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広報として目指すは日本一の人気クラブ

柳田 佳広さん

東京フットボールクラブ株式会社 広報部

小学生の時からスポーツチームで働きたいと考えていた柳田佳広さんは、一般企業から転職して念願を成就させた。そして、着任から約10年が経った昨年、新たなポジションである広報としてチームを支えている。時として堅苦しいリリース配信もあるが、自身は「皆さんに喜んでもらいたい」との思いを根底に持ち、クラブの“顔”として情報発信を続ける。

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    柳田さんは7人在籍する広報部で主にプロモーション全般と制作物を担当[写真]新井賢一

    ファンに喜んでもらいたい

    ———FC東京は7人の広報スタッフが在籍しているそうですが、どのような業務を担当されているのでしょうか?

    広報はクラブの情報発信を統括しています。プレスリリース、ホームページやSNSで出す情報の内容をまとめたり、発信スケジュール管理をしたり、その他ポスターやマッチデープログラムなどの制作物も担当しています。クラブによって人数は異なりますが、それは業務の分け方が違うだけで、当クラブでは広報部が幅広い範囲を担当しているため7名在籍しています。

    プロモーション全般や制作物を担当するぼくのほかに部長、チーム付きの現場担当、ホームページ等のWeb担当、アカデミー担当、SNS担当、デザイナーとそれぞれ役割が分かれています。デザイナーを抱えている広報部はもしかしたら珍しいかもしれません。

    ———日々どんなスケジュールで動いているのでしょうか?

    練習が始まる9時に出社して12時ぐらいまでメディア対応やファン対応、練習終了後の取材対応、それとホームページやSNSの発信スケジュールの確認などを行っています。午後はポスターや冊子などオフィシャルの紙媒体の素材を集めたり、リリースを作成したり、移籍期間中は相手先のクラブと連絡を取り合ったり。日によって作業が変わってきます。

    ———今の仕事のどんなところが楽しいですか?

    自由にやらせてもらえるところですね。ぼく自身はくだらないことが好きなんですよ(笑)。昨年の多摩川クラシコ(川崎フロンターレ戦)でPPAPのパロディをやったり、今年のヴィッセル神戸戦で(アンドレス)イニエスタのそっくりさんに来てもらったり。そういうクスっと笑ってもらえることをやって皆さんに喜んでもらえたらと思っています。

    ぼくはファン・サポーターの皆さんが、ワクワクしていたり、そわそわしていたり、いろいろな思いを持ってスタジアムに入ってくる姿を見るのが好きで、楽しみにして来てくれた皆さんに何かをして喜んでもらえたらと思っています。

    試合時はメディア対応のほか、イベント対応なども行う[写真]新井賢一

    一般企業を経て転職

    ———現在はサッカークラブで働いていますが、もともと興味を持っていたんですか?

    小学校5、6年のころから球団職員になりたいと思っていました。その時は阪神タイガースのファンで、野球の球団職員になりたいなと。ぼくは3人兄弟の末っ子で、長兄が脳性麻痺で身体障がいと言語障がいを持っています。兄にとってそのハンディキャップはコンプレックスだったと思いますし、両親にとっても「障がいを持たせてしまった」という思いがあったと思います。

    その兄は阪神が大好きで、地元にある甲子園球場にもよく応援に行っていました。毎日のスポーツニュースを見て、阪神が勝ったら喜んで、負けたら落ちこんで。兄にとって阪神は日々の生きる糧であり、野球を見ている時は活き活きしています。その姿は両親にとっても救われる思いだったかなと思います。

    それを見ていて、スポーツは偉大だな、自分も携わって恩返しをしたいなと。ただその当時からプロ選手ではなく、球団職員になってスポーツを仕事にできればと思っていました。

    ———中高生になってからもその思いは変わらなかったのでしょうか?

    そうですね。ずっと頭の中にありました。ただ、高1の時にサッカーのワールドカップ・フランス大会(1998年)があって、そのころからサッカーにも関心を持つようになりました。阪神は変わらず好きでしたけど、いつからか自分の中では野球の球団よりもサッカークラブで働きたい気持ちが大きくなりました。野球は日本とアメリカのスポーツ、サッカーは世界のスポーツという感覚があって。

    ———そこからどうサッカークラブにたどり着いたのでしょうか?

