデアが浮かんだら最後までやりきる。そういう方に来てほしいですね。
スポーツ業界ならではの“うれしい忙しさ”もある[写真]新井賢一
interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:新井賢一
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










