“ユーザーサプライズファースト”で本当に楽しめるものを
梶原 駿さん
株式会社ミクシィ スポーツ事業推進室 事業開発グループ
SNSサービスやスマホゲームを展開するミクシィは、2017年7月にバスケットボール、Bリーグの千葉ジェッツと、2018年10月にサッカー、JリーグのFC東京とスポンサー契約を締結。スポーツ事業推進室の梶原駿さんは新たなスポンサードチームとして2019年2月に発表したプロ野球球団、東京ヤクルトスワローズを担当する。
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スポンサードする東京ヤクルトスワローズの事業を担当[写真]山口剛生
BCリーグを経てミクシィへ
———ミクシィでは日々どんな仕事をされているのでしょうか?
スポーツ事業推進室という部署に所属しています。この部署ではミクシィのエンターテイメントブランドである『XFLAG』がスポンサードしているチームや、個人選手のマーケティング支援などを行っており、その中で私は、東京ヤクルトスワローズを担当し、一緒に野球界を盛り上げていこうと、アクティベーションのプランニングなどさまざまなことに取り組んでいます。
———ここに至るまで、どういったキャリアを歩んできたのでしょうか?
新卒で富士通株式会社に入社し、公共系のシステムの営業をしていました。そこで3年弱お世話になり、ご縁があってプロ野球の独立リーグ、ルートインBCリーグに転職し、スポンサーセールス、マーケティングなどリーグ全体の事業統括を担当しました。そこでは4年弱働き、その後フリーランスとしてBCリーグの業務を手伝いつつ、女子ソフトボールリーグのアドバイザーなどを務め、2018年12月にミクシィに入社しました。
———ミクシィに転職したきっかけは?
ヤクルトスワローズへのスポンサード発表が2019年2月だったので、それがきっかけのように思われるかもしれないですけど、入社時にはそういう話はなくて。「将来的に野球に関わることを検討しているので来てほしい」とオファーをもらい、入社することを決めました。そのときは、バスケットの千葉ジェッツ、サッカーのFC東京のように、野球界でのさまざまな取り組みを探っている最中でした。
15人のプロジェクトチームでプロ野球チームと向き合う[写真]山口剛生
スピーディーな意思決定
———ミクシィは2月17日にヤクルトスワローズにスポンサードすることを発表しましたが、なぜ野球チームのヤクルトスワローズだったのでしょうか?
私が入社した2カ月半前は、ミクシィが野球界でも新しいコミュニケーションを生みだしたい、ファンの熱狂を創出したいという理念のもと、タッグを組めるチームを探っているところでした。野球はファン人口も、ビジネス規模も、日本のスポーツ界で一番ですし、バスケとサッカーに関わっている中で「野球は?」という声も大きかったので。
いろいろなお話を聞かせていただく中でスワローズの話が浮上し、渋谷エリアに居を構える我々のオフィスの近くに本拠地があること、これまで以上にファンに向けてサプライズを起こしていきたい、という思いが合致したことなどからスポンサードさせていただくことになりました。
———最初の話し合いから発表に至るまでは、どれぐらいの期間を要したのでしょうか?
具体的な交渉のタイムラインについてはお話しできないのですが、スワローズと今回の取り組みに関する具体的な協議が始まってから社内決裁に至るまでは、非常に短い期間でしたね。これまで野球へのスポンサーを検討する下地はもちろんありましたが、球団からのご協力はもちろん、社内のリソースも一極集中させてスピーディーに発表まで進めました。
スポーツに懸ける思いや、タッグを組ませていただいた後の期待感が大きかったからこそ、各所の協力が得やすく、このスピード感で進めることができたのではないかと思います。もちろん、シーズンが始まる前のタイミングということもあったので、そこに合わせたのもあります。
———ヤクルトの事業を推進するプロジェクトチームは全部で何人くらいいらっしゃるのでしょうか?
メインの担当は私を含めて2人です。ただ、PRやマーケティング、ブランディングなどいろいろな部署が関わっているので、全体では15人はいると思います。各分野のプロフェッショナルをアサインして事業を進めています。
———これからヤクルトとどんなことをやっていきたいと考えていますか?
当社の理念として「ユーザーサプライズファースト」というものがあり、野球で言うと「ファンサプライズファースト」ということになるかと思いますが、その意識は私たちにとって欠かせないものです。
ファン以外の方にも、野球の新しい楽しみ方を提供できるように、球場を含めた「ボールパーク」とも呼ぶべき空間に、我々だから提供できる価値を付け加えていきたい。まずは、年内に予定している冠試合で、これを存分に発揮したイベントなどを実施できればと考えています。
———ちなみに、これまで個人的にスワローズと接点はあったんですか?