    大学生になって就職活動をする時にクラブに入りたいと思いながら、入り方が分からなくて結局一般企業に就職しました。ちょっと迷いもあったんです、本当にクラブで働きたいのかという。だから一般企業に就職して、それでもクラブに入りたいと思ったら今度こそ本気で転職活動をしようと。

    入社したところはIT企業で、自分はCRM支援サービスを担当しました。顧客情報を集め、その顧客の嗜好に沿ったサービスを紹介して、というマーケティングです。その会社の寮が、味の素スタジアムに近い東府中にありました。

    寮に引っ越すため、兵庫から東京に出てきてすぐ、ちょうど東京ダービー(FC東京vs東京ヴェルディ)がありました。特にどちらが好きというのはなかったんですけど、同い年の石川直宏選手と茂庭照幸選手が在籍していたFC東京側の席で観戦しました。それからFC東京が何となく気になるチームになりました。

    ———まさか転職することになるとは思っていなかったと思います。

    その時はまったく思っていなかったです。でも一般企業で2年ぐらい働いて、やっぱりクラブで働きたいと強く思うようになり、まずはシーズンチケットを買ってファンとして通うことにしました。1年を通して見れば、クラブのいろいろなことが分かるんじゃないかと。

    それから、試合に足を運んでいるうちによりクラブが好きになり、誰がスタッフかもわかるようになってきて、思いきってスタッフに声を掛けたんです。「どうしたらクラブに転職できますか?」と。今思い返すと考えられないですけど、「じゃあ履歴書もらえる?」と言われ、後日面接をしてもらいました(笑)。

    ———珍しいルートですね(笑)。

    ただその面接では「今回は合否を出すものではなく、欠員が出た場合は検討する」と言われました。それが確か1月ころだったんですけど、それから数カ月後、シーズンチケットを更新した後に(笑)、自分も予想していなかったタイミングで採用の連絡が来ました。

    初観戦した2004年4月3日の東京ダービーではFC東京が勝利[写真]本人提供

    選手引退時に抱えた葛藤

    ———晴れてサッカークラブに入り、どういう仕事から始めたのでしょうか?

    顧客管理をするファンクラブの部署に配属されました。前職でも顧客管理を担当していたので、その経験が役に立ちました。会員を増やすことが目標で、会員向けのサービスを考えたり、子ども向けのイベントを実施したり、会報誌を作ったりしていました。

    ———広報はいつから担当するようになったのでしょうか?

    10年近く顧客管理関連を担当して、昨年から広報部配属になりました。自分でもそろそろ異動かなと思っていた矢先でした。

    ———まだ広報としては長くはありませんが、これまでで特に思い出に残っている出来事は?

    石川直宏選手の引退ですね。自分が広報になってすぐに、そのシーズン末に引退する決断をしたということで記者会見の準備等を水面下で進めて。今ここにいるきっかけの選手なので、すごく残念でしたけど、広報としてその瞬間に携われることへの感慨深さもありました。

    「引退してほしくないな……」と個人的な思いを抱えつつ、でも「引退したなんて知らなかった」と世間の人に言われたくないなと思って、ポスターなどの制作物や発信方法は趣向を凝らしました。

    発表後に各メディアから取材希望が来て、その中にはテレビ局の密着取材もありました。広報として露出を考える半面、プロ選手として最後の大事な時期なので負担を掛けたくないという思いもあり、そのあたりに難しさを感じました。

    石川直宏氏は今シーズンからクラブコミュニケーターを務める[写真]兼子愼一郎

    スタッフの“プロ化”

    ———今後挑戦したいことはありますか?

    自分の夢は、日本代表がW杯で優勝することです。その時にどういう形で関われるかは分からないですけど、W杯優勝から逆算して考えると、Jリーグの活性化は不可欠だと思っています。

    Jリーグを盛り上げるには首都東京にあるチームが日本一の人気でなければいけないと思うので、まずはFC東京を一番の人気クラブにしたいです。FC東京を「強く、愛されるチーム」にして、味スタを満員にすること。それが最初の目標です。

    ———それを成し遂げる上で、クラブに今課題はありますか?

    自分たちだけでなくサッカー界全体で見ても、ビジネススタッフの“プロ化”が必要だと思います。当クラブも今は人を育てられるほど盤石な組織ではないので、新卒の方よりも違う業界でいろいろなことを学んできた方に来てもらうほうがいいかなと思っています。

    具体的に欲しい人材はSNS、CRM、映像制作のプロフェッショナルです。業界としてまだまだ弱い分野であり、今後強みにしないといけないところなので、ぜひ来てほしいですね。

    「SNS、CRM、映像制作のプロフェッショナル」を求める[写真]新井賢一

    interview & text:dodaSPORTS編集部
    photo:新井賢一

    ※人物の所属および掲載内容は取材当時のものです。

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