私は大学まで野球をやっていました。全日本大学選手権はスワローズの本拠地である明治神宮野球場で行われており、チームで出場しましたし、2軍が使用している戸田球場を練習でお借りしていました。また、所属していた龍谷大学野球部のコーチはスワローズ“黄金期”のセットアッパーだった山本樹さんでした。
私は関西出身なのですが、実は、これといってファンだったチームはなく、強いて言えばつば九郎のファンでした。これは本当です(笑)。また、BCリーグには、(元スワローズの)高津臣吾さんや岩村明憲さんが選手や指導者として在籍されていたので、そのご縁も感じています。
2019年3月17日に行われた東京ヤクルトスワローズの出陣式にも参加[写真]XFLAG
ファンに思いを届けたい
———仕事に取り組む上でのこだわりなどはありますか?
“ユーザーサプライズファースト”は常に意識しています。顧客視点を考慮しながら、ユーザーやファンに押しつけるのではなく、本当の驚きや楽しさを提供できるかどうか。プランニング段階でも、そうした点を意識しています。
———今の仕事のやりがいはどんなところに感じますか?
やはり、任せてもらっていることの規模の大きさやスピード感にはやりがいを感じますね。それと社内外含めてその分野のプロフェッショナルな方々と、「ファンに思いを届けたい」という同じ気持ちで仕事ができることは大きなやりがいです。
ヤクルトにスポンサードするという規模の大きさ、短期間で決めるスピード感、それをプランニングするマーケティングチームや世に出すPRチーム、いろいろなメンバーと一緒に仕事ができるのも楽しいですね。
———では逆に大変に感じることは?
まず、クレバーでいろいろな考え方を持つスタッフがたくさんいることです(笑)。「同じ気持ち」と言っても、そこにはいろいろな考えがあるんですよね。ミクシィは転職組が多く、いろいろな企業で活躍してきた30代、40代のメンバーもいて、そういう人たちの思い、考えをまとめてプロ野球球団と向き合っていくのは本当に大変です。
どれも素晴らしい意見で、それらすべてのいいとこ取り、というわけにもいかず……。貴重な意見ばかりなので、うれしい悲鳴ではあるのですが(笑)。
———学生時代や前職のご経験で、今の仕事に活かされていることはありますか?
学生時代にスポーツマネジメントやスポーツビジネスを専攻していて、この業界に足を踏み入れて10年ぐらいになります。その当時からお世話になったり、勉強させていただいたりした方々とも今一緒に仕事をさせていただいていまして、これまで培った人脈や、学んできたことが活かせているのかなと思いますね。
また、大学まで野球を続けた経験は、現場を知っているという意味で大きいと思うことが多いです。それと新卒で、スポーツとはあまり関係がなかった富士通に入ったこともいい経験になりました。
———スポーツから離れたのは意図的だったんですか?
はい。周りの方々からいろいろなアドバイスをもらいました。スポーツ界に貢献するためにはビジネスを学んだほうがいいと、まずは違う世界で勉強してこいと。それでご縁のあった富士通を選びました。
富士通では公共システムなど大規模プロジェクトのマネジメントや、大きな予算の取り方などを学ぶことができましたし、スポーツ界では出会えないような方々とも一緒に仕事ができたので、自分にとっては大きな糧になっています。
BCリーグでも、26歳ぐらいでリーグの中心で仕事をさせてもらい、すごくいい経験になりました。事業推進、スポンサー営業、マーケティング、球場でのイベント運営やチケットのもぎりまで、本当に広範囲の業務を経験させていただきました。
新卒時にあえて野球から離れ、再び野球業界に戻ってきた[写真]XFLAG
スポーツを通したつながり
———BCリーグで働き、現在はスワローズと向き合っています。野球界に関わる仕事の一番の魅力はどんなところですか?
先ほども申しあげましたが、日本のプロスポーツでファンの数やビジネス規模が一番大きいところです。それと、現在は外部からサポートさせていただいている立場ですし、野球に限ったことでもないですけど、ファンの盛り上がりやリアクションなどがダイレクトに伝わってきたり、勝敗時の感情などを共有できたりするところも大きな魅力だと思っています。
———今の仕事を進めていく中で一緒に働きたい人材は?
少し偉そうな言い方かもしれないですけど、自分も言われてきたこととして、ただのスポーツ好き、野球好きでは厳しいかもしれません。そういった意味では、スポーツをコンテンツと捉えて、ビジネスに変えていく力が必要だと思います。思いだけでなく、考えだけでなく、それを実行に移せる人。物事を進める上での課題を一つひとつクリアする実行力がないと何もできません。
また、個人的な視点で言うと、それぞれのスペシャリストとは、ぜひ一緒に仕事がしたいですね。スポーツビジネスを広げていくには、自分たちに知見がない分野の方々の協力も必要だと思いますし、そうした方々と共通の思いを持って取り組んでいけたらより大きな目標や夢もかなえられるのではないかな、と思っています。
「スポーツをコンテンツと捉えて、ビジネスに変えていく力が必要」と考える[写真]山口剛生
interview & text:dodaSPORTS編集部
photo:山口剛生
※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。










